手作りお菓子を売る夢を叶えるきっかけに—「すたーとあっぷきっちん」創業者の木村さんにインタビュー

投稿者: | 2017-03-07


——自分で作ったお菓子やパンを販売してみたい。

そんな夢を持つ人が第一歩を踏み出す際に直面するのが、保健所の営業許可付きキッチンの必要性。食品を製造・販売するためには、まず菓子製造許可付きの場所が必要なのです。

「すたーとあっぷきっちん」は、この問題を解決するべく名古屋にオープンしたレンタルキッチンです。飲食店営業許可・菓子製造業許可を取得し、食品衛生責任者が設置されています。

今回は創業者の木村優子さんに、起業のエピソードや今後の展望について、お話をお伺いしました。

木村さん

木村優子さん

1988年生まれ。名古屋出身。建築を学びハウスメーカーに勤務。働く中で食の大切さに気づき、栄養士の専門学校へ入学。在学中にパン教室をする傍ら、教室に来られない方にもパンを届けたいと思い、2015年10月に菓子製造許可付きレンタルキッチン”すたーとあっぷきっちん”を始める。

ー 普通のレンタルキッチンではなく、「保健所の許可付きキッチン」にこだわる理由は?

テーブルとごはん

岩渕:「食」に関するスタートアップは珍しいということですが、木村さんはどのように起業に至ったのでしょうか?

木村:もともとは、建築系の仕事でサラリーマンをしていました。しかし、仕事が長続きせず、持病も発覚し、一年半で会社を辞めてしまいました。「食」についてきちんと学ぼうと、その後は栄養士の専門学校に二年間通い、それから起業に至りました。母が管理栄養士で、もともと「食」には興味がありました。

岩渕:専門学校に通っていた頃から、すでに起業することは考えていたのでしょうか?

木村:そうですね。学校に通っていた頃から、シェアスペースでパンやパスタ、グラノーラなど、好きなものを自由に作るワークショップをしていました。

でも、作ったものを売りたいと思っても、保健所の許可がないので売れなかった。売りたいと思っても実家しか場所がなかったですし、保健所の許可のもとで販売するには、そのためにまた別で部屋を持つ必要があるのです。

「すたーとあっぷきっちん」は、「外向けに販売してみたい。そのための厨房が欲しい」という私の思いから始まりました。それが起業の一番の理由です。

岩渕:なるほど。ご自身の食品の製造・販売を望む気持ちから生まれたキッチンだったのですね。

起業は、全て一人で始めていったのでしょうか?保健所の許可付きキッチンの前例は少なかったとお聞きしています。起業時のエピソードを教えていただけますか?

木村:そうですね。実はアメリカではすでに、「インキュベーションキッチン」として成功例がありました。でも私の身近には教えてくれる人がいなかったので、まずは保健所に通って情報を集めることから始めました。
また、誰かと一緒に起業する選択肢もありましたが、仲間とお金のことで関係が変わるのは嫌だったので、一人で気楽にやろうと考えました。

岩渕:現在のキッチンの場所は、どのように決めたのでしょうか。

木村:検討した物件は約20~30件、結局1年程かけて決めました。前にハウスメーカーで働いていたこともあり、図面を見ればだいたい使いやすいキッチンかどうかがわかるんですよ。「この位置に壁があるから、シンクが使いにくい」とか、「トイレとキッチンの間に壁はあるか?」、「物品を搬入しやすいか?」などのポイントは重要でした。

ー 「すたーとあっぷきっちん」利用者はどんな人?

調理中

岩渕:「すたーとあっぷきっちん」利用者には、どのような方がいらっしゃいますか?

木村:最近だと、2〜3人グループでお菓子を製造して、マルシェなどで出店・販売するお客様がいらっしゃいますね。一人ではなく、仲間と一緒にやるのがポイントなのかもしれません。たしかに、一人あたりの収入は減りますが、出費は半分かそれ以下で済みます。それぞれが分担して、作ったものを各自違う場所で販売することもできます。仲間がいると安心感もありますね。
また、インターネットショップ出品に興味を持つ利用者様も多いです。マルシェなどの出店だと、販売する日にちが固定されてしまいます。でもネットだと、作り手が売りたい日を決めることができる。製造する側の自由度が上がりますよね。

岩渕:キッチンを利用する前に見学に来る方も多いそうですね。

木村:見学に来るお客様にも、大きく分けて二つのタイプがあります。
まずは、料理教室や食事会で利用したい方。部屋の広さ、設備、場所の確認のために見学にいらっしゃいます。
もう一つは、製造・販売を希望する方です。この方たちの中ではさらに、「ある程度のクオリティで製造でき、いつでも外で売れる方」と「お菓子を作って売りたいけど、どうやるのかわからない方」に分かれます。全体の6割くらいは、後者のようなぼんやりしたイメージで来る方が多いです。
そういった方には、出店のアドバイスをしたり、売り先を紹介したり、マルシェに斡旋したりしています。まずは売り先がないと、商品を作っても販売できないですからね。

岩渕:売り先の紹介などもお仕事としてやっているのですか?

