社労士による個別訪問相談が無料!愛知県雇用労働相談センターの企業訪問サービスを体験してみた

投稿者: | 2018-11-15

創業時に労務関係の社内整備ができていない状況下では、とにかくトラブルが頻発することを、起業家である読者の皆さんはご存知かと思います。創業者のみでスタートアップした会社も事業拡大とともに、従業員を雇う段階を迎えるのではないでしょうか。実際に人を雇う場合には「労働条件通知書」などの書類を作成したり、社会保険・労働保険など様々な労務関係の手続きが必要になってきます。

国家戦略特別区域法に基づいて設置されている「愛知県雇用労働相談センター」では、弁護士と社労士による相談サービスを行っています。さらに、社労士による労働条件通知書の簡易アドバイスや就業規則の簡易チェックなどの訪問サービスも無料で実施しています。今回は、2018年4月に設立されたmics合同株式会社の代表社員 長谷川氏に個別訪問サービスを体験してもらいました。

愛知県労働雇用センターでの窓口相談の体験記事はこちら

そもそも、労働条件通知書とは?

長谷川:今回は、愛知県雇用労働相談センターの相談員をされている社労士の山下さんに会社までお越しいただき、色々と相談させていただきたいと思います。

それでは早速ですが、労働条件通知書とはどういうものなのか教えてください。

山下:労働条件通知書とは、その名前のとおり会社が従業員を雇用するときに労働条件を相手に知らせるものです。通知書の内容は、労働基準法により定められています。

長谷川:雇用契約を結ぶ際は、基本的にはどのような人に対しても労働条件通知書が必要なのでしょうか。例えば、正社員だけではなく契約社員やパート、学生のアルバイトなどがありますよね。

山下:そうですね。労働基準法で定められている労働者には、正社員はもちろん有期契約社員やパートタイマー、アルバイトなどの短時間労働者、日雇労働者も当然当てはまります。実は、雇用契約自体は「働いてください」「いいですよ」といった口約束でも法律的には成立します。ただし、細かな労働条件は文書で通知するよう労働基準法で決まっており、その際に、労働条件通知書が必要になります。

長谷川:労働条件通知書の内容は、具体的にどのようなものになるのでしょうか。

山下:契約期間、働く場所、業務の内容、勤務時間、休日、休暇、賃金、退職などの項目があります。それぞれの事項には、さらに細かく明示する内容が決まっています。

長谷川:今回、はじめて労働条件通知書を作成しようと思い、インターネットで検索すると、いろいろなフォーマットが出てきました。このフォーマットは決められたものでしょうか。

山下:通知書の中に決められた内容を網羅していれば、どのようなフォーマットでも構いませんが、労働条件通知書には必ず明示しなければならない事項があります。このフォーマットにある「一般労働者」とはいわゆる正社員で、その他の有期契約社員やパートタイマー、アルバイトなどの短時間労働者なども、通常このフォーマットを使用します。

長谷川:労働条件通知書のフォーマットは、インターネットで検索して出てきたものを適当に使用しても大丈夫ですか?

山下:そうですね。インターネットで検索していただくと、様々なフォーマットが出てくると思いますが、絶対にこのフォーマットでなければいけないというものでもありません。ただし、網羅しなければいけない必要な内容が細かく定められているため、厚生労働省のホームページからダウンロードしていただくのが1番よいと思います。

▼厚生労働省公式ホームページの労働条件通知書ダウンロードページはこちら

長谷川:労働条件通知書はいつ、どの段階までに用意すればいいでしょうか。

山下:通常、従業員を募集する前には、ある程度決めておく必要があります。ハローワークや雑誌、インターネットの情報誌などに求人を出すことが多いですよね。求人を出す際にはルールがあり、労働条件通知書と共通する項目も多いため、これをもとに求人をかけるわけです。

長谷川:労働条件通知書などで労働条件を明示していない場合は、どういう措置が取られますか。

山下:法律違反と判断され、労働基準監督署から指導を受けることがあります。さらに明示していても、実際の労働条件と異なる場合、労働者から一方的に労働契約を解除することができます。また、会社には労働基準法第120条によって30万円以下の罰金が科せられる場合もあります。

例えば、従業員は「就業時間が9時から17時で残業はない」と聞いていたのに夜中の12時まで働かされたり、賃金は時給○○円と聞いていたのに会社の業績が思わしくないから減らされてしまったら、「話が違うじゃないか!」となりますよね。この場合に労働条件通知書により文書で明示していないと、言った言わないの水掛け論になってしまいます。

