愛知・名古屋エリアのロボット産業市場動向|産学官の取り組みをレポート

愛知・名古屋エリアは、日本を代表するものづくり産業集積地の一つであり、特にロボット産業の発展が顕著です。製造、物流、医療、介護、そしてドローン分野でのロボット技術が急速に進化し、スタートアップ企業も次々と登場しています。

本コラムでは、Nagoya Startup News編集部での自社調査や、あいちサービスロボット実用化支援センターへのインタビュー内容をもとに、世界と国内のロボット市場動向、愛知県のロボット産業の現状、注目企業について解説します。

世界・国内のロボット市場動向

2024年版 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望 FAロボット編」によると、世界の製造業向けロボット市場は、急成長を続けており、2028年には2兆円を突破する見通しです。特に協働ロボットや小型垂直多関節ロボットの需要が大きく伸びており、半導体製造装置向けのウエハ搬送ロボットも期待されています。人手不足や人件費の高騰を背景に、自動化ニーズが高まり、特に中国市場を中心に市場拡大が進んでいます。

一方、japan industrial robotics marketによると、国内市場は2023年から2032年までに13億米ドルから31.5億米ドルまでの収益増加すると予測されており、製造業だけでなく医療や介護、清掃などのサービス分野にもロボットの普及が進むと見込まれています。日本では少子高齢化による労働力不足が深刻化しており、ファクトリーオートメーション(FA)やロボット技術の活用が、産業界にとって重要な課題となっています。

愛知県のロボット産業集積状況

愛知県は事業所数と従業者数が多く、全国の中でも高い順位を占めています。2023年の経済構造実態調査によると、愛知県内には73ヶ所のロボット関連事業所があり、全国の約15.3%を占めており、全国第1位です。さらに、従業者数でも3,499人と約14.1%を占め、第2位にランクインしています。これは、地域におけるロボット産業の拡大と多様な分野での活用が進んでいることを示しています。

また、ロボット関連の製造品出荷額においては、愛知県は約1,830億円で全国第5位に位置し、全体の約11.2%を占めています。これにより、愛知県は日本国内のロボット産業の重要な拠点の一つとして、国内外の注目を集めていることがわかります。

特に愛知県で注目されている業界やロボットの種類

愛知県では、特に製造業においてロボット技術が求められています。自動車部品をはじめとする製造現場では、精度の高い産業用ロボットが導入され、効率化と生産性向上が図られています。また、物流業界では倉庫内の自動化が進み、ピッキングや梱包作業を担うロボットが注目されています。

さらに、医療分野でもロボット技術が進化しており、手術支援ロボットやリハビリテーション用のロボットが医療現場で活躍しています。介護分野では、高齢化社会に対応するため、介護支援ロボットの需要が増加しており、身体のサポートや見守り機能を持つロボットが導入されています。

ドローン分野では、空中および地上ドローンが物流や監視の役割を果たしており、特に農業や災害対策において期待が寄せられています。

各大学での研究状況

愛知県内の大学でも、ロボット技術に関する研究が活発に行われています。ここではそんなロボットの開発に携わっている大学をご紹介します。

豊橋技術科学大学:弱いロボット

画像:ICD-LAB公式HP

豊橋技術科学大学が研究している「弱いロボット」とは、従来の「強いロボット」と対照的に、力が弱く、壊れやすいという特性を持ちながらも、人間と共生しやすいという考えに基づいたロボットです。強いロボットは、通常、正確で高効率な作業を求められ、大量の力や複雑な動作をこなすことができますが、弱いロボットは、そうした強力な性能ではなく、人とのやり取りや日常的な環境での共存を重視しています。

 

愛知工業大学:災害対応ロボット「Scott:スコット」

画像:愛知工業大学公式HP

愛知工業大学が開発した災害対応ロボット「Scott(スコット)」は、災害現場での救助や探索活動を支援するために設計されたロボットです。このロボットは、特に瓦礫や崩壊した建物など、危険で人間が立ち入るのが難しい場所での活躍を目的としており、2020年4月には「スコット」の技術が初めて実用化され、約400万円で販売が始まりました。

