スタートアップのキーパーソンが語る「あの日、東京を選ばなかった理由」とは?IDENTITY EVENT#2 レポート

投稿者: | 2017-09-15

企業と地域のデジタルマーケティングを支援するクリエイティブカンパニーの株式会社IDENTITYが、8月30日(水)に中京テレビ本社にてトークセッションイベント「IDENTITY EVENT#2」を開催しました。

イベントのテーマは「あの日、東京を選ばなかった理由。“地方”という舞台で挑戦することを決めた起業家たちの本音」。名古屋と福岡の起業家、そして神戸でアクセラレーションプログラムを行うベンチャーキャピタリストの3名のゲストを迎え、起業のエピソードや資金調達方法、スタートアップのエコシステムなど、「地方での起業」というテーマについて各々がさまざまな方向から語り尽くしました。

スタートアップ界のキーパーソンが集結するということで、もともと50席だった定員はイベント開催前に70席にまで増席。注目を集めたイベントとなりました。今回は、そのトークセッションの様子をお伝えします。

登壇者プロフィール

※各登壇者のプロフィール写真はIDENTITY EVENT#2イベントページより引用

豊吉隆一郎


株式会社Misoca代表取締役。「世の中を仕組みでシンプルに」をビジョンに、クラウド請求サービス「Misoca」を提供する。2016年には弥生株式会社とM&Aし、請求書発行の自動化のみにとどまらず商取引のプラットフォーム化も目指す。Misocaの主な拠点は名古屋だが、リモートワークの制度を採用しており、全国各地にフルタイムリモートで働く社員がいる。社員がこの先も長く働けるような仕組みづくりやワークスタイルにもこだわり、社内の平均残業時間はなんと月間42分とのこと。

カズワタベ


ウミーベ株式会社代表取締役。元ミュージシャンからIT業界に転身し、東京でのスタートアップ経営やフリーランスとして活動。2014年、釣りがさかんな西日本であり、かつ住環境に惹かれた福岡県でウミーベ株式会社を設立。「釣りを、やさしく」をコーポレートビジョンに掲げ、月間200万PVを超える釣りの総合情報サイト「ツリホウ」や、釣った魚の写真を共有して交流するスマホアプリ「ツリバカメラ」を提供している。会社名の「ウミーベ」の通り、オフィスは海辺に構えている。

澤山陽平


シリコンバレーを拠点に世界60ヵ国1800社以上に出資する「世界で最もアクティブなシード投資ファンド」、500 Startups。その日本ファンド、500 Startups Japanのマネージングパートナーを務める。2016年から神戸市と500 Startupsがパートナーシップを結び、アクセラレーションプログラムを開催。神戸市と共同で、ベンチャー企業を育成する6週間のプログラムを行っている。澤山氏は500 Startups Japan就任前は野村証券のベンチャー部門に在籍し、全国のベンチャー企業を年間約200社訪れていた経験から、地方のベンチャーやスタートアップにも精通する。

モリジュンヤ(モデレーター)


フリーライターとして数々のメディアに寄稿するほか、「THE BRIDGE」など様々なメディアの立ち上げや運営にも関わる。IDENTITY EVENTを主催する株式会社IDENTITYの共同代表取締役も務める。

<第一部> 地方で起業することのリアル。実際に起業してみて感じたこと

— それぞれの「あの日、東京を選ばなかった理由」とは


モリ:今日はお三方と一緒に「地方での起業ってどうなの?」というテーマで話していきます。まずは、起業した土地について。なぜその土地にしたのかを伺っていきたいと思います。ワタベさんいかがでしょう?

ワタベ:僕は仕事というよりは、住環境を意識して移住しました、でも、最低限のITコミュニティが存在するかどうかは、意識したポイントのひとつです。

はじめは京都、沖縄、福岡で迷っていましたが、ITコミュニティの発展度という観点で京都と福岡に選択肢を絞りました。その中で福岡を選んだのは、福岡が他の土地から来た人間への疎外感がゼロだったことが大きい。福岡の人は最も地元に愛着が強い、というデータも出ているらしいです。

さらには、彼らは地元を好きになってくれた人も好きになるんです。「福岡に来た人は全員、福岡好きにして帰してやろう!」という気持ちが強いみたい。だから、僕は福岡でよそ者だと感じたことが一度もないです。

モリ:外から来た人に対して、オープンなのですね。

ワタベ:ええ、異常なほどにウェルカムです!2泊3日で2回遊びに行ったことがありますが、3回目にはもう移住を決めて物件を契約してしまったくらい、住環境は良かったです。

モリ:豊吉さんはどうでしょうか?

