名古屋の夜に交わされた、現場起点のスタートアップ本音トーク!「のんスタ vol.3」イベントレポート

投稿者: | 2026-02-13

撮影:加瀬秋彦 氏

2026年1月28日、名古屋からスタートアップの生の声をお届けするイベントが開催されました。三栄商事プレゼンツ「のんスタ~のんべえでもわかるスタートアップラジオ〜vol.3」。120名が集まる熱気の中、スタートアップ各社の活動内容と未来の展望が語られる、ラジオ風の特別企画です。

5つのセッションでそれぞれゲストが入れ替わるテンポの良い進行のもと、会場では終始活発な対話が交わされました。製造DXや資源循環、スタートアップと事業会社との協業、技術承継など、現場起点の幅広いテーマが展開された当日の模様をレポートします。

セッション登壇者一覧(登壇順)

長江 祐樹 氏(モデレーター)
株式会社トライエッティング 代表取締役社長・CEO兼CRO

サプライチェーン領域における業務に特化した、AI製品の開発・販売事業を手がける名古屋大学発ベンチャー企業。代表的な製品に「ノーコード予測AI・UMWELT(ウムベルト)」「シフト自動作成AI・HRBEST(ハーベスト)」があり、製造業・小売業・宿泊業など幅広い顧客の業務効率化に貢献している。

岩本 卓也 氏(モデレーター)
株式会社Polyuse 代表取締役/共同創業者

大学院在学中に人材マッチングアプリのスタートアップを共同経営した経験を有し、その後コンサルティングファームにて経営戦略・業務改善などの業務に従事したあと、Polyuseを創業。建設用3Dプリンタを中心とした、建設業界特化型のサービスを提供する企業として、数々のメディアで紹介されている。

阿部 晋士 氏
株式会社パワーウェーブ 代表取締役CTO

豊橋技術科学大学発スタートアップとして、2021年に創業。「充電という概念を世界からなくす」を理念に、温暖化や化石燃料の枯渇といった地球規模の課題に正面から向き合う。ワイヤレス電力伝送技術を軸に、未来の基幹インフラを目指し新たなスタンダードを提案し続けている。

佐久間 達 氏
浜名エンジニアリング株式会社 開発チームリーダー 兼 営業技術サブリーダー

1974年創業。ガントリーローダーをはじめとする、自動搬送システム全般の設計・製作・販売を手がける。産業機械の現場に深く入り込み、現場のニーズに沿った装置の開発と実装に強みを持つ。国内外の企業に広く機器を納入しており、2024年には創業50周年を迎えた。

木下 雄輔 氏
シンニチ工業株式会社 代表取締役社長

大径薄肉パイプをはじめとする高難度の金属加工を手がけ、曲げ・縮管・拡管加工により割れやシワの発生を抑えたパイプ造管技術に強みを持つ。トップ企業にも選ばれる技術力と、顧客のニーズに合わせた丁寧かつスピーディーな個別対応で、短納期と安定供給を実現している。

加藤 大輝 氏
加藤軽金属工業株式会社 代表取締役社長

1961年の創業以来、アルミニウム加工の専門会社として、押出成形技術によるサッシや自動車部品などを製造。大手メーカーから専門商社まで、幅広い業界の顧客と長年の取引実績を持つ。超少量多品種への対応に加え、時代のニーズに合わせた最新技術の導入により、品質とサービスを向上させ続けている。

伊勢崎 勇人 氏
株式会社Spacewasp 代表取締役

植物由来の廃材から作った材料をもとに、3Dプリンターで建築内装を生み出すサービスを展開。植物廃材の再資源化と活用により、脱炭素の担い手を増やし、サステナブルな空間づくりに貢献する。加えて、AIを駆使した3D空間デザインを通して短納期での内装完成も実現し、「まったく新しい循環型インフラ」を提供している。

蟹江 純一 氏
株式会社フレンドマイクローブ 代表取締役社長

名古屋大学発スタートアップとして、2017年に創業。微生物(酵素)を工場規模で安定的かつ効率的に生産・増殖し、機能させるためのバイオリアクター技術を有する。工場から排出される廃棄物を微生物によって分解し、環境にやさしいものづくりを実現する技術として注目を集める。