長谷川:それは世に言うブラック企業になるのではないでしょうか。

山下:結局、なぜ法律で決められているかと言うと、会社と従業員のトラブルを防ぐためなんですよ。労働条件通知書を交付した時点で、お互いに権利が発生します。例えば、「最初に明示された労働条件と違うから、明日退職します」という権利。もし、会社が「あなたが無断退職したため営業ができなくて、これだけ損害が出た」と言ってきても、従業員は「労働条件が全然違うからですよ」と言えます。どのような労働条件としたか忘れないためにも、会社側で控えを残すことをおすすめします。

リモートワーク、フレックスタイム制を取り入れる場合

長谷川:労働条件通知書の概要について理解できたので、実際に労働条件通知書を作成してみましたが、いくつか疑問点が出てきました。弊社の働き方は、基本的にはリモートワークです。極端に言えばインターネットがあればどこでも仕事は可能。その場合は通知書に明示する「就業の場所」はどのように記載したらよいのでしょうか。

山下:例えば、家族旅行でもパソコン持って仕事ができればどこでもいいということですね。その場合、就業の場所には会社の所在地を書いていただきます。そして、「在宅ワークとインターネット環境がある場所での就労も可能」というように記載していただきます。

長谷川:今は、労働者自身が労働時間の長さや始業・終業時刻を決めるフレックスタイム制を取り入れた会社も増加しています。そのような企業はどういう通知をしているのでしょうか。

山下:労働条件通知書には「始業・終業の時刻等」という事項の中に、フレックスタイム制について明示するところがあるんですよ。フレキシブルタイムは何時から何時の範囲内で、コアタイムは何時から何時の範囲内で勤務してくださいと記入します。

例えば、所定労働時間が8時間、フレキシブルタイムが午前6時から午後9時までであれば、この間で、自分の好きな時間帯に働くことができます。ただし、その間の午前11時から午後2時はコアタイムとすると、必ずこの時間帯は勤務してくださいねという趣旨で記入します。

長谷川:私はデザインとビデオグラファーをやっており、そちらの業務に集中するためにバックオフィスを雇いたいです。

山下:クリエイティブな職業の方は、成果に対して報酬を得るような働き方ができますね。時間拘束をされたくない、気分が乗っているときに一気に仕事をしたり、気分転換に休憩したりという働き方が合っていますよね。

逆にバックオフィスであれば労働時間は決められていることが多いですね。実務8時間以内であれば自由に設定してもらって大丈夫です。また、必ず8時間にしなければいけないわけでもありません。

長谷川:就業時間の設定について詳しく教えてください。私たちはリモートワークのため、就業時間を明確に定めていません。

山下:一応、始業・終業時刻の明示は必要です。リモートワークだからいつでもいいでしょう、深夜0時の納期だから何とか押し込んでよ!ということではいけません。

長谷川:例えば1日3時間働いて欲しいけれど、毎日働いてもらうほどの仕事がない場合はどうなるのでしょうか。

山下:勤務時間は何時から何時まで、例えば出勤は月・水・金曜日の3日間で、休日は火・木・土・日曜日など。就業時間が短い分には構いませんし、法定労働時間の範囲内なら時間や曜日をどう設定するかは自由です。

長谷川:就労時間が短い分には問題ないんですね。もし、追加して仕事をお願いしたい場合はどうなるのでしょうか。

山下:その場合は、最初に決めた3時間が所定労働時間ですね。どうしても忙しい場合は残業をお願いする可能性がありますと明示しておけば、働く人も「そうか、じゃあ普段は3時間だけど忙しい時は残業することもあるんだな」と分かりますよね。就業3時間でしたら休憩もいりません。休憩は1日で6時間を超えて働く契約をする場合に必要です。

長谷川さんはどのような労働条件をお考えですか?

長谷川:例えば、週2.5営業日、自由な時間で働いてくださいという設定を検討しています。1日8時間ベースにしたとき、週20時間くらいの稼働で、月の稼働時間が平均40時間くらいです。

山下:法律上の話をすると、ある程度は1日の労働時間の目安を決めておかないと年次有給休暇に関わってきます。例えば週20時間を、月曜日から金曜日で5日間、毎日4時間ずつ働いてもいいし、3日間でまとめて働いてもいい。その辺を従業員に自由に管理させることはよくあります。

もちろん、1日8時間を週に2.5日働いたとしてもいいんですが、その場合は年次有給休暇の付与日数で困ることがあります。年次有給休暇は週や年間に何時間または何日間働いているかで付与日数が決まります。

例えば、従業員が「明日、有給休暇を取ります」と言ったときに、何時間分の給料を支払えばいいのかという問題が出てきますよね。「私は明日8時間働きたいと思っていたので、8時間分の有給休暇をください」と言われたときに困りませんか。