豊吉:私が名古屋を選んだタイミングは、フリーランスのときと起業したときの2度ありました。フリーランスで仕事を始めたときは、地方を選んだというよりは、むしろ都会に出て来たつもりで名古屋に来ました… 私は岐阜県出身なので(笑)

会社を作ったときは、私が名古屋でIT系の勉強会を主催していたので、そこでできた仲間と一緒に働きたいなと思い、そのまま名古屋で会社を設立しました。

モリ:澤山さんは、野村証券時代に地方に行く機会が多かったと思いますが、各地方で起業した方々に、なぜその土地にしたのか尋ねることはありましたか?

澤山:そこが出身地だったからとか、その地域にゆかりがあったからという理由が多かったと思います。地方にも面白い企業はたくさんありますよ。たとえば、大分で60歳くらいのおじいさんが経営する、牛の出産を検知するデバイスを開発するベンチャーがありました。そういう変わった企業を見つけられたときは、こちらも嬉しかったです。

— 地方起業の課題はリソース確保。採用面ではエンジニアよりも広報が不足?


モリ:地方にもユニークで尖った企業があるのですね。

澤山:ええ。でも起業することは簡単でも、それを育てる部分は難しいと思います。社長の仕事って、人やお金を集めることだと思いますが、地方だとそれが難しいのではないでしょうか。

僕も、地方に投資したい気持ちはあるのですが、なかなか情報を集められなかったりするので。

モリ:なるほど。いわゆる1→10、10→100の部分が地方では大変ということでしょうか。ワタベさんはいかがでしょう?

ワタベ:難しい要素はいくつかあると思います。一つは資金調達。今は、東京のベンチャーキャピタルが地方に注目し始めているので、むしろ地方からアプローチすると喜んでもらえることもあります。地銀系のファンドもそのエリアでしか投資できないようなルールがあったりするので、投資を受けやすい地域もあるようですね。

採用に関しては、一長一短な部分があると思います。もちろん、東京の方が圧倒的に母数が多いですし、質の高い人材がいる可能性も高いです。一方で、採用における競争力はエリア内での話でもあると思います。東京だと、たくさんお金を持った会社と戦わなければならないことが多く、人材の採用競争が激しい。エンジニアの採用も高騰してきていると思いますし。

それに比べると、福岡には大きなITベンチャーがまだ少ない分、「このエリア内では一番イケてるベンチャーだぞ」という雰囲気を出せば、そのエリアでいい採用ができると思いますよ。

あとはマーケティング。地方における最大の弱点です。東京に比べて地方は発信に対する意識が薄い。東京で目立つことができていたら全国的にも目立っていることになります、だって東京で目立つことが一番難しいから。でも地方だと、そのエリアでしか目立つ経験をしたことのないマーケティング担当者しかいないのです。エンジニア採用よりも、PR・広報採用の方が足りてないかもしれませんね。

モリ:コミュニケーションの部分に課題があるのですね。豊吉さんはいかがでしょうか。成長段階の地方企業にとって、リソース確保は難しい点ですか?


豊吉:厳しい面もあると思いますが… Webマーケティングは場所関係なく勝負できると思います。でも、機会損失だったかな?と感じたのは、提携や連携のお話をいただいた時に、東京に行くにしてもアポが1,2週間後になったりして、話が進まなかったりしたときです。

結果的にはWebマーケティングに集中できたと思いますが、サービスがうまくいかない時は、自分がすぐに東京に行ける環境だったらな、と思うこともありました。

モリ:遠方の企業との提携・連携が難しかった反面、コンテンツのマーケティングに集中できたということですね。

豊吉:そうですね。それから、ワタベさんもおっしゃっていた通り、PR・広報に関しても大変。理由は明確で、地方には出版社やテレビ局が少ないので、広報経験者の数の差が大きい。発信していく習慣も地方のベンチャーには浸透していないと思います。

モリ:採用に関してはいかがでしょうか?