前田 将太 氏
匠技研工業株式会社 代表取締役社長

製造業向け AI見積&図面管理システム「匠フォース」を提供。データを活用した適正な価格判断と、煩雑だった従来の見積作成を簡素化し、利益体質な経営を支援する。人手不足や次世代への技術承継に悩む製造現場の課題解決を通して、日本の製造業の国際的競争力を高めることに挑戦している。

吉元 裕樹 氏
Sotas株式会社 代表取締役社長

化学産業の課題を解決するデジタルサービスを提供し、化学原料のリサーチに役立つ「Sotasデータベース」は国内No.1の規模を誇る。化学素材や企業の詳細な検索が可能な唯一のプラットフォームとして知られる。化学素材の製造から再利用までのライフサイクルを最適化し、地球環境への貢献と経済発展を両⽴させる未来を目指している。

森下 敬司 氏
スタジオアンビルト株式会社 代表取締役社長

建築デザイナーに建築図面・パース・設計プラン作成などの仕事を依頼できるマッチングサービスにより、必要なときにプロの人材と協業できるプラットフォームを提供。新しいワークスタイルとして設計事務所・不動産会社はもちろん、フリーランスの建築専門家からも注目を集める。

石井 悠紀子 氏
合同会社anience CEO / 獣医師

獣医師の専門知見を基に、オンラインドッグトレーニング『POWPORT』を皮切りに人と動物がよりよく共生できる社会を目指し事業を展開。現在はシニア犬猫と飼い主を支えるシニアペットケアブランドを立ち上げ、和の出汁を生かした獣医師開発フード『UMAMI Pets』など、日本文化と専門知見を融合したサービスづくりに取り組んでいる。

Session① 無線給電技術が変える、製造現場の自由度とは?


モデレーターからの乾杯の発声のあと、セッション1に登壇したのは、大容量の無線給電技術を持つパワーウェーブの阿部氏と、産業機械の現場を知り尽くす浜名エンジニアリングの佐久間氏です。

工場では通常、数多くの配線が複雑に入り組んでおり、ケーブルの断線・コンセントの抜き忘れや差し忘れといったリスクと隣り合わせです。しかし阿部氏が持つ技術を活用すると、工場の床や天井にコイルを仕込むことで、非接触で電力を送ることができます。

その際に大きなポイントとなるのは、止まっているものだけでなく動いているものにも給電できるということ。これまでの工場にあった「ケーブルにまつわる当たり前の不便」を無線給電が解決できる可能性に、会場からは高い関心が寄せられました。

岩本氏は、工場内を走るフォークリフトや搬送機への応用が可能なのか尋ねます。阿部氏は「広い範囲で移動が必要な機械でも、長時間にわたって給電できるのがパワーウェーブの技術の強み」と答えました。

それを聞いた佐久間氏は、浜名エンジニアリングが手がけるガントリーローダー(重い部品や材料などを運ぶクレーンのような機械)では、立ち上がり時の大きな電力は蓄電池でまかない、運転中の給電は無線にできるかもしれないと期待を寄せました。終盤には、佐久間氏から「一緒にビジネスをしたい」という力強い一言も飛び出し、今後の展開への期待が高まったところで、セッション1は幕を閉じました。

Session② DXによる製造現場の進化

続くセッションは、大径薄肉パイプ製造に強みを持つシンニチ工業の木下氏と、自動車・家屋などで使用されるアルミ材製造メーカーである加藤軽金属工業の加藤氏、そしてサプライチェーン領域に特化したAI製品の開発・販売を手がけるトライエッティングの長江氏の3名が登壇。テーマはDXによる製造業の進化。単なる効率化を目指すDXではなく、現場の利益に直結するDXの重要性が語られました。

木下氏と長江氏は数年前から協業関係にあり、AIを活用して製品の不良率を下げることに取り組んでいます。これまでは「現場の勘と経験」で乗り切ってきた不良ですが、それをどう減らすべきか悩んでいたときに寄り添ったのがトライエッティングでした。

