目指すのは設計者も住む人も幸せな世界|スタジオアンビルト代表 森下氏にインタビュー

投稿者: | 2019-04-06


建築業務のクラウドソーシング事業を展開するスタジオアンビルト株式会社(本社:愛知県名古屋市、代表:森下 敬司)が、2019年1月にシードラウンドで1.1億円を資金調達しました。この資金調達により、日本初の注文住宅の間取り作成サービス「madree」の事業拡大を目指します。今回は代表の森下 敬司氏に、資金調達の背景や今後の目標などを伺ってきました。

森下 敬司|プロフィール
1981年生まれ、岡山県出身、一級建築士。名古屋工業大学大学院卒業後、大成建設株式会社に入社し、設計業務に携わる。 (有)デクーンにてフィッシングウェア専門のECサイトの運営を経て、 2013年にスタジオアンビルトを設立し、建築デザイン分野のクラウドソーシング事業「STUDIO UNBUILT(スタジオアンビルト)」を運営開始。2017年6月に株式会社化をし、代表取締役に就任。2018年7月に「madree(マドリー)」をローンチ。

スタジオアンビルトを立ち上げたのは、建築の仕事の受注者と発注者を繋げるため


中原:スタジオアンビルトを立ち上げた経緯を教えてください。

森下:建築家を目指して設計を勉強していましたが、大学卒業後は大手総合建設会社に入社しました。働いていく中で、目指していた建築家像とは違う道に逸れてしまい、会社を辞めました。

その後はフリーランスとして仕事を受注しようと思いましたが、なかなか仕事が見つからず、知り合いのフィッシングウェア専門のECサイト運営を手伝い始めました。最終的にはサイト運営の統括を任されるようになり、その中でインターネットが持つ課題解決の可能性に気づき、インターネットを使って建築業界の課題を解決しようと思い立ったんです。

中原:建築業界の抱える課題とは、具体的にどういうものですか?

森下:建築の仕事は受注者と発注者がうまく繋がれていないという課題です。個人の建築士・デザイナーは、仕事に関して問題を抱えている人が多いです。たとえば私のように、仕事を見つけるのに苦労する人。また、仕事のほとんどは独立前の会社からもらう案件が中心で、それがなくなると一気に仕事がなく生活が苦しくなる人もいます。

一方で、工務店や設計事務所で働く人は深夜残業することも少なくありません。なぜなら、人手不足により業務量が多くても、1人で仕事をやるしかないのが現状だからです。

中原:受注したい人も発注したい人もいるのに、お互いのニーズを繋ぐプラットフォームがなかったのですね。

森下:はい。私は双方を繋ぐためにスタジオアンビルトを立ち上げ、「STUDIO UNBUILT」というサービスを開始しました。「STUDIO UNBUILT」は工務店や設計事務所が個人の建築士・デザイナーにアウトソーシングできる、BtoBのマッチングサイトです。

2018年7月には「madree」というサービスも開始しました。こちらは一般の方が建築士・デザイナーに、間取り制作をアウトソーシングできるBtoCのマッチングサイトです。

中原:「STUDIO UNBUILT」を立ち上げた次に、「madree」を開発したきっかけを教えてください。

森下:「STUDIO UNBUILT」の発注者はおもに工務店や設計事務所ですが、あるとき一般の方が発注してくれたのです。その方はハウスメーカーがつくった間取りに納得いかなかったそうです。そこで、一般の方にもニーズがあるのかもと思い、間取りについていろいろ調べるようになりました。

中原:間取りに関するどんなデータが得られましたか?

森下:Instagramで「#間取り迷子」「#間取り難民」と検索すると、間取りに関する悩みの投稿が数多く出てくることがわかりました。また、間取りに納得いかない一般の方が建築関係の人に相談することもよくあるようでした。さらに、住宅専門誌「日経ホームビルダー」によると、「日本で注文住宅を建てた人の約95%が間取りに不満がある」という調査結果もあります。これらのデータから「madree」にニーズがあることがわかり、開発に至りました。

「madree」に注力するのは、デザインに可能性を感じたから

中原:今回、「madree」の事業拡大にあたり資金調達を行った経緯を教えてください。

森下:「madree」はプラットフォームという特性から、資金調達して拡大することでより良いサービスになります。発注する一般の方が増えるほど建築士・デザイナーは仕事が充実します。それと同時に、受注する建築士・デザイナーが増えるほど間取りの質が上がる可能性が高くなります。また、提携する住宅会社が増えるほど、一般の方は理想の家づくりができやすくなるメリットがあります。

中原:「madree」に力を入れているのはなぜですか?