長谷川:そこは従業員を信じるしかないのでしょうか。

山下:「有給休暇をください」と言われたときに対応できるよう、契約としてある程度は固定をしておいた上で、1日の勤務時間を明記するとよいと思います。

長谷川:次に賃金について教えてください。労働条件通知書の「基本賃金」は何に注意して定めればよいのでしょうか。

山下:基本賃金を定める時は最低賃金法に注意してください。最低賃金は毎年10月頃に改正され、働く全ての労働者に適応されます。賃金自体は月給制にしても構いません。月給制にした場合は、時給に直したときに、愛知県の場合ですと最低賃金898円(2018年10月現在)を下回らないように設定します。

よくあるのは、基本給は低く設定し、能力手当や資格手当など手当をたくさん支給している企業もありますよね。毎月必ず支払われる手当と基本給を合算して時給に換算し、最低賃金以上であれば問題ありませんが、会社として説明ができるようにしておかなければいけませんね。

▼最低賃金を下回っていないか、愛知労働局のホームページでチェック

労働条件に関するトラブルを引き起こす原因とは

長谷川:雇用契約時に労働条件通知書を使って、対面で従業員に説明を行えば、トラブルも抑えられそうですね。しかし、中には労働条件で会社と従業員がトラブルになっているニュースも見かけます。なぜ、そういうことが起こるのでしょうか。

山下:労働条件通知書で労働条件をきちんと明示している企業もありますが、していないところもあるのが現状です。

長谷川:私もアルバイトで働いていたとき、労働条件通知書をもらわなかったこともありました。

山下:労働条件を口頭で言われて、実際に働き始めてみたら話が違ったというのはやはりトラブルになります。経営者から従業員に話がきちんと伝わっておらず、納得して働けていない状態ですよね。

私も経営者なので分かるのですが、経営者からするとそんなトラブルは本来できるだけ避けたいはずです。トラブルに気を取られずお互い仕事をしたいものです。特にベンチャー企業は経営者ご自身が日々のあらゆる仕事をしていかなければならない場合が多いです。最初のこの手間を惜しんで、のちのち大きなトラブルになって経営に集中できないことは、会社にとって損害になりかねません。

長谷川:確かに、経営に集中するために従業員を雇って業務の一部を託しているので、避けられるトラブルは事前に回避したいです。

山下:愛知県は大手企業が多いですよね。今まで大手企業で勤務してきた方だと、その水準がご本人の中で労働条件の常識になっている場合があります。

例えば、大手企業では入社してすぐに年次有給休暇を10日もらえるところもあります。それは大手企業だからであって、労働基準法では年次有給休暇は半年経ってから付与されるものとなっています。事前に伝えていないために、「あの会社ではこうだったのに、この会社はブラックだな」と言われたら嫌ですよね。

現代ではインターネットの口コミサイトから好ましくない噂が広まってしまうリスクもあります。「うちの会社ではこういう労働契約ですよ」と労働条件通知書に明示しておくとトラブルを避けることも可能です。

※規則の改正により、2019年4月以降は労働者が希望すれば、PDF等による労働条件通知書の電磁的交付も可能になります。

まずは気軽に相談を

長谷川:今日は労働条件通知書についてよく理解できました。会社にお越し頂いたので、より気兼ねなくたくさん質問することができました。ありがとうございます。就業規則や社会保険・労働保険のこともよく分からないので、今後も相談できますか?

山下:このような形での訪問サービスは、「通知書や就業規則を作ったけど、どうかな?労働条件設定や求人募集はどうしたらいいのかな?」など各種相談に対して、無料で実施しています。就業規則についても、簡易チェック訪問を別途ご予約いただけます。社会保険・労働保険などについてもどういうタイミングでどういった手続きがいるのかお気軽にご相談ください。また、愛知県雇用労働相談センターの窓口や電話でも相談が可能であり、平日の朝9時から夜8時半までご利用いただけるので、経営者の方には大いに活用していただければと思います。

これから人を雇いたいと思うんだけど……まだ何すればいいのか分からないというような漠然とした相談でも構いません。会社の成長に応じて考えていくべき手続きや対応、トラブルの予防策などもアドバイスが可能ですので、ぜひ愛知県雇用労働相談センターにご相談ください。

編集者あとがき

創業期には事業内容の拡大に伴い、社内整備もその都度変化していくものですが、専門家に相談することにより的確に対応できると感じました。愛知県内で雇用や労働に関する相談がある方は、無料で利用できる専門家による訪問サービスを利用してみてはいかがでしょうか。

愛知県雇用労働相談センターの公式HPはこちらから