木村:そこは、大きな課題です。皆さん、是非すたーとあっぷきっちんの作り手さんのお菓子やパン、ごはんを買ってください(笑) 買取販売や委託販売として扱ってくださるお店屋さん(カフェやコーヒー屋さん、雑貨屋さん)、企業さんをご紹介ください。美味しいものを作ることができる方々の夢を、是非一緒に応援してください。

作り手さんとご試食を持って伺いますので、ご連絡お待ちしております。

おすし

ある日の料理教室で作っていたひなまつりのお寿司

岩渕:木村さんの周りには、「食」つながりの仲間も集まってくるのではないですか?

木村:そうですね。仲間といっても、いろいろな形があります。作り手さんはもちろん、作り手さんの商品を買って下さる方も私のお客様として繋がっていることがあります。この業界はまだ規模が狭いので、マルシェ好きな方とは、いろいろなマルシェで顔を合わせることも多いですね。

もともと飲食店に勤めていて、現在はフリーランスのシェフをしている人もいます。「すたーちあっぷきっちん」がそういった方の受け皿にもなれば、と考えています。
仲間といっても、お客様とのつながりや、自分と似た立場の人が多いですね。

ー 木村さんと「すたーとあっぷきっちん」、今度の展望は?

木村さんと赤ちゃん

岩渕:今後、全国的にも保健所の許可付きキッチンは増えていくのでしょうか。

木村:「レンタルキッチンをつくりたい」という問い合わせは全国から少しずつ来ています。今の時代は、物件を持ちやすい。ママさんひとりでも部屋を借りやすいし、部屋を貸したい大家さんが多いのも、ひとつの理由だと思います。
作り手さんは、「いつか自分のお店を持ちたい」と考えている場合があります。その出発地点として、とりあえず作って売れるかどうか検討するために、保健所の許可付きキッチンはいいサービスだと思います。

また、キッチン間のネットワークも広げていきたいですね。例えば、あるキッチンが混んでいて使えないときに、別の場所で空いているキッチンを見つけられるシステムがあると、いいなと考えています。
まだ小規模で、ニーズも多くないレンタルキッチンの社会で、お客様を取り合っても仕方ありません。互いに協力し、より使いやすくしていけたらいいですよね。美味しいものを作れる方は、どんどん支援していきたいです。

キッチンとは違いますが、教育施設もつくれたらいいなと考えています。
学校で学んでいると、「将来はサラリーマンという選択肢しかないのかな」と感じることがあると思います。教えている先生自身が公務員、サラリーマンですからね。起業が絶対にいいという話ではなく、選択肢の一つとして起業があってもいいと考えています。
その道のプロの話を聞ける場も作りたいですね。庭師とか、包丁研ぎのプロとか… いろいろな仕事が世の中にあることを、学べる場があるといいですよね。

今は、「お金を稼ぐこと」と「楽しむこと」を分けて考える人がまだ多いと思います。その反面、好きなことをやって生活していきたい人が「すたーとあっぷきっちん」には集まりやすいと感じます。「好きなことをして生きる」という選択肢を、大人になってからではなく、小さい頃から知ることができればと思います。

ー 「すたーとあっぷきっちん」を起点に、様々なアイデアをお持ちの木村さん。なぜ、社会を巻き込んでいくことに興味があるのか?

集合写真

木村:もちろん、自分で製造・販売することが一番安上がりで簡単です。でも、キッチンのことや出店、販売において、私と同じような悩みを抱えている人がいました。その点では、自分の経験を活かせると思いました。製造から販売まで、やってみなければわからないことがあるのです。
これから「すたーとあっぷきっちん」のようなビジネスを始めたい方は、製造から販売まで一通り経験してみるといいと思います。

「すたーとあっぷきっちん」から卒業して、実家を改装してキッチンを作ったり、自分用の工房を作った方もいます。
私のところで修行したのち、独立していく方は今後も増えていってほしいですね。

作り手さんにもインタビュー!「すたーとあっぷきっちん」ってどんなところ?

キッチンを利用したことのある「EAST KITCHEN」の作り手さんに、利用者の視点からコメントを頂きました。

グラノーラ

EAST KITCHENさんが販売するグラノーラ

— 作り手さんコメント —

すたーとあっぷきっちんさんは、インターネットで見つけました。保健所の許可を得たキッチンがないため、菓子製造許可付きキッチンはとてもありがたいです。
普段は、マルシェに出店する前や、ネットショップで注文が入ったときに利用しています。きっちんにはオーブンシートなどの消耗品も置いてあるので、とても助かります。あったらいいなと思う器具を、要望に応えて用意してくださいました。
今後は、定期的に利用していく予定です。

編集部コメント

木村さんが起業したエピソードや、教育施設づくりのアイデアから、「好きなことで食べていく」ことを大切にしていると感じました。今後、お菓子の製造・販売にチャレンジしたい方が木村さんのもとに集まり、さらに盛り上がってくるといいなと思いました。