医療従事者向けの医学情報検索サービス「MEDVISOR(メドバイザー)」で現場をサポートする|株式会社MEDICOLAB(メディコラボ)井汲氏にインタビュー

投稿者: | 2019-10-04
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2019年4月から施行された働き方改革関連法案。厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」の報告では、休日が月4日以下の勤務医は46%(20代では76%)、平均睡眠時間が6時間未満の勤務医は41%(20代では63%)となっており、この傾向は病床数が増えるほど強くなっています。多忙をきわめる現場の医療従事者にとって、日々の業務に加えて医学知識をアップデートし続けることは容易ではありません。

そんな中、医療従事者向けの医学情報検索サービス「MEDVISOR」を運営し、現場の医療従事者をサポートしているのが、株式会社MEDICOLABです。同社の代表取締役であり、現役の医師でもある井汲一尋代表に起業のきっかけや今後の展開についてインタビューしました。

井汲一尋(いくみかずひろ)|プロフィール
1986年生まれ、群馬県出身。名古屋大学医学部医学科卒、2010年にJA愛知厚生連安城更生病院にて勤務、2012年に名古屋大学大学院神経内科学専攻、2014年に名古屋掖済会病院にて勤務、2015年に名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学客員研究員。2018年に合同会社MEDICOLABを設立、同年11月に医学情報検索サービス「MEDVISOR」をリリース。2019年に株式会社MEDICOLABへ組織変更し代表取締役に就任。現在も現役医師として複数の病院で勤務している。

知識で救える「人・命」を確実に救う


−現役の医師が病院開業以外で起業することはまだまだ珍しいと思います。井汲さんの起業の原体験について教えてください。
井汲:いくつかありますが、一番大きいのは私自身が過去に病気になったことです。そのときに、「医療従事者に知識がなければ、治療できない」ということを私自身が患者として体験しました。しかし、いざ医師になってみると、日々の業務に忙殺されて医学知識を獲得する時間がなかなか確保できず、ジレンマを実感しました。

患者・医師の両者の立場が分かる私だからこそ解決できる課題があると考え、起業に至りました。弊社は、知識で救える「人・命」を確実に救う、ということを掲げています。

−日々の診療に加えて研究や学会発表など、日進月歩の医療を支える医師の労働環境の適正化はたびたびニュースにも取り上げられていますね。
井汲:確かに、最近注目されるようになりましたね。私自身も大学を卒業して働き始めた頃は、とにかく忙しかったです。特に最初の2年間ぐらいは、目の前にどんどん来院される患者さんの対応で必死でした。診療に忙殺されながらも、時間を見つけて勉強したつもりでいたのですが、思ったほど知識が頭の中に定着しておらず、瞬時に判断できないという場面がありました。

当たり前ですが、医師として患者さんに対して、あやふやな知識で治療することはできません。医療従事者が正確で新しい知識を瞬時に獲得できるサービスが必要だと感じました。

医療従事者向けの医学情報検索サービス「MEDVISOR」のApp Storeスクリーンショット

−医療文献検索サービスは、すでに国内外問わずいくつか存在していますね。
井汲:海外では「UpToDate」のような世界中の医師や医学生が利用する医学情報の検索サービスがあり、年間売上高は6,000億円にも上ります。日本の医師や医学生もそれを使っている方もいます。

しかし、いくつか問題があります。まず、海外と日本では医療事情が異なるということ、また診療中に英語の長文を読むのは難しいということ、そして契約料が比較的高額ということです。海外サービスだけではなく、日本独自のサービスが必要であるという思いから、2018年11月に無料の医療従事者向けの医学情報検索サービス「MEDVISOR」をリリースしました。

−現在(取材時2019年9月)、どれくらいの方がMEDVISORを利用しているのでしょうか。
井汲:アプリのダウンロード数は1,000、検索は5万PVを超えました。主に医療従事者の方からご好評いただいております。今度はより専門性に特化し、「かゆいところに手が届くようなサービス」を作りたいと考えています。

「あいちアクセラレーター2018Demo Day」の集合写真

−MEDVISORは「あいちアクセラレーター2018(※)」に採択されていますね。
井汲:あいちアクセラレーター2018では、株式会社ゼロワンブースターさん、一般社団法人未来創造さん、愛知県庁さんからをたくさんのご支援を頂き、資金獲得・ 事業提携などに繋げるための場を提供して頂きました。病院での勤務では、なかなか知り合うことのない起業家やメンターの方々とネットワークを築けました。

※あいちアクセラレーター2018…新しい技術やアイデアを持つスタートアップ(ベンチャー企業)を全国から募集し、5か月にわたる集中支援や、資金獲得・事業提携などにつなげるための場を提供。愛知県内の既存産業企業とのマッチングを図り、新たなビジネスモデルの創出や技術革新を起こすエコシステムの確立と、「愛知発スタートアップ」を生み出すことを目的としたアクセラレータープログラム。愛知県が株式会社ゼロワンブースターに委託、及び一般社団法人未来創造の協力を得て実施された。

−今後、メンバーを増やしていくのでしょうか。
井汲:今後、核となるサービスを展開していくには、特定の高度な専門知識やスキルを持った仲間が必要になってきます。特に、弊社は日本の医療レベルの向上に関心を持ったエンジニアを募集しています。具体的には、ウェブアプリ、スマートフォンアプリの開発経験豊富なエンジニアの方や、機械学習に特化したデータサイエンティストの方とぜひお近づきになりたいです。

今後は医療従事者のキャリア形成も大事

−今後の事業展開について教えてください。
井汲:まずは、医学情報検索サービスを今後も磨いていくつもりです。また、医療従事者向けのキャリアイベントがあると、面白いかなと考えています。例えば、医師の資格を取ると、みなさん医師になりますよね。看護師の資格なら看護師、理学療法士なら理学療法士など、特定の職種として病院に勤務するのが一般的かと思います。しかし、これから医療やそれに伴う技術は、想像以上に高度に発展していきます。一つのスキルを徹底的に極めて医療に貢献するという道もありですが、マルチなスキルでこれまでとは異なる形で医療に貢献するというキャリアがあっていいのではないかとも考えています。

−名古屋ではそのようなイベントは少ないのでしょうか。
井汲:東京ではそういったイベントが開かれているという話を耳にします。医療従事者とリンクするような仕事をしたい人や、全く違う畑のシリアルアントレプレナーの方にイベントに登壇して頂くと、とても面白いのではないかと考えています。

東京では医療従事者で起業するという人が増えていますが、名古屋は少ないです。弊社は、日々の業務に忙殺されている医療従事者の負担を少しでも軽減し、知識やスキルを助けるようなプラットフォームを作り、この国の医療に貢献することが目標です。「あいつができるなら、自分もやってみようかな」と考え、起業する医療従事者が名古屋でも増えるといいな、と思っています。

編集部コメント
“知識で救える「人・命」を、確実に救う” を理念にサービスを展開するMEDICOLAB。現役の医師である井汲代表だからこそ、身近に感じ取る日本の医療現場の課題を解決したいという想いが印象的でした。そんな同社のサービスにより、医療従事者の労働負担やキャリア形成がアップデートされていくかもしれません。