
2026年1月27日、名古屋大学オープンイノベーション拠点(OICX[オイックス])にて、少人数体制で新規事業を担う担当者に向けたイベント「【新規事業ナイト】1〜2名で新規事業を任されたあなたへ ― 壁を乗り越えるためのリアルと実践Tips」が開催されました。
既存業務を抱えながら「新しい事業を作れ」「スタートアップと協業しろ」という期待だけが大きくなる一方、相談相手は少なく、社内調整も難しい——。本イベントでは、現役の実務家が“1人担当者が詰まる構造”と、突破のための具体的な行動を語りました。
登壇者プロフィール
株式会社A1Growth 執行役員 / VP 柴田 雅大 氏
新卒でビッグローブ株式会社に入社し、複数の新規事業の企画立案・立ち上げに携わる。その後、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社に参画し、スタートアップとのオープンイノベーション推進を担当。国内外のスタートアップとの共創によるビジネス開発を推進した。2024年よりA1Growthに参画し、スタートアップ複数社のグロース支援や新規サービス開発の伴走に従事するとともに、同社の自社サービス・事業開発も推進している。
株式会社バリューグロー 代表取締役 田中 裕章 氏
株式会社デンソーで技術責任者を歴任し、デンソーインターナショナルアメリカではSenior Vice Presidentを務めた。シリコンバレーではスタートアップ支援や設立準備に携わった後、帰国。2020年に名古屋大学イノベーション戦略室特任教授に就任し、中部圏のスタートアップエコシステム形成施策や、東海圏の大学群が参画するTongaliプロジェクトに関与している。2021年に企業のイノベーション創出を支援する株式会社バリューグローを設立。2022年より中部圏イノベーション推進機構の事務局長を務め、Nagoya Innovator’s Garageではスタートアップピッチ「CENT Pitch」や「GLOW TECH NAGOYA」などを担当。ビジネスモデルの壁打ちや、ピッチ/プレゼンテーションへのフィードバックなど、起業家向けのメンタリングも行う。2023年4月より東海国立大学機構客員教授。
東海エイチアール株式会社 代表取締役 若目田 大貴 氏
HubAsia(バンコク)およびアブログ(東京)でセールス・マーケティングを経験した後、Webメディア運営会社を設立し、名古屋近辺のベンチャー企業に特化したオンライン経済新聞「Nagoya Startup News」の配信を開始。フリーランス型広告代理店・制作会社のmics LLCでマネージャーを務めたのち、新規事業のテストマーケティング支援に特化した東海エイチアール株式会社を設立した。支援実績として、作業支援ロボット「SUPPOT」(ソミック)、AI予測ツール「UMWELT」(トライエッティング)、新卒ナビ(名大社)などがある。プロジェクトマネジメントでは、営業・チームづくりのスキルと東海地域の企業・人材ネットワークを活かし、事業立ち上げを推進している。
その「詰まり」、あなたのせいじゃない:新規事業が止まる構造

—本日のテーマは、1〜2名体制で新規事業を任された方が“壁を乗り越える”ためのリアルと実践Tipsです。そもそも少人数の新規事業って、なぜ止まりやすいんでしょう?
若目田:新規事業って言葉の定義が曖昧なまま降ってくることが多いんですよね。DXを指しているのか、協業なのか、投資なのか。分からないテーマでは、事業って作れないです。
田中:(大企業だと)求められるスケールも大きいです。例えばこの規模を狙えと言われる中で、予算をもらい続けるには説明責任が重い。だから最初から、続ける/止めるの判断ができるようにしておくのが重要になります。
柴田:制度が整っていない環境だと、事業を進めるのと同時に意思決定プロセスも作らないといけない。正解がない中で、孤独も積み上がりやすいです。
—担当者が弱いというより、“構造”として止まりやすい、ということですね。
最初の3ヶ月は「大きく作るな」:最小で出して学習する
—最初の3ヶ月で止まる人が多いと思います。ここでは何をやるべきですか?