 

愛知工業大学:草刈りロボット

画像:Platform Clover公式HP

愛知工業大学、豊田市、しきしまの家が共同開発した「草刈りロボット」は、農村地域の草刈り作業を省力化し、地域の持続可能性に貢献することを目指しています。このロボットは、従来の手作業に比べて効率的に草刈りを行い、作業者の負担を大幅に軽減する設計となっています。令和6年6月6日には豊田市内で実証実験が行われ、農村の草刈り作業の負担を軽減するだけでなく、地域の活動をサポートする重要な技術として注目されています。

 

藤田医科大学:見守りウィーゴ

画像:プレスリリースより

株式会社リビングロボットと藤田医科大学が共同研究に取り組む「見守りウィーゴ」は、高齢者や介護が必要な方々の見守りを支援するロボットです。令和4年9月13日、リビングロボットと藤田医科大学は共同研究契約を締結し、介護分野での「見守りウィーゴ」の活用を目指した実証実験を開始しました。

藤田医科大学の大高洋平教授の指導のもと、音楽療法を取り入れたロボットの活用が進められており、ロボットが音楽に合わせてダンスをすることで高齢者に与える効果を検証しています。さらに、音楽療法による心身の健康促進だけでなく、ロボットの目の光や動きなどを組み合わせたコンテンツ開発も行われています。
この共同研究は、介護分野でのロボットの更なる普及と機能改善を目指し、高齢者だけでなく、あらゆる世代の生活を支援するための重要な取り組みです。

注目の企業まとめ

愛知県内には、多くのロボット関連企業が存在します。さらに、スタートアップ企業も注目を集めており、特に、物流や医療分野で新しいロボット技術を活用したビジネスモデルを展開している企業が増加しています。ここではそんな企業をいくつかご紹介します。

トヨタ自動車株式会社

画像:ウェルウォーク公式HP

世界的な自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社はロボット技術にも力を入れています。既存事業と親和性の高い小型モビリティ関連だけではなく、医療・福祉分野でのロボット開発に注力しており、中でもリハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク」はキーアイテムです。藤田医科大学と共同で開発されたこのロボットは、歩行リハビリの分野で活躍しています。

 

株式会社デンソーウェーブ

画像:株式会社デンソーウェーブ公式HP

株式会社デンソーウェーブは、産業用ロボットの開発に積極的です。高精度なロボット技術を活用し、製造業における自動化の推進に寄与しています。組立・搬送・検査・加工の工程を最適化する製品ラインナップを有しており、国内だけでなくグローバル市場にも展開しています。

 

株式会社FUJI

画像:Hug公式HP

知立市に本社を置く株式会社FUJIは、産業用ロボットの他、介護分野でも注目されています。移乗サポートロボット「Hug」は、介護現場での負担を軽減する製品として高い評価を受けており、ロボット大賞を受賞しています。

 

株式会社インディ・アソシエイツ

画像:MORK公式HP

愛知県を拠点とする株式会社インディ・アソシエイツは、コミュニケーションロボットを開発しています。同社のロボット「MORK」は羽田空港などの公共施設で導入され、セキュリティや接客の自動化を推進しており、さらなるサービスロボット分野での活躍が期待されています。

 

株式会社プロドローン(PRODRONE)

画像:株式会社プロドローン公式HP

名古屋市に本社を置く株式会社プロドローンは、ドローン技術を活用した製品を開発する企業で、産業用ドローンや災害対策用ドローンを手掛けています。特に、農業や測量、災害救助など、様々な分野での利用が進んでおり、今後も需要が拡大すると見込まれています。