豊吉:得したと思うことの方が多いです。印象的だったのは、Wantedlyでたくさん応募が来たこと。面接の際にどうしてMisocaに応募したのか聞いてみると、「御社しかなかったからです」という理由が多かったです。

ワタベ:うちもWantedlyではよく採用していますね。

モリ:なるほど。プレイヤーが少ない分、競争相手や比較対象も少なく、採用しやすい面があるのかもしれませんね。

ワタベ:コミュニティの繋がりが強いので、最近流行りのリファラル採用も多いです。福岡も若手のエンジニアの勉強会コミュニティがあったりするのでそこ経由とか。

— スタートアップが少ないからこそ、地元から応援してもらいやすい?


モリ:地方だとネタが少ない分、地元のメディアに取り上げてもらいやすいこともあるのでしょうか。その土地の人々から応援されやすいと感じることはありますか?

ワタベ:うちはまさにそう。ユーザー数は東京よりも福岡の方が多いですし、地元のメディアに取り上げてもらえる機会も多いです。そこでのユーザーアクションを見ながら戦略を考えています。早く全国区になりたい気持ちはありますけどね。

豊吉:私の場合、中日ドラゴンズの担当の方にたまたまベンチャー好きな方がいて、すごく親切にしていただきました。ドアラに会わせていただいたり、スポーツ新聞に載せていただいたり… Misocaはスポーツ紙に載った数少ないベンチャー企業になれたと思ってます(笑)応援はとても嬉しいし、ラッキーだと感じます。

澤山:神戸のアクセラレータープログラムでも事例がありましたよ。医療ツーリズムをやりたい中国人がいて、その場合は病院側に受け入れてもらわなければならないのですが、外国人やベンチャーという点で、普通だったら簡単にいくものではありません。

そこで神戸市がかなりサポートしてくれて、最初の事例として作り上げることができました。東京だったら実現しなかったかもしれません。

モリ:地方では、行政が後押しや応援をする動きもさかんなのでしょうか。

ワタベ:福岡の市長も変わった方ですよ。福岡にFukuoka Growth Nextという施設があるのですが、それは廃校になった小学校をリノベーションして、格安で利用できるスタートアップの支援施設にしようという市のアイデアからできたんです。場づくりという点では、福岡も積極的です。

モリ:名古屋ではどうでしょうか?


豊吉:名古屋にはあまりないですが… Misocaのリモート先の松江市には、Ruby Cityというのがあります。プログラミング言語のRubyに関する企業の誘致を積極的に行っています。面白いので、私たちも拠点を作りました。お金の支援があったり、地元の企業と繋げてくれたり、採用面で大学や高専に連れていってもらったりしました。

モリ:なるほど。ウミーベさんだと、東京から福岡に戻るUターンの受け皿にもなっているのでしょうか?

ワタベ:Uターンだけでなく、Iターンもいますね。東京生まれだけど地方で働きたくて、ちょうど福岡にいい会社があった、みたいなケースも。

モリ:東京でも、地方移住をはじめとした「ライフスタイルの見直し」をする人が増えているのかもしれませんね。

ワタベ:ええ、でも移住の懸念はやはり「仕事」のようです。そもそも仕事があるのかどうかと、東京に比べて面白い仕事があるのかどうか、という2タイプの懸念。そこが解決したら、移住者も増えると思います。

モリ:Misocaも、Uターンを積極的に受け入れているのですか?

豊吉:いろいろですが、東京に疲れちゃったという人もいれば、結婚を機に名古屋に戻る人も。リモートという点で勤め先を探している人も増えていると思います。

<第二部> 地方スタートアップは、資金調達とどう向き合うべき?

— デット、エクイティ、自己資本… 地方ならではの”ハイブリッドな”資金調達方法?