若目田:プロダクトがあるなら、まず値段が付いた状態で人に渡せる1枚を作ることですね。Webでもチラシでもいい。作りかけなら、機能を絞って単一リリースする。小さく出して、学習した方が早いです。
—いきなり完璧に作り込むんじゃなくて、最小単位で外に出す、と。
田中:私は誰に売るのかを指差せる状態にするのが先だと思っています。具体的な人物像とシーンをストーリーで描く。機能の話は、その後でも遅くないです。
柴田:3ヶ月って短いようで、実はタスクが多い。だから、相談相手を作る、顧客の解像度を上げる、この2つが効きます。顧客インサイトも、それ本当? 当たり前すぎない? 行動につながる? みたいに点検しながら精度を上げていく感じです。
— 最初の3ヶ月は、作り込みより“誰の何を解くか”を絞って検証する期間、という見立てですね。
経営は「数字」より「検証の筋」を見たい:温度差の埋め方

— 経営層との温度差。これが本当にキツいという声が多いです。この差はどう埋めていますか?
柴田:初期はアウトカム(数字)よりも、プロセスを報告し続けた方がいいです。顧客がこう言っていた、この発見があった、次はこれを確かめる。事実を積み上げると、進捗の納得感が作れます。
田中:意思決定者って本当に忙しいので、30秒でも捕まえて頻度高く共有するのが効果的です。あと企画書では、現在の延長線より、数年後こういう社会になるを置いた方が通りやすい感覚があります。
若目田:私も、うまくいかなかった経験があって。そこからは失敗プロセスをリアルタイムで共有するように変えました。現場で拾えるインサイトを短いサイクルで出して、機能の足し引きを続ける。そうすると期待値調整がしやすいです。
— 結果が出ないから叱られる、じゃなくて、今どこを検証しているかが見えると社内も安心しやすいということですね。
「兼務で時間がない」あるある:小さな到達点を握る

— 新規事業と既存事業を並行で担当しており、優先順位が既存事業に偏ってしまう、という相談が来ています。限られたリソースの中で進めていくと、これ起きがちですよね。どうやって新規事業の方にリソースを割いていくのがいいんでしょう。
田中:同じ人がやることは絶対無理だと思います。どっちをやりたいか、ですけどね。今までのやつをやるのは案外楽だし、新しい発見があったりすると面白いので、それはそれで面白いと思うんです。でも、やっぱり私は新しいことを立ち上げたいなと思うんだったら、今あるやつをいかに省力化するか、人工を稼ぐのか、もしくはどこかに投げるっていう提案をするか。要するに両方は絶対無理なので、自分がやりたい方を選んで、反対側はどこかに投げたりする算段をしないと絶対無理だと思うんです。そんなに万能ではないし、体死んじゃいますし。
— 使える時間は限られてますもんね。
柴田:経営層からすると、既存事業と並行させたいっていうのはあるなと思っていて。新規事業って、いつ潰れるか分からない、失敗するかもしれないので、新規事業にいっちゃうと職を失う、みたいなのが社内であります。分かりつつも、やっぱり両方並行するのは難しいです。
— では現実解としては、どう握るのがいいですか?
柴田:私が見てる会社でよくあるのが、新規事業のちっちゃな到達点、ここを達成したら新規事業に行かせてください、っていうのを上司と握ることです。
— 達成するKPIっていうのは、売上とかですか?
