【特集】循環するアントレプレナーシップ教育をつくる|Tongali運営事務局 東海地区5大学をインタビュー #三重大学編

投稿者: | 2022-01-14


これまでNagoyaStartupNewsでは東海地区の大学による起業家育成プロジェクト「Tongali」に携わる経営者・起業家の方々をインタビューさせていただきました。今年度は、「Tongali」を運営している方々に焦点を当て、東海地区5大学のTongali運営事務局を取材します。第4弾は三重大学です。三重大学でTongaliプロジェクトを担当する八神 寿徳(やがみ ひさのり)氏にお話を伺いました。

Tongaliプロジェクトとは


Tongaliプロジェクトとは、学部生・大学院生を中心に次世代の起業家を育成・支援する多面的なプログラムを提供する団体です。東海地区の大学による協働で運営されており、プロジェクトを通して東海地区の産業の活性化、雇用の創出に貢献するとともに、グローバルなイノベーションエコシステムの構築に取り組んでいます。

TongaliプロジェクトHP:https://tongali.net/

三重大学について


三重県津市に位置する三重大学は、「人文学部」「教育学部」「医学部」「工学部」「生物資源学部」の5つの学部があります。また、大学院には地域のニーズを発見し、問題解決するための「地域イノベーション学研究科」が設立されています。国内でも数少ない海に面した大学で水産に関する海洋生物資源学科が存在します。県内で唯一の国立大学であり、地域自治体との連携も盛んです。教育方針も「学術文化の発信・受信拠点として、地域に根ざし、世界に誇れる独自性豊かな教育・研究成果を生み出すことを目指す。」としています。

三重大学HP:https://www.mie-u.ac.jp/

プロフィール

八神 寿徳(やがみ ひさのり)
三重大学 准教授
地域イノベーション推進機構知的財産統括室 副室長
大学院地域イノベーション学研究科 博士(情報科学)

インタビュアー
齋藤 剛(さいとう つよし)
東海エイチアール ディレクター

大学独自に始まったアントレプレナー教育

齋藤:三重大学もEDGE-NEXTの採択によって五大学共同のTongaliプロジェクトが発足されたと思います。これまで三重大学で行ってきたTongaliに関わる活動を教えてください。

八神:三重大学ではTongaliプロジェクトが発足してから、アントレプレナー教育のメニューが基礎・応用・実践で構成されるようになりました。そのほかにもセミナーなどを学内向けに用意しています。

Tongali発足後に整えられたメニューもありますが、三重大学は発足前から一部の先生方が独自でアントレプレナー教育を行っていました。例えば、工学研究科では、2004年ごろからTLO(大学等の技術を産業界に移転するための機関)の社長さんに出前授業をしていただくなど、外部の専門家を入れながら実施していました。ですので、私たちは新規でアントレプレナー教育を立ち上げたというよりは、既存で大学にある授業と連携したり、先生方を巻き込んでセミナーを開催したりといった傾向が強かったと思います。

齋藤:三重大学はアントレプレナー教育が他の大学より授業への取り込みが多いようですね。

八神:つい最近EDGE-NEXTのサイドビジット(プログラムのマネージャーが、実際にプロジェクトを実施している現場を訪問し、意見交換を行う機会)を受けた際にも同じことを言われました。「三重大学は授業を通じて取り組んでいるプログラムが多いですね」と。大学全体として取り組んでいるところは三重大学の強みになると思います。

齋藤:三重大学でのアントレプレナー教育について具体的に教えてください。

八神:基礎編では、「日本理解特殊講義(地域の仕事を知る)」「ベンチャービジネス論」「企業経営特論」「知的財産権概論」といった経営者の考え方・生き方、企業運営についての基礎的な考え方を知る講座です。応用編は「日本理解特殊講義(起業マインドの醸成。旧アントレプレナー論)」「学生アイデアブラッシュアップ支援」といった基礎的な考え方を使って問題の本質を見抜く力や課題解決について身につけてもらいます。実践編では、実際に学外のビジネスコンペに参加して、魅力的に感じさせるプレゼン技術の習得や実際の社会ニーズを見抜く力を養います。

(画像:「学生アイデアブラッシュアップ支援2021審査会」実施報告の様子)

これらの大学内の講義・セミナーを通じて、TongaliスクールやTongaliプロジェクトなど5大学全体で実施するイベントも学生に案内しています。

産学連携により三重大学全体としてアントレプレナーシップ教育を進め、「日本理解特殊講義(地域の仕事を知る)」というプログラムには三重県内の13の機関の方々と連携し授業を実施しました。

そのほかにもビジネスアイデアを持った学生が企業などの関係者に向けて自らのビジネスプランの発表を行う「三重大学版DemoDay交流会」を実施し、学生が考えたビジネスプランに関して企業経営者や有識者から助言や支援を受けるマッチングを図るプログラムがあります。

学生起業家・海外ビジネスコンペへの参加

齋藤:三重大学での活動について詳しくお聞きできました。Tongaliの活動を通じてやりがいや魅力を感じたことを教えてください。

八神:昨年度(2020年度)に三重大学で行われた「日本理解特殊講義(起業マインドの醸成)」という講義を受講した学生がその講義の最後のピッチコンテストで優勝し、そのアイデアに興味を持った企業様の協力を受け2021年7月に起業しました。ほかにも東ワシントン大学(米国)と連携したアントレプレナーシップセミナーを実施しまして、セミナーの最終日のピッチコンペで一位になった学生を東ワシントン大学のビジネスコンペに参加させ優勝したことがありました。