モリ:Misocaさん、ウミーベさんは、最初はどのように資金調達したのでしょうか。

豊吉:私はもともと個人事業主で受託開発をしていて、その延長で共同創業者を迎えて起業しました。最初は一人が受託、一人が自社サービスをやる形でした。

モリ:外部からお金を稼ぐ人と、自社サービスでお金を稼ぐ人がいたという体制ですね。

豊吉:最初2年くらいはそうでしたね。その後、VCから出資を受け、会社設立から半年ほどで「Misoca」をリリース。幸いにもユーザーが増えていましたが、僕も結婚していたので、生活を保つためには受託を止めるわけにもいかず… でも中途半端だと他の企業に負けてしまうので、VCからエクイティ(株式発行など、返済の必要がない資金調達)を受ける選択をしました。

モリ:なるほど。ウミーベさんの場合は?

ワタベ:弊社も、アプリをリリースするまでは行政の融資を受けたり、福岡のベンチャーキャピタルや東京の事業会社、東京のファンド、メガバンクや九州の地方銀行などからも資金調達しています。

モリ:地方のスタートアップは、デット(借入や社債など、返済の必要がある資金調達)やエクイティなど、ハイブリッドな資金調達をしているイメージがあります。

澤山:ハイブリッドというか、そもそもVCが少ないので、VCから調達する選択を持っていない経営者も多いと思います。自己資金のみだったり、借り入れをするケースが多い印象です。

地方と東京の話から少し離れますが、日本とシリコンバレーを比べると、融資額の違いは35倍の差があります。アメリカでは年間7兆円の投資額に対し、日本は2000億円くらい。さらにその内訳を見ると、エンジェル投資額の差が激しい。アメリカのエンジェル投資額は2兆4000億円くらいあるのですが、日本では統計が存在しないくらい少ない。

本来はエンジェル投資が会社設立時に一番重要だと思いますが、それを埋めるのが融資であり、地方はその選択が多いかもしれませんね。

ワタベ:政策金融公庫の資本性ローンもいいと思いますね。うちも使ってます。

豊吉:うちもです。

— 目指すビジョンにいち早く到達したい企業と、その思いを叶えるためにいるVC


モリ:地方では自己資金や借り入れで起業した人も多い中で、なぜエクイティだったのかという理由はありますか?

ワタベ:エクイティで調達しなくてもいいならする必要はないと思いますが。地道に売り上げをたてて自社サービスにまわしてもスピード感には限界があります。僕は調達を前提にしていたし、その事業モデルでリターンも想定していていました。調達するなら伸びる事業モデルを考えなければならないと思います。

同じモデルの事業が出てくる可能性も考えたら、スピード感は命だと思いますね。

モリ:豊吉さんは、調達しないとスピード感が落ちてしまうという考えがあったからでしょうか。

豊吉:そうですね、でも僕は単純に、「調達してみたいな」という気持ちがあったからです。「調達してメディアに載ってみたいな」みたいな… でも周りに相談したら、「豊吉くん、ちゃんとファイナンスを勉強してからじゃないとダメだよ!」と言われちゃいました。

お金がないからといってゆっくりやってたらチャンスを逃すかもしれないというのもありますが、そもそも僕たちは「Misoca」というサービスがいち早く広がり、世の中が良くなればいいなと思っていたので、サービスの成功を考えて調達しました。


澤山:豊吉さんのその考え方はすごくいいと思います。手段よりも目的が大事。とんでもないことを目指す人がいるからこそ、それを叶える最短距離を支えるためにVCがいるのです。

ビジネスは、VCファンドビジネスとライフスタイルビジネスに分かれると思っています。目標にたどり着いたらお金を返せるし、むしろそこまで到達しないと実現できないようなビジネスが前者で、じっくり伸ばして社員が食べていけるように事業を行うビジネスが後者です。

ワタベ:どちらが良い悪いではなく、どちらがやりたいかですよね。

<第三部>どうやったら地方の起業は増える?行政やエコシステムの面から

— 日本はシリコンバレーになれなくても、「酸素濃度の高い場所」は作れる

モリ:スタートアップのエコシステムを作る上で必要な要素は何でしょうか?

