世界をリードするイギリスの”AI”最新事情を聴いてきました

投稿者: | 2017-04-07
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2017年3月28日(火)に開催された、英国総領事館主催の「世界をリードする英国AI最新事情-Overview of the UK AI Landscape」セミナーを聴講してきました。多くのAIスタートアップを創出するイギリスでは、今どのようなAI研究が行われているのか、実社会でどのように活用していくのかを知ることができました。

AI分野で世界をリードするイギリス

EU離脱に向けて動き出したイギリス。EU内外の国と自由貿易協定を結び、「外向きなイギリス」を目指しています。最先端の科学に裏打ちされた高度な技術の結集で、AI研究にさらなるイノベーションを起こすために、他国との連携も積極的に行っていく構えです。 今回の講演会は、イギリスが日本企業との協業の機会を探るために開催されました。イギリスの大学の研究者や政府専門家6名が登壇し、イギリスにおけるAI分野の最新研究と実社会への活用、政府の施策などが紹介されました。 その講演内容を簡単にご紹介します。

デーヴィッド・サイラッド氏

デーヴィッド氏は、DIT(英国大使館国際通商省)のAEMスペシャリスト。ヨーロッパ・アジア・北米での自動車分野に携わり、多くの一次・二次サプライヤー企業とのビジネス、研究開発に従事。日本企業の研究サポートも行ってきました。 サイラッド氏は、イギリスのAIスタートアップが置かれている環境を中心に、DITの役割などについてのプレゼンテーションを行いました。

「イギリスの企業や研究機関は、日本とのコラボレーションに強い関心を持っています。イギリスの企業は大変オープンで、日本企業であってもその扱いは対等。どんな企業であっても、“イノベーション”に参加することができます。」

イギリスではイノベーションしやすい環境が整っています。急成長を遂げている段階のAIスタートアップが多いのも、規制の寛大さゆえのもの。公道での自動車実験も度々行われています。 また、イギリスは多岐の分野にわたるAIスタートアップが存在しているので、イギリス企業や大学との連携を考えたとき、どんな分野でもチャンスがあります。

「イギリスの企業や大学とのコラボレーションをお考えでしたら、ぜひDITにご連絡を! 共に研究開発を進めるパートナーをご紹介します。私たちDITはコンシェルジュとしての役割も担っているので、ビザのことや銀行のことでもご相談いただければ、ご案内します。」

フランク・ウッド博士

オックスフォード大学 物理工学科の准教授。コーネル大学を卒業後、ブラウン大学にてコンピュータ科学博士号を取得。Invrea Ltd.を起業し、現在はアラン・チューリング・データ科学研究所でフェローも務める。 ウッド博士は、「確率論的プログラミング」に関する研究成果について言及しました。 今はビッグデータの時代ですが、誰しもが簡単にビッグデータを手に入れられるものではありません。特定の変数の代わりに確率を使用する「確率論的プログラミング」なら、より少ないデータでマシンラーニング(機械学習)を手助けすることができます。

「『確率論的プログラミング』は、汎用性の高い新しい技術です。例えば金融シミュレーションにも応用できます。それから、デザインやオブジェクトの設計、ピクサーのようなCGグラフィックなどにも使えます。」

ロボットを使用してプロダクトを製造する例が挙げられました。ロボットは、与えられたタスクは理解できますが、もし手元の材料がなくなったらどうするのでしょうか。 材料がある場所は、ロボットにとって「未知の場所」です。材料のある場所を探るために、特定の姿勢をとったり、材料を輸送したりすることが必要になってきます。確率論的プログラミングを応用し、3日間のトレーニングをすれば、これも可能になるそうです。 「『確立的プログラミング』をどのように使えるのかを一緒に考えていきましょう」との言葉でウッド博士はプレゼンを締めくくりました。

ロベルト・シッポラ教授

ケンブリッジ大学を卒業後、オックスフォード大学にてコンピュータビジョン博士号を取得。東芝R&Dセンターで技術者として従事したのち、ケンブリッジ大学で教鞭をとる。 本講演では、自身が最も注力しているリサーチ分野である、コンピュータビジョンやロボティクスについての研究成果を発表しました。 ロベルト氏は、大きな可能性のある製品として、「モービルアイ」を紹介しました。「モービルアイ」は、車に後付けできる「衝突防止補助システム」。画像処理アルゴリズムを利用して、他車や障害物、人とぶつかるまでの距離や相対的な速度を計算するシステムです。衝突の危険を察知したときに、アラームが鳴ります。

「『モービルアイ』は平面画像(2D)を利用して実体(3D)までの距離を測るものですが、その逆の技術もあります。」

例として、東芝の「感情付き音声・顔画像合成技術 XpressiveTalk™」が紹介されました。 これは、コンピュータや機械とのインタラクティブユーザーインタフェースをより自然で身近にするために開発された、音声と表情で感情を表現するアバターです。このアバターはメッシュ構造で作られているので、人間と同じように表情が豊かです。 1枚の女性の顔の画像に、表情を持たせます。さらに、音声をつけます。そして、その音声に”感情”を入れます。「私は話を聞いてくれないと、感情的になっちゃいます」というセリフに、喜びや悲しみ、怒りといった”感情”を入れて再生するというデモを行い、場内からは歓声が上がりました もう1つ紹介されたのが、東芝の「仮装試着サービス」。カメラで映写された試着者の映像の上に、あらかじめ用意した洋服の画像データを重ね合わせ、あたかも試着しているように見せるシステムです。ケンブリッジ大学からは、このような技術を応用する会社がスピンアウトしました。