2社の対話で印象的だったのは、「データの積み重ねが武器になる」という視点です。木下氏いわく「中小企業には、長く記録しているものの何のためかわからないデータがたくさんある」とのこと。それに対し長江氏は、「Excelなどのデジタル化されたデータさえあれば、DXの第一歩は踏み出せる」と答えます。

加えて長江氏は、DXを進めるうちに「こんなデータもあればより良い」という気づきが生まれ、それが不良率の減少につながると示唆します。不良品の廃棄コスト減は、企業の競争力を高めることにも貢献するため、データの積み重ねこそがDXの鍵になると語りました。

一方、加藤氏が代表を務める加藤軽金属工業では、年間2万種類の製品を受注生産しており、少量多品種の製造に悩みを抱えています。加藤氏は受注生産の中でも一部は計画生産に置き換えられる可能性を感じており、トライエッティングの技術に興味を示しました。加藤氏はすでに複数のベンチャーと業務提携しており、ベンチャー企業と中小企業がそれぞれの得意領域を掛け合わせることは、互いにとってメリットが大きいと強調します。

加藤氏は今後、ベンチャーのノウハウを取り入れて作った商品を大々的に売り出すことも視野に入れており、東海地域で新たな「中小企業版ベンチャーモデル」が生まれる可能性に、会場は大いに盛り上がりました。

Session③ 廃材・廃棄物から新価値を生む循環を実装するには

セッション3で登壇したのは、廃材から新素材を生みだして内装や家具を製造するSpacewaspの伊勢崎氏と、排水中の油脂を分解する微生物技術を持つフレンドマイクローブの蟹江氏です。

伊勢崎氏は花の茎などの廃材からセルロースを抽出し、3Dプリンターの材料にする技術を有しています。さらに素材を作るだけに留まらず、内装を最速で提供することにもこだわり、デザインから施工までを一気通貫で進める構想も持っています。

「例えばカフェなどの店舗開業の場合、理論上は工期を従来の9割短縮できる」と語る伊勢崎氏。開業が遅れると、店舗の家賃や人件費の負担が増え、売上も減るという悩みは、多くの飲食店オーナーが抱えています。その課題をエシカルな方法で解決できる伊勢崎氏のビジネスに、会場からは熱視線が送られました。

蟹江氏は、食品工場などで産廃として扱われる油を微生物で分解し、環境負荷を下げる取り組みを進めています。また動植物油だけでなく機械油にまで範囲を広げ、現在は現場実証を重ねている段階とのこと。切削油・潤滑油などの廃棄に悩む製造工場にとっては、非常に注目度の高い話題となりました。

工期短縮や産廃の廃棄コスト削減といったプラス要素を多く含んだ2社の技術は、今後幅広い業界から求められていくことでしょう。

Session④ 現場のゼロから1を超える!新規事業協業論


続くセッション4のテーマは、スタートアップと事業会社のコラボレーションについて。実際に数年前から協業している、Polyuseの岩本氏と浜名エンジニアリングの佐久間氏がその裏側を語りました。

Polyuseは、建設会社と協働し、建設用3Dプリンターをはじめとする先端技術を活用したサービス提供を行う会社です。実際の道路工事などの現場で実績と売上を伸ばしており、浜名エンジニアリングに対しては3Dプリンターなどの製造をオーダーしています。

浜名エンジニアリングは、「のんスタ」スポンサーである三栄商事のグループ会社。三栄商事の後藤社長からの紹介で、岩本氏と一緒にビジネスをすることとなりました。Polyuseとの協業によって、浜名エンジニアリングは年間およそ2億円の売上を得たと言います。

中小企業にとって、売上の大部分を占める新規案件を受けるのは簡単なことではありません。新たな製品を作るうえでは人員配置の変更、製造ラインの変更といった現場の混乱も伴うため、「断られることも多い」と岩本氏は話します。

それでも佐久間氏がPolyuseとの協業を決めたのは、製品づくりへの熱意が合致したからです。岩本氏は「スタートアップの要求は、時に無茶な内容も含まれる」と語りますが、佐久間氏はその要求の奥にある「いいものを作りたい」という情熱に共感していました。そこで自身が調整役となって現場と交渉し、ものづくりを進めました。