愛知県としての取り組み

メーカーへの開発支援

愛知県は、「新あいち創造研究開発補助金」を通じて、ロボット分野を含む次世代の成長産業を支援しています。この補助金は、産業空洞化対策の一環として、次世代自動車や航空宇宙、ロボットなど、成長が期待される分野での研究開発や実証実験を推進することを目的としています。本補助金は、付加価値の高いモノづくりの維持・拡大を支える重要な役割を果たしています。

画像:株式会社ヒミカ公式HP

たとえば、豊橋市の株式会社ヒミカでは、この補助金を活用し「介護施設の高齢者が意欲的に活用したくなるコミュニケーションロボットの研究開発」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、介護施設でのロボットの活用が進むことで、高齢者の生活の質を向上させることを目指しています。

研究・技術シーズ創出支援

画像:知の拠点あいち重点研究プロジェクト公式HP

愛知県は、産学連携の強化を通じて、研究開発のシーズ(種)を活用した取り組みを行っています。その中でも特に注目されるのが、「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」です。このプロジェクトでは、県内の大学や研究機関が取り組む最先端のロボット技術が次々と生まれており、これらの技術が産業界へと活用されることが期待されています。

たとえば、豊橋技術科学大学では「弱いロボット」というコンセプトの研究が進められています。これは、人間と共存し、補助的な役割を果たすロボットの開発を目指しており、特に介護や福祉分野での活用が期待されています。また、同大学で研究されている非接触電力伝送技術は、産業用ロボットやFA(ファクトリーオートメーション)システムでの応用が進められています。こうした研究成果は、産業界への技術移転を通じて、新たなビジネスモデルや製品を生み出すための基盤となっています。

ロボット導入を後押しする新たな支援策

愛知県では、2024年度から「ロボット未活用領域導入検証補助金」を新設し、ロボット導入が進みにくい分野や用途における課題を解決するための支援を行っています。この補助金は、技術面や費用対効果に対する不透明さを解消するための事前検証にかかる経費を補助するものです。

具体的には、業務分析や効率化の検証、ロボット化・自動化の可否検討、技術面や運用面の課題検証、費用対効果の検討など、ロボット導入の準備段階に必要な検証を支援します。補助金を活用して明らかにされた成果や成功事例は広く公開され、他の企業にも役立つ情報として提供されます。これにより、同様の用途でロボット導入を検討する企業が増え、導入と普及がさらに加速することが期待されています。

企業のロボット活用支援状況 〜あいちサービスロボット実用化支援センターについて〜


あいちサービスロボット実用化支援センターは、2015年に設置され、愛知県のロボット産業の発展を支援しています。今回、私たちは同センターを訪れ、主査の竹中清人氏と中田大策氏に、センターの活動や愛知県のロボット産業に関する取り組みについてお話を伺いました。


――まず、あいちロボット産業クラスター推進協議会について教えてください。

竹中:あいちロボット産業クラスター推進協議会は、2014年に設立され、愛知県のロボット産業を盛り上げるためのプラットフォームとして機能しています。2024年8月末時点で、651社・団体が会員となっており、ロボット開発企業、利用者、支援機関など幅広い関係者が参加しています。会員相互の情報共有の場を提供したり、新たなプロジェクトを組成するための支援などを行っています。なお、協議会の会長は、知事が務めています。

主な活動は大きく3つあります。1つ目は『総会』で、年に一度、会員が集まり、業界の最新動向を共有する場を提供しています。ここでは、会員が自社の取り組みや技術を発表し、PRする機会も設けています。参加者同士がポスターを使って交流を深める場にもなっており、100社近くが参加しています。

2つ目は『オープンセッションの開催』です。これは、会員間の情報共有やマッチングを目的としたセッションで、先進的な事例を紹介する講演や、会員による発表などが行われます。特に、県内外の事例を取り入れた情報提供が主な内容で、会員同士の連携やユーザー開拓を支援しています。