キャサリン・ニール博士

ケンブリッジ大学にて音声言語教育に従事する、シニア・リサーチ・アソシエイト。ノッティン学大学を卒業後、インペリアル大学にて博士号を取得。2002年には、東芝欧州研究所・ケンブリッジラボにてスピーチテクノロジーグループを設立。 本講演でのテーマは、「AIの音声コミュニケーションの挑み」でした。

「AIディープラーニングの課題として挙げられるのは、”音声認識”。音声認識に関するAI技術はあまり進んでおらず、”テキスト”の方が効率的に認識することができます。しかし、”音声”からは、より多くの情報が得られます。」

音声認識の技術が向上すれば、インターフェース以外……たとえばコールセンターのオペレーターや、エンターテインメントの分野でも応用することができるそうです。マイクロソフト中国のAIチャットボット「シャオアイス」も、さらなる進化が期待できると述べていました。

「”会話”は、シンプルなものではありません。そこで今私が行っている研究は、会話を個別のモジュールに分けることです。”音”は波形なので、モジュールに分けたフレーズをコーディングするなどして、何か別のものに変換できればと考えています。」

情報の多い”音声”ですが、「Siri」や「Amazon Echo」の普及が進み、得られる情報量が多すぎるという側面もあるそうです。そんな中で、人工知能をトレーニングするにあたって役に立つあるいは価値のあるデータは、意外なことに十分ではないのだとか。この辺りを強化していきたいと、ニール博士は語っていました。

インゲマー・コックス教授

ロンドン大学・コペンハーゲン大学のコンピュータサイエンス学部教授。ロンドン大学卒業後、オックスフォード大学にて博士号を取得。最も注力するリサーチ分野は、ヘルスケアのためのSNSデータ分析。 本講演では、「計算疫学(Computational Epidemiology)」をテーマにしたプレゼンテーションが行われました。 「私は、みなさんがgoogleで何を検索しているのか、Twitterで何をつぶやいているのかをもとに身体的な状態を分析し、ディープラーニングを行います。」 Twitterのツイートを分析することで、感染症の流行予測や、薬の副作用を調べることもできるそうです。たとえば、「薬を飲んだ」その後「髪の毛が薄くなったような気がしてきた」とツイートする。この一連のツイートを複数の人がしていたとして、それを分析することで、薬と副作用を結びつけることができます。 この研究は、交通渋滞の緩和や、メディアリサーチにも応用できるのだとか。コックス教授は、これを「疫学」に使用しています。SNSやインターネット検索のデータを使用することで、病気になることを予測したり、治療の効果を測定したりする学習モデルの研究をしているそうです。

「たとえば、アメリカの『OkCupid(アメリカで人気の出会い系サイト・SNS)』では、男性は身長を実際よりも高めに申告している場合があります。高身長の男性が好まれるので、高めに言っておきたいのでしょうね。 逆に、『初めての性交渉はいつですか?』といった、対面では答えにくいような質問でも匿名性であれば本当のことを言いやすいですよね。こういったものは、ネットからの方がデータを集めやすくなっています。」

一方で、ネット上で得られるデータは全てが正しいものではないということも述べていました。

「映画の『Saturday Night Fever』を観たのか、熱(fever)があるのかを精査する必要があります。」

データを解析する上での基礎となる技術には、統計的な言語処理やTwitterの検索クエリを使用しているそうです。もちろん、解析には年齢や経済レベルといった、個人のバックグラウンドも加味されています。 コックス教授は、マーケティングや広告、スマートシティなど、「計算疫学」を幅広い分野に応用できると述べていました。また、日本には豊富なデータセットがあり、イギリスやアメリカとの比較もしてみたいという希望もあるそうです。

ヤーリン・ガル博士

ケンブリッジ大学にてコンピュータサイエンスに従事するリサーチフェロー。現在は、アラン・チューリング・データ科学研究所でフェローも務めている。イスラエルのオープン大学を卒業後、IDesia Biometrics社で3年間ソフトウェアエンジニアとして勤務。その後、オックスフォード大学コンピュータサイエンス学部にて修士を取得。 本講演のテーマは、「ベイジアン・ディープ・ラーニング」でした。 まずは、「そもそもディープラーニングとは一体何なのか」を詳しく解説しました。そこで、このように述べていました。

「AIにとって最も重要なことは、AI自身が何を知っていて、何をわかっていないかを判別できること」

学習モデルにとって、ドロップアウトすることは簡単なことではありません。少量のデータで「わかりません」と答えることができれば、人間がフォローすることができます。

「そこでモデルをあざむくために、ノイズを入れた画像を読み込ませ、判別させます。モデルごとにそれを繰り返すことで、『不確実性』を測ります。不確実性が判断できれば、ディープラーニングはさらに色んな分野で活用できるようになります。」

皮膚ガンを写真で判別する学習モデルに、専門家による判断をネットワークに組み込みます。これをベースモデルとして使うことにより、方法論を形式化することができるそうです。専門家を超越するような判別はできないかもしれないが、専門家が見逃したシグナルを見つけることができるかもしれない、と語っていました。

編集部コメント

イギリスの大学や企業では、すでにいくつかの大手日本企業とともに、AIプロジェクトを進めているそうです。1つのプロジェクトに対して、複数の企業が共同で研究を進めているものもあるのだとか。国内でも、産官学の連携は盛んに行われています。 今回セミナーを主催した英国総領事館では、冒頭にサイラッド氏が話したように、イギリスと日本の橋渡し的役割を果たしています。イギリスへの進出や研究開発に興味があれば、気軽に相談してほしいとのことでした。