#NALIC特集 他技術では困難な抗体取得を続けるオンリーワン抗体ベンチャー|iBody株式会社

投稿者: | 2023-09-15


抗体は、がんや自己免疫疾患、感染症などと関連性が高く、治療薬・診断薬として応用されています。ヒトや動物が持つ有用な抗体を見出す独自技術「Ecobody技術」を保有し、他技術では困難な抗体取得を続ける名古屋大学発ベンチャー企業が、iBody株式会社(本社:名古屋市、以下:iBody)です。

今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設「名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)」の入居企業特集として、同社代表取締役CEOの天草氏、取締役CSO兼CTOの大内氏へインタビューを実施。設立背景や事業の展望についてお話を伺いました。

プロフィール

天草 陽(あまくさ よう) / MBA 写真右
iBody代表取締役CEO。大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)にて医薬情報担当者、製品企画、ビジネスディベロップメント部門に従事した後、理化学研究所発ベンチャーの株式会社アンビシオンに参画し執行役員として事業戦略部門を担当。2020年3月よりiBodyの代表取締役CEOに就任。

大内 将司(おおうち しょうじ) / 博士(理学) 写真左
iBody取締役CSO兼CTO。東京大学、京都大学、ダルムシュタット工科大学(ドイツ)、ドレスデン工科大学(ドイツ)にて分子工学の領域で研究実績を持つ他、バイオベンチャーの顧問としてその立ち上げを経験する。2018年4月よりiBodyのCSOに就任。取締役CSOを経て、2023年4月よりCTOを兼務。

効率的かつ迅速に抗体探索ができる「Ecobody技術」

ーまずはiBodyの会社概要について教えてください。

天草:当社は、名古屋大学大学院生命農学研究科、中野秀雄教授の研究成果を社会実装する目的で2018年に設立した名古屋大学発ベンチャーです。2018年と2020年にはベンチャーキャピタルから資金調達を行い、2023年には体外診断薬企業大手の株式会社タウンズと資本業務提携契約を締結しました。

2021年には、Central Japan Startup Ecosystem Consortiumが経済産業省中部経済産業局と連携し、グローバルな活躍を目指すスタートアップ企業を集中支援する*J-Startup Centralの1社にも選定されています。

*J-Startup Central:愛知県・一般社団法人中部経済連合会・名古屋大学・名古屋市・浜松市等で構成される「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」が中部経済産業局と連携し、経済産業省が実施する「J-Startup」の地域版プログラムです。グローバルな活躍を目指すスタートアップが選出されます。

ー中部圏で注目のバイオテック企業として、最近はメディアで取り上げられる機会も増えていますよね。そんなiBodyの持つ「Ecobody技術」とは、どのような技術なのでしょうか。

大内:当社の「Ecobody技術」と名付けた基盤技術は、医薬品、診断薬、研究用試薬等に用いられるモノクローナル抗体をヒトや動物から効率的かつ迅速に取得できる技術です。現在、このEcobody技術を用いて、他の技術では取得困難な抗体の取得サービスの提供、また自社での新規抗体医薬品の研究開発を主な事業として取り組んでいます。

従来の技術では取得が難しい抗体にも対応、コロナ禍で高まるニーズ

ーEcobody技術による抗体取得サービスは、どのような課題を持つユーザーの助けになっているのでしょうか?

大内:モノクローナル抗体を応用して医薬品や診断薬を開発する際、ヒトや動物から目的の抗体を取得するプロセスが必要になります。しかしながら、従来の技術では取得が難しい抗体が存在している現状もあります。そのような抗体を効率的かつ迅速に取得できることが、Ecobody技術の強みです。

例えば、昨年九州大学からの依頼で取得に成功したリン酸化ペプチドに特異的に反応する抗体は、お客様の方でそれまでの5年間、様々な技術を使って試行錯誤しても取得することができなかった性能の抗体でした。当社の技術で目的の性能の抗体が取得できたことで、ある疾患の診断装置の開発が進められるようになったと伺っています。受託での仕事のため、詳細な情報を開示できる事例は多くありませんが、この1-2年で同様の成功事例が増え、当社技術の価値に対する自信が深まってきています。

ー実績も出ているからこそ、基盤技術への信頼がより一層高まっているのですね。なぜ効率的で迅速な抗体取得が実現できるのでしょうか。

大内:Ecobody技術が効率的で迅速である理由の一つとしては、ヒトや動物が持つ一つひとつのB細胞(抗体産生細胞)の発現する抗体を評価できるシングルセルテクノロジーにより、良い抗体を取りこぼさないことがあげられます。従来の技術ではB細胞を不死化・増殖させるプロセスが必要となり、その段階で増殖しない多くのB細胞が脱落します。さらにEcobody技術では、特許を取得している無細胞抗体発現技術(試験管の中で抗体を作成する技術)を活用することで、2日間という極めて短期間で抗体を取得することが可能です。

天草:当社では、主にヒト、ウサギ抗体の取得サービスを提供していますが、一般的に抗体を取得する際に使用するマウスよりも高性能な抗体を体内に作ることで知られているウサギからの抗体取得のご依頼が多くなっています。また最近注目の高まっているラクダ科動物のVHH抗体の取得にも成功しています。

ーコロナ禍でヒトモノクローナル抗体技術の市況はどう変化しましたか?