柴田:とても小さくていいんです。例えば、顧客のこの課題でこのインサイトが分かったら、ここに向けてプロダクトとかサービスを作っていかなきゃいけないので、その時点で新規事業に転籍させてください、というのを握る。そういうケースが結構あります。
— 最初から「専任にしてくれ」だと通らないけど、「ここまでやったら寄せてください」なら合意が作りやすい、と。
若目田:結局、いま何を検証して、どこまで進めたら次の状態に移るのかを先に握っておくのが、担当者のメンタル的にも助かりますよね。
(会場うなずき)
空中戦を終わらせる「言葉の定義表」:共通言語化の効き目

— 新規事業のイメージが関係者間で合わず、議論が空中戦になる、という相談が来ています。共通言語が存在していない状態ってありますよね。特にオープンイノベーションだと、企業をまたいで言語も文化も違う。
柴田:とても難しいので、ステップバイステップでやっていく感じです。いきなり大きな絵を描いて、資本関係こうして、これくらいの売上を作るために一緒にプロダクトを作って、みたいに描きすぎない方がいい。まずはスタートアップの商品を買う、使うところから始める。そこで一緒に使ってみると、相手の会社のカルチャーとか、普段使う言語とかが見えてくるので、まずそこから始めるのが重要かなと思います。
— いきなり壮大な合意を取りに行くより、まず共通体験を作る。
柴田:そうですね。変に描きすぎないことが大事です。
田中:私も、同じ会社の中ですら単語が違うって痛感したことがあって。昔、車を作るプロジェクトで人を集めた時があるんですけど、普通はプロジェクトって十数人くらいと言われる中で、74人集めたんです。
— 74人ですか!
田中:副社長に、おまえそんなの私は聞いてねえぞって言われたので、いやいや集めないと副社長が言ってることできませんよって返して集めたんですけど、その時に何をしたかというと——同じ会社の中でも、隣の部署の人と自分が使ってる単語が違うんです。多分、他社同士ならもっと違う。
— 同じ会社の中でも、もう違う。
田中:だから昼休みにやるぞって言って、毎日昼休みに握り飯持って私の席に来いって、リーダー格を集めて単語の意味表を作ってたんです。でないと、同じ試作って言ってもレベルが違うし、どのレベルの試作のことを言ってるんだとか、検証と言っても何の検証することなのかが皆違う。事業部によっても違う。お互い意思疎通してるつもりでも、全然違うレベルのことを言ってるんです。
—まずは定義を作っていく、というところからですね。定義表を作るだけで、空中戦が地上戦に戻ってくる感じがします。
柴田:言語が揃うと、次に「じゃあ今このステップだよね」って前に進める。逆に揃ってないと、噛み合ってない会話を続けちゃうので。
人がいない問題:最初から「組織」を作らない
— 人を探すのが仕事なのに見つけるのが大変、という声もあります。どうしてましたか?
田中:最初から組織を作るのは難しいので、副業的に週数時間から関わってもらう、という入り口もあると思います。
若目田:私は社内向けにプロジェクトの魅力を伝える動画を作って、工場内で流したことがあります。そうしたらギークな人が集まって、結果的に異動につながりました。
(会場笑い)
柴田:社内発信で興味ある人を募って、既成事実を作って巻き込むのも手です。最初は小さくでも、輪ができると進みやすい。
顧客に好かれ、上司に呆れられろ
—最後に、今日来ている少人数新規事業担当者に一言お願いします。
若目田:手触り感がなくなった瞬間に、早くピボットする。朝令暮改できるのが新規事業だと思います。迷ったときほど、いまの仮説で小さく試して、反応がなければ切り替える。その速さが、少人数でも前に進むコツです。
田中:悩み続けると心が摩耗するので、楽しさ側に立つ工夫をする。相手が何を聞きたいかを想像して、コミュニケーションを設計するのが大事だと思います。特に上司や役員には、結論と次の一手が30秒で伝わる形にして、会う回数を増やす。それだけで動きやすくなります。
柴田:以前役員から言われた言葉で、顧客からは好かれて、上司や役員からは呆れられろ、があります。社内評価に寄りすぎず、顧客に向き合い続けるのが推進力になると思います。もちろん社内を無視するのではなく、検証の事実を積み上げて“筋”を見せる。顧客と社内の両方に誠実でいることが、結果的に一番強いです。
編集部コメント
少人数新規事業が止まるのは、担当者の能力というより、兼務・意思決定・温度差・共通言語の欠如など“構造”によるもの——。その前提を共有した上で、最小で外に出す、撤退条件を用意する、プロセスを見せ続けるといった打ち手が、具体例とともに語られた90分でした。孤独になりやすい立場同士が悩みを言語化し、次の一歩を持ち帰れる場になった印象です。