澤山:世界中の500 Startupsメンバーにエコシステムについて聞いたところ、一番多かった回答は「とにかく投資すること」。失敗もたくさんあるが、たくさん投資することで起業家が増え、それが「自分にもできるのではないか?」という呼び水になります。

モリ:火種があるところの火を大きくするというよりは、薪をくべるときに「ここだったらもっと火が大きくなるのではないか?」というような選別も必要なのでしょうか。たとえばアクセラレーションプログラムに積極的な神戸市長のように、熱量がある人がいる場所を選ぶとか。

澤山:いわゆる「酸素濃度の高いところを選ぶ」という話はよくします。シリコンバレーだと、カフェに起業家がうじゃうじゃいるような「酸素濃度の高い状態」が普通になっていますが、それをそのまま日本で再現するのは難しい。でも、局所的に濃度を高くすることはできると思います。たとえばこの会場内とかね。

エコシステムにも色々な要素がありますが、一番大事なのは楽観や信念だと考えています。「なんとかなる」っていう気持ちと、「世界を変えられる」という信じる気持ち。実はこれがシリコンバレーに満ちている要素の正体です。

シリコンバレーに行く必要はないけど、シリコンバレーのマインドセットを持つ必要はあると思います。

— エコシステム作りのカギは、「自分にもできるかも」を増やすこと


モリ:福岡のエコシステムはどうですか?

ワタベ:福岡にいると、6年前の東京を見ている気持ちになります。若手がスタートアップを立ち上げる動きがあったり。

起業家の成熟度でいえば、僕は「普通が違う」とよく言います。シリコンバレーのような酸素濃度が高い場所では、そこにいる人たちにとってその濃度は「普通」だということです。地方では、スタートアップに関する話題は新しいかもしれませんが、東京では「普通」のことで、むしろこういう話しかしていない。シリコンバレーはそれが東京よりもさらに先進的ってことです。

福岡はこれから濃くしていこうとしていますし、「普通」が変わって行くことがエコシステムの成熟だと思います。

モリ:「普通」を変えていくためには、起業を志す若者が増えたり、そこにアドバイスでき人が増えるといいのでしょうか。

ワタベ:エンジェル投資家やメンターも少ないですが、起業家の成功事例もまだ少ないですね。

たとえば、大学で一緒に講義を受けていた友達が起業して億万長者になったら、「自分にもできるんじゃないか?」と思えますよね。東京の起業家だったら遠い存在ですが、一緒の教室にいるような人だったら身近に感じられます。

モリ:豊吉さんはどう思いますか?

豊吉:僕がフリーランスで上場を目指していた会社を手伝っていたとき、当時はその会社の経営者よりも、スキル的には自分の方が優れているところもあるかなと考えていました… 会社の社長も決して完璧ではないということです。それまでは、上場企業の社長はスーパーマンじゃなきゃいけないイメージがありましたが、絶対にそうである必要はないと思いました。

僕はそのときに「自分にもできるのかも」と勇気をもらい、起業にチャレンジできました。「できるかも」と思う人が増えれば、エコシステムが育って相互に助け合えるようになると思います。

モリ:Misocaはイグジット成功例の一つだと思いますが、今後エコシステムの中で担っていきたい役割など、意識していることはありますか?

豊吉:私自身、まだまだチャレンジしていきたい気持ちがあります。一方で、私はエクイティによってエコシステムに入ることができ、上昇気流に乗れたと思っています。だから私も資金調達やサービス向上などの経験をオープンにして、エコシステムに引っ張り上げる側になっていきたいです。

— 失敗は終わりじゃない。失敗も経験としてシェアするのがメンターの務め


モリ:澤山さんは、地方の成功例に対してどう思いますか?

澤山:神戸のアクセラレータープログラムに参加していたドバイのとある起業家が、プログラムを卒業する際に「メンターになるのに早すぎることはない」と語っていて、すごくいいなあと思いました。

「自分はまだまだ」と恐縮してしまう人もいますが、プログラム受けることも、起業すること自体も立派な経験。成功も失敗も後輩に伝えることは、エコシステム作りのために大事だと思います。

ワタベ:東京はメンターが多く、いろんな人がいますよね。目先の問題を相談できたり、年齢の近い人がいたりとか。それがたくさんの成功事例を生んでいる理由かなと思います。