プログラムを通して、学生が大きく成長した姿を目の当たりにするとすごく達成感があります。

本学の学生が東ワシントン大学アイデアピッチコンテスト予選会で1位を獲得しました|2018年03月02日

学内友人づくりアプリ開発めざす 三重大生が会社設立 起業テーマの授業がきっかけ|2021年9月30日

齋藤:国内でも海外でも学生が結果を出しているとは驚きました。海外でのビジネスコンペで優勝できた要因には何があったのでしょうか。

八神:国内で実施したセミナーでは学生同士が競い合いしながら学んだことが大きな成長になったと思います。また、セミナーで講師としても来学した東ワシントン大学の先生2名が、東ワシントン大学でのビジネスコンペの際、開催前2日間にわたってみっちりとマンツーマンでプレゼンテーションの指導をしてくださったことも大きかったです。

「三重大学・東ワシントン大学 アントレプレナーセミナー」実施報告|2019年9月13日

齋藤:どのような指導がされたんでしょうか。

八神:先生方のプレゼンテーションの指導で印象的だったことは、「日本語訛りの英語でいくら上手く話そうとしても意味がない。ノンネイティブはノンネイティブなりのプレゼンテーションをしたほうが良い。それを理解したうえで上手くプレゼンテーションしないとネイティブの中で勝ち残ることはできない。」とおっしゃっていたことです。日本で行う日本語のプレゼンテーションと違い、ほとんどの日本人の話す英語は日本語訛りが抜けず、話の聞き手となるネイティブの興味を引くことができず、結果、ビジネスアイデアもうまく伝わらないことが多いそうです。

ピッチのプレゼン形式も会場前に出る形式ではなく、審査員が会場を回る形式やピッチ参加者が審査員を回る形式ですので日本でよくあるプレゼンの仕方とは違っています。この形式に合わせたプレゼンテーション技法として、「プレゼン冒頭では、10単語以内でビジネスアイデアを伝え、インパクトを与える」という、プレゼンテーション技法を指導され、学生はその練習もしていました。

齋藤:ビジネスアイデアを端的に伝えてインパクトを残すことは日本でも活かせそうですね。

三重大学が目指すアントレプレナー教育の姿


齋藤:ピッチコンテストや起業といった実績のある三重大学ですが、多くの学生が積極的に参加されているんでしょうか。

八神:三重大学の学生は、比較的おとなしい学生が多い印象があります。地元志向が強いと言われていて、活動もあまり活発ではない印象を受けていまして、例えばほとんどの人はアイデアピッチコンテストへの出場やビジネスアイデアを考えるセミナーへの参加といったことには積極的ではない傾向が強い気がしています。

しかしながら、少なからずTongaliプロジェクトに積極的に参加する学生もいます。そういった学生は非常に熱心で、粘り強さがあり、学外でのピッチコンペで実績を残したり、企業等の支援を受けてビジネスを始めてみたりと、本学の学生の潜在能力は決して低くないと感じています。参加してくれた学生がピッチコンテストで成果を出せるようになれば、認知が広がりより多くの学生が参加してくれるのではないかと考えています。

齋藤:三重大学のTongaliが今後目指していく目標を教えてください。

八神:社会に出ると、答えのわからないこと(答えの決まっていないこと)に対してその解決策を自ら考えていかなくてはなりません。多面的かつ客観的に物事を捉え、解を導き出すための考える力が必要とされます。三重大学におけるTongaliの活動の一番の目標は問題の本質を見出し、解決策をきちんと考える力を身につけた学生が社会人としてたくさん輩出されることです。アントレ教育といっても、起業する学生に留まらず、会社に入社して社会人になっても公務員や教員になったとしても必要とされる要素がアントレ教育の中にはあります。輩出された学生、そして企業様・自治体様が、将来的にアントレプレナーシップ教育を支援するような、パートナーとして三重大学に協力していただける、という循環が生まれるとベストだと思います。

アントレ教育は三重大学の中でも最近重要視されてきてはいますが、大学の中の教員やスタッフだけでの取り組みでは限界があり、産業界の方と連携しての活動が必須であると感じています。産業界からの人的支援、金銭的支援について是非お願いしたいところです。

学生へのメッセージ

齋藤:最後にTongaliプロジェクトに興味がある学生にメッセージをお願いします。

八神:アントレプレナーシップ教育と聞くと「起業」が頭でイメージされますが、起業に限らず将来どんな選択肢を持っていようが、全ての社会人にとって役立つスキルや考え方が身に付く教育だと思っています。あまりいいアイデアを出すことができないと敬遠することや、ビジネスモデルって難しそうだ、ハードル高そうだ、と敬遠することをせずに気軽にセミナーに参加してみたり、授業を受けてみたりして欲しいです。

参加障壁が高い学生のために運営事務局では、いつでもアントレプレナーシップ教育を受けられる動画教材を作る予定です。興味がある学生はまずその動画を視聴してみて、イメージができたら話を聞きにきてもらうのもいいのかなと思います。

編集部コメント

三重大学は企業だけではなく地域との連携実績が豊富で、産学連携の積極性が伺えました。運営事務局も学生目線に立って方法を模索していることを感じ、この機会生かした多くの学生が実績を残しアントレプレナーシップの循環が三重大学を通じて生まれていくことを期待します。

▼三重大学ホームページ

▼Tongaliプロジェクトホームページ

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今年度のNagoya Startup Newsでは、東海地区5大学のTongali運営事務局を取材します。これまで取材した運営事務局の記事もぜひご覧ください。

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