森下:間取り制作というデザインの仕事をオンライン化すると、家を建てる方が住んでいる場所にとらわれず理想の家を建てられるようになるからです。

「STUDIO UNBUILT」では、すでに設計の仕事を細かく分割してオンライン化しています。分割された仕事には、図面やCGパースなどいろいろありますが、その中でもデザインの部分をオンライン化すると、地方に住んでいても東京在住の建築士・デザイナーのデザインで家を建てられます。

しかし、「STUDIO UNBUILT」では、ほかの仕事に比べてデザインが取引されることは少なかったのです。

中原:それはなぜですか?

森下:建築関係者には、デザインだけを発注するという概念がそもそもありません。なぜなら、設計の一連の流れは、最初のラフなデザインから施工まで、複数の工程で成り立っているからです。

中原:詳しく教えてください。

森下:これまでの建築業界では、「最初のラフなデザインから詳細設計、施工監理まですべてを含めて設計の仕事」と捉えて業務を発注するのが当たり前のことでした。また、建築士・デザイナーもデザインの部分だけを受注しようと思う人はほとんどいませんでした。そこで、一般の方がデザインの一つである間取り制作だけを発注するとうまくいくのではと思い、生まれたのが「madree」なんです。

「madree」を事業拡大することにより、最終的には「STUDIO UNBUILT」にもデザインの仕事を増やしていきたいです。

中原:森下さんはデザインの仕事にこだわりがあるんですか?

森下:はい。多くの建築士・デザイナーにとって、デザインは特に面白いと感じる仕事なんですよ。ラフなデザインを書いた後の設計図面を書く仕事は作業に近いので、デザインのゼロからイチをつくるクリエイティブなところに魅力を感じるのではないでしょうか。

今後、「STUDIO UNBUILT」や「madree」にデザインの案件が増えると、建築士・デザイナーもより楽しんで仕事ができ、プラットフォームとしての価値も上がっていきます。

設計者の「良い家をつくりたい」思いを形に


中原:今回の資金調達によって、なにか変化はありましたか?

森下:「恐れず行動に移せる機会をいただいた」という意識になったので、積極的に挑戦できるようになり、事業が成長するスピード感が変わりました。また、資金調達すると上場を目指す意思表示になるので、上場をサポートしてくれる企業が増えてきたと感じます。

まだシードラウンドなので、事業拡大してグロースするよりは、サービスを最適化してニーズに沿った形にする段階と考えています。

中原:スタジオアンビルトを通して達成したい目標を教えてください。

森下:設計者の「良い家をつくりたい」という思いを形にすることです。建築業界特有のハードワークのなか、人手不足やスキル不足が原因で、設計者につくりたいものがあっても実現できないことがあるのが現状です。

その課題を「STUDIO UNBUILT」や「madree」によって解決し、設計者にとってより良い仕組みや環境を整えていきたいです。その結果、新しく建築する家の質が高くなり、心地よい空間が日本中に増え、そこに住む人や利用する人も幸せになると思います。そういう世界が実現できることが私の願いです。

中原:今後はどのような展開をしていくのでしょうか?

森下:会員数約3800人(2019年3月時点)の「STUDIO UNBUILT」は、建築士・デザイナーのネットワークを数万人レベルまで拡大する予定です。その鍵になるのが、受注者や発注者がどれだけ多くの仕事を選べるか、発注したいと思える十分なスキルを持つ人材が揃っているか重要だと思います。

まずは「madree」を成長させ、建築士・デザイナーにとって面白みのあるデザインの仕事を安定して受注できるようにしたいです。また、「madree」を成長させていくうえでサービス対象地域の拡大も視野に入れています。現在(2019年3月時点)は、東京・愛知・大阪・福岡をはじめとした13都府県に限定されているので、最終的には全国で使えるように提携する住宅会社を増やしていく予定です。

編集部コメント

シードラウンドにして1.1億円もの資金調達をした、名古屋発のスタートアップ企業スタジオアンビルト。代表の森下氏は建築の潜在的ニーズに着目し、建築業界のみならず住む人もより良い形に変えていきたいと熱い想いを語りました。今回の資金調達を経て、「madree」を始めとする事業拡大に向けてさらなる飛躍が期待できそうです。