
写真左:天草氏/右:大内氏
抗体は、がんや自己免疫疾患、感染症などと関連性が高く、治療薬・診断薬として応用されています。この抗体を独自の技術で探索・取得し、付加価値の高い抗体医薬品の研究開発に取り組むiBody株式会社の取り組みが、いま注目されています。
今回は、名古屋医工連携インキュベータ「NALIC」の入居企業特集として、iBody株式会社代表取締役社長の天草氏、取締役の大内氏へのインタビューを行いました。
プロフィール|天草 陽 氏
iBody株式会社代表取締役。大日本住友製薬株式会社で医薬情報担当者、製品企画、事業開発等を経験した後、理化学研究所発ベンチャーでがんの細胞治療を開発している株式会社アンビシオンで執行役員事業戦略部長。2020年よりiBody株式会社の代表取締役に就任。製薬、バイオテクノロジーの業界で20年の実務経験をもとに事業を推進中。
プロフィール|大内 将司 氏
iBody株式会社取締役。博士(理学)。これまで、東京大学・京都大学・ダルムシュタット工科大学(ドイツ)ドレスデン工科大学(ドイツ)にて分子工学の領域で研究実績を持つ他、バイオベンチャーの顧問として立ち上げを経験する。2020年よりiBody株式会社の取締役に就任。
網羅的かつ迅速に抗体探索ができる「Ecobody技術」とは?
ーまずはじめに、事業内容についてお伺いさせてください。
天草:iBodyは、2018年に創業した名古屋大学発のバイオベンチャー企業です。ヒトや動物の微量血液や組織検体から網羅的に・迅速に抗体を探索・取得できる独自技術「Ecobody技術」を用いて、がんや自己免疫疾患の抗体医薬品の創薬、及び抗体探索の受託事業に取り組んでいます。
現在、複数の大学医学部と共同研究を行うことで、有望な新規抗体医薬品の研究開発を進めています。
ーコア技術である「Ecobody技術」による抗体医薬品開発が、従来の開発方法と異なる点はどこにあるのでしょうか?
天草:Ecobody技術は、ヒト(患者さん)が持っている天然の抗体を網羅的に、そして世界最速レベルの速さで探索・取得できる技術です。
この技術を用いてヒトの病気の発症や進行、抑制に関わっている抗体を取得し、医薬品に応用することを目指しています。
特に、がん患者さんの、がん組織に入り込んでいる抗体産生細胞(B細胞)から抗体を取得・評価することで、医薬品として有望な抗体医薬品を創出するプロジェクトを進めています。
大内:従来の抗体医薬品開発は、ターゲットとなる抗原に対して、マウスなどの動物の免疫機能を活用したハイブリドーマ法や、遺伝子工学技術を用いたファージディスプレイ法を用いて抗体を作製しています。
これらの技術との違いは、開発する抗体がヒトの体内で機能していた抗体であることです。特に、がん組織など病変組織に入り込んでいる抗体産生細胞から抗体を取得することで、より有用性の高い抗体医薬品の開発ができると考えています。
また、現在は非常に多くの抗体医薬品が承認され、様々な疾患の治療に応用されていますが、一方で、同じターゲットに対する抗体医薬品の開発が多くなっている現状もあります。Ecobody技術を用いた開発により、ヒトの体内で機能する新たな標的に対する抗体の取得も期待できます。
現在は抗体の探索・評価の途中ですが、研究開発を進め、有望な抗体を見いだすことで、がんや自己免疫疾患などの病気に苦しむ患者さんの治療に貢献したいと考えています。
従来技術では困難であった新規抗体医薬品の開発を目指す
ー研究開発事業のニーズについて教えて下さい。
天草:当社のEcobody技術は、ヒトが持っている抗体が疾患の進展抑制や発症、増悪に関わっているがん、自己免疫疾患などの治療薬開発に有用です。
昨今の医薬品開発やその技術の進歩は目覚ましく、それぞれの疾患領域に対して、様々な治療薬が臨床応用されていますが、すべての患者さんが現在の治療薬で十分な効果を得られているわけではなく、新たな治療薬の開発が望まれています。
私たちは、がん領域であれば従来の抗体医薬品で十分に効果を示すことが難しかった固形がん、また自己免疫疾患であれば、薬物治療が行われても、効果が不十分であったり、患者さんの免疫全体を抑えてしまうことによる副作用が課題となっているような疾患の治療において、Ecobody技術の強みを生かした創薬により、新たな価値を提供できると考えています。
ーウサギmAb探索の受託サービスもされていますよね。これにはどういったニーズがあるのでしょうか?
大内:ウサギからは、マウスと比べて小さい分子を標的とした良い抗体を作製できるのですが、ハイブリドーマ法だと作製が難しいんです。そこで、当社のEcobody技術を活用して頂いています。
人類の健康とQOLの増進に貢献
ー今後どのような事業展開を考えているのか教えてください。
天草:まずは、現在進めているアカデミアとの共同研究プロジェクトにおいて、早期に有望な新規抗体医薬品を見いだし、製薬企業と事業提携することで実用化を目指します。今後は、新規プロジェクトの開始も含め、複数のプロジェクトを並行して進めることで継続的に新規抗体医薬品を創出し実用化していきたいです。
また、創薬の早期の段階からEcobody技術を用いた製薬企業との共同研究も進めていきたいと考えています。
加えて、現在は次世代抗体といわれる、新しい抗体医薬のモダリティの開発も積極的に進められています。当社で見いだす抗体はそれら次世代抗体技術にも応用できる可能性があると考えています。
大内:これだけ医療が発達していても、まだまだ研究するべきことがたくさんあります。ただ治すだけではなく、人類の健康とQOLの増進に貢献できるような事業をしていきたいですね。
ーありがとうございました。
編集部まとめ
独自の「Ecobody技術」で人類のQOLに貢献するような新規抗体医薬品の研究開発を進めるiBody。今年7月には総額約1.5億円の資金調達を完了するなど、市場からの評価も高まっています。今後の研究動向にも注目です。
入居検討者の方に向けて、大内氏からのコメント
大内:私たちは、入居前に何度も足を運んで入居を検討しました。大学の研究室以外で、実験設備を整えるのに適した施設はそう多くはありません。NALICでは安全講習も受けることができます。創業期のバイオベンチャー企業にとって、一から安全設計をすることはそう簡単ではないので、ありがたいですね。気になったらぜひコンタクトを取ってみてください。
NALICでは、今年度も入居企業を募集しています。ご興味のある方は、下記のリンクからぜひお問い合わせください。