2社の協業はPolyuseの量産体制を確固たるものとし、投資家からのさらなる資金調達にもつながっています。単なる受発注の関係性に留まらない「心強い製造パートナーの存在」は、新ビジネスを世に広めるための重要な要素になるのだと実感したセッションでした。

Session⑤ 現場が待つ知見の継承と可視化


最後のセッションは、技術承継に取り組むスタートアップが登場。登壇したのは、Sotasの吉元氏と匠技研工業の前田氏です。匠技研工業の「匠フォース」は、製造業の現場で課題となっている「新しい製品を作る際の見積作成」について、過去の実績データベースを参照して値付けし、見積スピードと精度を引き上げるサービスを提供しています。

前田氏はこれまで、学生時代も含め様々な事業を立ち上げた経歴を持ちます。それでも最終的に製造業の課題解決に飛び込んだ理由について、「自分にしか出せない価値を生みたいと思ったから」と語ります。私たちの生活を支えるものづくりの現場が抱える課題と、製造現場の人々が誇りをもって働いている姿に感銘を受け、製造業のDX化に乗り出しました。

とある企業では、「匠フォース」によって価格転嫁の成功による売上向上と、煩雑な事務作業から解放されたことによる仕事・生活の質向上につながりました。効率化の先にあるそれらの成果を聞いたとき、前田氏は自社の事業の意義を強く感じたといいます。

Sotasの吉元氏が向き合うのは、化学物質管理という「重要なのに目立たない仕事」です。化学製品は扱いを誤れば事故に直結する一方で、紙の帳簿で管理している現場もまだまだ残っています。Sotasのソリューションの導入により、化学物質を管理する部署がDX・AIの最前線として社内で注目され、プレゼンスが上がったというエピソードは印象的でした。

「ITツールが業務の難易度を下げることで、若手が入ってきやすくなり、世代間をつなぐことにつながる」という視点は、技術承継における重要なポイントです。さらに前田氏・吉元氏が口をそろえるのは、目の前の顧客を主役にする姿勢です。

前田氏は「日本のものづくりを世界に誇れる産業にしたい」と語り、吉元氏は「Sotasを社内に広めた担当者がDXの先駆者になり、出世したら最高」と笑顔で話します。技術承継や効率化だけに留まらない、IT・DXツールの可能性が垣間見えた対話でした。

ミニコーナー:注目のスタートアップ企業を紹介

セッションの合間には、会場のスタートアップを紹介するコーナーもありました。

スタジオアンビルトの森下氏は、個人向け間取り設計サービス「マドリー」と、住宅会社向けの「マドリープロ」を展開しています。設計者不足が深刻な住宅業界において、ハウスメーカーや工務店の裏側で設計を支える存在として成長を続けている会社です。

特に「マドリープロ」は、ハウスメーカーが注文住宅のプラン提案の幅を広げるなどの場面で活用が進んでおり、人手不足や繁忙期などにも対応できる心強いサービスとして、利用企業は年々拡大を続けています。

anienceの石井氏は、獣医師の資格を持ち、専門である獣医行動学の知見を武器に犬や猫の問題行動の改善をオンラインで支援するサービスを展開しています。例えば、愛犬のムダ吠えに悩む飼い主に対し、原因分析・適切な環境設定・問題行動の置き換えまでを理論に基づいてアドバイスするという内容です。

「ペットの問題行動にはすべて原因がある」と話す石井氏。犬や猫のしつけに悩む飼い主はもちろん、ペット領域の知見を求める事業者にとっても頼れる相談先になり得るとして、会場からは注目が集まりました。

まとめ


今回の「のんスタ vol.3」で繰り返し話題に上ったのは、「現場の困りごとをスタートアップの技術で解決に導く」という視点です。各セッションではスタートアップとの協業を示唆する会話も飛び出し、「のんスタ」が新たなビジネスの生まれる場となっていることが随所で示されました。

東海地域で活躍する製造業に、スタートアップのスピードと柔軟さが重なったとき、現場から変革が生まれる。そんな手応えを確かに感じた夜でした。次回「のんスタ」もどうぞお楽しみに!

――スタートアップと新たなビジネスパートナーとの出会いに、乾杯!

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