3つ目は『プロジェクトチーム活動の支援』です。ここでは、複数の会員が集まり、新製品や新技術を開発するためのプロジェクトを組織します。ユーザーからの課題を吸い上げ、それに基づいた製品開発を行うことで、新たな事例や活用方法を生み出す取り組みをしています。

――あいちサービスロボット実用化支援センターについて詳しく教えてください。

竹中:センターは2015年に設立され、当初は旧南病棟に事務所と展示スペースを構えていましたが、2022年に新しいスペースに移転しました。主な取り組みは大きく2つあります。1つ目は、サービスロボットの開発支援です。特に医療や介護分野で使用するロボットを開発している企業に対し、大学や施設とのマッチング支援を行い、開発したロボットを現場で試す機会を提供しています。

2つ目は、展示スペースでの活動です。ここでは、医療・介護分野の現場の方々にサービスロボットを知ってもらうための展示を行っています。このスペースには、あいちロボット産業クラスター推進協議会の会員企業が開発した製品を展示しており、見学者に最新のロボット技術を直接体験してもらうことができます。

――愛知県として注力しているロボットの領域について教えて下さい。

竹中:製造業や物流は愛知県の強みですが、医療・介護の領域にも力を入れています。例えば、知立市に本社を持つ株式会社FUJIという企業が開発した移乗サポートロボット『Hug』は、ロボット大賞を受賞しています。また、トヨタ自動車と藤田医科大学が共同開発したリハビリテーションロボット『ウェルウォーク』も注目されており、医療現場での活用が進んでいます。

中田:他にも、愛知県内の株式会社インディ・アソシエイツが、遠隔操作ロボット『MORK』を開発し、羽田空港などで導入が進んでいます。こうした企業が地域をリードしており、特に医療・介護や製造・物流の領域で存在感を発揮しています。

――企業のマッチング支援について、どのような取り組みを行っていますか?

竹中:開発企業が作ったロボットを現場で試す際に、センターがマッチング支援を行います。例えば、試作品を持ち込んだ企業が医療や介護施設でそのロボットを試したい場合、私たちが適切な施設を紹介し、実際に試してフィードバックを得られるようサポートしています。開発段階で施設のニーズを反映することにより、製品の改良や新しい用途の発見に繋げています。

また、施設側からの要望に応じて、製品を紹介することもあります。例えば、介護ロボットの「見守り」の分野では、製品によって様々な特徴があるため、現場のニーズに即した製品の情報を提供しています。

――今後の目標や、現在進行中の取り組みについて教えてください。

竹中:愛知県では、今年度から新たな補助金制度として『ロボット未活用領域導入検証補助金』を導入しました。この補助金は、ロボット導入の際に行う業務分析や費用対効果の検証にかかる費用をサポートするもので、企業等が導入前にしっかりと検証を行えるように支援しています。

例えば、ある企業が金型を手作業で磨いていたところをロボット化するために、この補助金を使って業務分析を行っています。また、高齢者施設で見守りロボットの検知精度の検証をしたり、観光施設で接客ロボットの効果を検証したりと、様々な実証実験が進行中です。

竹中氏:補助金を利用した検証結果は、他の企業にも参考になるため、今後もより多くの企業がロボット技術を導入しやすくなると期待しています。私たちは、このような支援を通じて愛知県内のロボット産業のさらなる発展を目指しています。


インタビューを通じて、あいちサービスロボット実用化支援センターが、企業のロボット開発と実用化を支援する重要な役割を果たしていることが明らかになりました。特に、医療・介護分野でのロボット活用が今後も拡大していくことが期待されており、センターの取り組みがその成長を支えるものとなっています。

 

編集部まとめ

愛知県は、製造業を中心とした強力な産業基盤を持ち、ロボット技術の発展においても重要な役割を果たしています。県内の大学や企業が一体となって取り組むことで、新たなロボット技術が続々と誕生し、世界市場での競争力を高めています。これからの愛知のロボット産業の成長に、さらなる期待が寄せられています。