モリ:「メンター」という言葉に臆せず、みなさんが学んだことをどんどん積極的にシェアしていくといいのかもしれませんね。

ワタベ:そうです。本来、世代や経験によって教えられることは人それぞれ違います。例えば僕は音楽をやってたので、音楽だったら詳しいし、その分野にならメンターになれるのと同じで。

澤山:失敗事例も必要かな。「起業で失敗すると終わりだ!」というイメージがまだあるのかもしれません。

豊吉:僕も前はそう思っていました、「失敗したら終わり」って。でも実は違います。うちには一度はスタートアップをたたんで、今はMisocaで一緒にバリバリ働いている人もいます。海外にはFailConもあるみたいだし、失敗をシェアするのもいいですよね。

ワタベ:スタートアップをやったことのある人はマイノリティで、貴重な存在だと思います。人材採用、事業づくり、プロダクト開発まで… 全部経験した人なんてそうそういないですから、失敗してもどこかで受け入れてもらえると思いますし。僕も元はバンドマンだったので、スタートアップをやることで職歴ロンダリングしてる感覚はあります(笑)

質疑応答の時間


会場から出た質問と、それに対するゲストの回答のうち一つをご紹介します。

質問者:私は名古屋の大学生で、4ヶ月前からスタートアップの取締役として働いています。名古屋でやっていて悩むのが、エコシステムの中で同世代の勢いを感じづらいこと。スピード感とか、23歳とはいえもう若くないんだってことを感じづらいというか… 東京の人と話すと、もっと激しさがないといけないのかなと感じてしまいます。

地方から東京に出て、同世代の勢いを感じに行った方がいいのでしょうか。周りの仲間はどちらかといえばそういったことはしないタイプなので、他のエコシステムに顔を出すことは意味のあることなのかな、と悩んでしまいます。

ワタベ:僕は仕事がなくても、月に一回は東京に行くようにしています。地方でもモチベーションを保ち続けられる人はいると思いますが、僕はそうじゃないので。東京にいる同世代の起業家仲間に会いに行って、互いの近況を報告しあっています。

僕より先に起業した人たちはどんどん先に進んでいるので、悔しさやもっとがんばろうという気持ちが生まれますよ。ご自分がそういった場を求めるタイプなら、周りを説得してでも行ってみるのも、いいんじゃないでしょうか。

仕事は、人生の中の自己表現。「どう働くか」よりも「どう在りたいか」


モリ:最後にワタベさんに、「仕事とは何か?働くとは何か?」という問いに回答していただき、締めくくりたいと思います。

ワタベ:哲学的な質問ですね… 実は僕、働くのはあまり好きじゃないんです。1日8時間働くのとか、アホだなあと思ってしまったり。産業革命から何百年も経っていて、衣食住も本来自動化できるはずなのに、過労で亡くなる人もいる。僕はそうった点は否定的に捉えています。仕事って食いぶちを稼ぐための人生中の一部でしかないはずなのに、そこに思い悩んで亡くなる人がいる社会構造はおかしいと思っています。

仕事とは、あくまでも人生の中の一部であるべき。「どう働くか」の前に、「自分がどうあるか」が定まっていない限りは、働き方も明確に決められないと思っています。「大学出て就職したら、3年は同じ会社で勤めたほうがいい」というような世間の風潮とか、合理的じゃないと思いますし。

僕は一つの働き方としてスタートアップの経営を選びました。僕にとって仕事とは自己表現の一部であり、クリエイターとしてのプロジェクトの一つだと考えています。

モリ:この話題だけでトークイベントが一回開催できるくらい、最後に難しい問いに答えていただけました、ありがとうございます。

このあたりで、今日のイベントは終わりたいと思います。みなさんありがとうございました!

編集部コメント

地方のスタートアップ経営者や、地方ベンチャーの実態をよく知るベンチャーキャピタリストが、思うまま、ありのままの「地方での起業」に対する見解を話してくださっていたと思います。

東京でも地方でも、起業におけるメリットやデメリット、難しい点などはそれぞれあるのでしょう。しかし、3人が口を揃えておっしゃっていた「自分にもできるかも?」という気持ちや、そう思わせてくれる環境は、どの地域にいたとしても共通して大切なエコシステムの要素だと感じました。