天草:コロナ禍においては、多くの企業や研究機関で治療薬や診断薬の開発を目的に感染者やワクチン接種者からの中和抗体の取得が試みられています。当社においても複数の企業や研究機関からヒトが持つ新型コロナウイルスに対する抗体取得の相談を受けました。

そのうち、昨年に神戸大学から受けた依頼では、当社で取得した抗体のうち一つが、新型コロナウイルスのオミクロン株を含む複数の変異株に中和活性を示す広域中和抗体であることが確認され、その成果について国際的な学術誌に論文発表されています。この成果を受け神戸大学とは、より有用な抗体を見出すために発展的な共同研究を開始しています。

大手有力企業との資本業務提携や研究開発も

ー23年1月には、タウンズ社との資本業務提携もありました。これにより診断薬への活用の幅はどのように広がりますか?

天草:タウンズ社の主力製品であるイムノクロマト法の体外診断薬(例:新型コロナウイルス感染症の抗原キット)には抗体が搭載されています。その抗体が病原体であるウイルスや細菌を認識すると陽性反応が出る仕組みになっています。当然それらの製品は、より良い抗体を搭載することで診断薬としての精度が向上します。つまり、より良い抗体を必要とするタウンズ社とより良い抗体を取得できる当社技術の親和性がとても高いということになります。

今回の業務提携により、今後のタウンズ社の体外診断薬の開発や改良に積極的に当社の技術を使っていただくことになります。当社で取得した抗体がタウンズ社の製品に搭載され、実際の感染症の診断に貢献できるようになることを期待しています。

ー直近では「新規の高感度がん診断薬として応用可能な糖鎖(とうさ)抗原検出ウサギモノクローナル抗体の作製に関する研究開発」が2023年度新あいち創造研究開発補助金へ採択されています。この研究が成果を結んだ際の市場への影響について教えてください。

大内:今回の研究テーマである糖鎖は、疾患のマーカーとして有用であることが広く知られていますが、動物では糖鎖を認識する実用的な抗体の作製が困難とされています。糖鎖を認識する抗体を効率的に取得することが可能となれば、今まで開発されることがなかった新しい治療薬や診断薬の開発につながります。

そこで、今回の新あいち創造研究開発補助金を活用した研究テーマとして糖鎖に着目し、糖鎖合成の研究で実績のある岐阜大学糖鎖生命コア研究所と共同研究を行うことで、糖鎖に対する抗体を効率的に取得する技術の確立をめざしています。

ー受託サービスだけではない、新しいビジネスモデルも生まれそうですね。

天草:そうですね。現在は委受託がメインになりますが、その過程で基盤技術を磨き上げ、今後は製薬企業等との共同研究のような形で成果報酬を頂くビジネスモデルも展開していきたいです。ゆくゆくは自社で新抗体医薬シーズを創出し、製薬企業にライセンスアウトするようなモデルにもしたいですね。

NALICに拠点を移したことで、チームの結束力が高まる

ー最後に、NALIC入居を検討している方に向けて一言お願いします。

天草:23年5月までは名古屋大学内のインキュベーション施設に本社を置き、研究室は名古屋大学農学部内の研究室をメインにNALICも1部屋使用していました。今回、名古屋大学インキュベーション施設の規定入居期間の5年が経過したこと、またタウンズ社との資本業務提携で移転の資金を確保できたことで、NALICにすべての機能を集約しました。拠点を1か所にまとめることで、メンバー間の距離も縮まり結束力を強めて事業を推進することができると考えています。

NALICは研究に適した設備が整っていること、またインキュベーションマネージャーが常駐し様々な支援をしていただけるため、非常に助かっています。例えば「BioJapan」という、バイオテクノロジー領域では最大規模の展示会には、NALICの支援で毎年無償で出展ができています。気になったらぜひコンタクトを取ってみてください。

ーありがとうございました!

編集部あとがき

独自の「Ecobody技術」によって他技術では困難な抗体取得を続けるオンリーワン抗体ベンチャーのiBody。創業から約5年経った今も、天草氏・大内氏らの躍進は止まることがありません。今後の事業動向にも注目です。

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