東海地区に誕生した新しいコミュニティとは?NAGOYA CONNÉCT #11 イベントレポート

投稿者: | 2021-06-14

イノベーションの促進と交流の機会として名古屋市が主催している「NAGOYA CONNÉCT」(運営:Venture Café Tokyo)が5月28日、オンライン形式で行われました。当日は、東海地区に誕生したイノベーションやスタートアップの支援施設などからコミュニティマネージャーら代表者が参加し、活動内容を紹介。UX視点のものづくりをテーマにしたトークや、リーダーとして活躍してきた女性たちの体験談も聴くことができ、今後のビジネスのヒント、スキルアップにも生かせる内容でした。

文:中村
写真:中村

「ちょっとした繋がりからイノベーションを生むことができる」がテーマのイノベーションコミュニティ

NAGOYA CONNÉCTは昨年7月から、毎月第4金曜日に開催されています。キーワードは「ちょっとした繋がりからイノベーションを生むことができる」。イノベーションを促進するためのパネルセッションなど学びの場と、繋がりの機会を組み合わせるプログラム。関心のある人なら誰でも無料で参加できます。毎回、150人前後の参加者を集めているイノベーションコミュニティになっているそうです。

この日のテーマはコミュニティにフォーカスし、「Central Communitiesーもっと面白くなる東海地区ー」。コロナ禍で変化する社会や生活とともに、新しい形のコミュニティが誕生しており、ニューノーマル時代に向け、東海地区で生まれた新しいコミュニティが紹介されました。午後5時から始まり、9時近くまで、2つの会場をZoomで出入りしながら、活発に展開されたセッションに初めて参加しました。

名古屋、浜松などで活動しているコミュニティマネージャー、起業サポーターらによるトークセッション

5時半からスタートした「東海地区のこれからをおもしろくするNew Communities」をテーマにしたトークセッションでは、名古屋、浜松などで活動しているコミュニティマネージャー、起業サポーターらが登壇。順番に取り組み、展望などについて話しました。

一番手は、浜松いわた信用金庫が運営する浜松市の「FUSE(フューズ)」でした。「事を起こそう」「何かやってみよう」。事業を立ち上げようとする人たちの活動拠点です。自分の経験をシェアし、互いに高め合いながらカタチにしていく。紹介したFUSEコミュニティビルダー渡邉迅人さんからは、浜松に息づく「*やらまいか」精神を感じました。

*やらまいか:浜松市の方言で、「やってやろうじゃないか」の意味。

遠州・浜松の隣、東三河の豊橋市からは、自動車などの部品メーカー武蔵精密工業が運営する「MUSASHi Innovation Lab CLUE」。企業、個人、自治体職員らが各々の枠を越えて集い、学び合いながら、地域としてのイノベーション創出を目指すミッションを、コミュニティマネージャー鈴木隆文さんが熱い思いで語りました。

政府のスタートアップ戦略拠点の1つとして、全国から注目されている名古屋からは、多くの支援施設のコミュニティマネージャーらが登壇しました。国際的なスタートアップ支援拠点として、愛知県が目指している「ステーションAi」の取り組みについて、前段階の「プレ・ステーションAi」の統括マネージャー山本有里さんから説明がありました。プレ・ステーションAiには現在、さまざまな業種の34社が入居。4月から統括マネージャーが常駐し、バックアップしています。「自ら起業する半分の期間で起業」を目標とし、今後が楽しみです。

東海地区のスタートアップをけん引している名古屋大学。昨年、本格的に始動した「OICX(オイックス)」について、運営業務を担当する森一浩さんが紹介しました。大学が運営するインキュベーション施設で、新しいビジネスを起こすための支援体制をわかりやすく話していました。現在、スタートアップ企業とベンチャー企業が入居しています。

中部経済連合会と名古屋市が設立した「NAGOYA INNOVATOR’S GARAGE」も、参加しました。会員制のコワーキングスペースです。異業種分野の交流などからイノベーションを誘発する場とし、統括マネージャーの山下哲央さんは10~20年後に大規模の新たな産業を生み出すと言い、意欲を感じました。

ものづくりカフェ、FabCafe Nagoyaからは、立ち上げから携わるコミュニティマネージャー斎藤健太郎さんが参加しました。国内外に12拠点あるそうです。クリエーターと素材メーカーをつないでイノベーションを生み出すプラットフォーム「マテリアル」などを行っています。名前の通りカフェもあります。「教育=ものづくり」。斎藤さんは「作ることでいろいろな発見ができる」と語りました。

コミュニティマネージャーではないですが、不動産情報を載せない不動産ウェブサービス「さかさま不動産」を運営している藤田恭兵さんも、登壇しました。借りたい人が、物件を借りてやりたいことを投稿、物件のオーナーからのメッセージを待ち、やりとりして契約するという仕組みを紹介しました。逆転の発想に感心しました。

ほかにも、名古屋大学、豊橋技術科学大学など東海地区国立5大学による起業家育成プロジェクト「Tongali」や、社会と大学をつなぐプラットフォーム、名城大学社会連携センターPLATなどからも、コーディネーターらが登壇。それぞれの取り組みを知ることができました。

セッションの終盤には、多くのスタートアップ支援施設ができ、イノベーション創出が期待される「東海地区を面白くするには」というテーマで意見も交わされ、登壇者らからは「夢中で取り組んでいる人たちを増やし、“化学反応”ができるようにする」「失敗を許容する環境」などの声が出ていました。イノベーションを生み出すには、欠かせない大事な要素だと納得しました。

起業は技術系スタートアップだけじゃない

引き続き午後7時からは、同じルームでトークセッション「UX視点のものづくり×Startup」がありました。このセッションは、「起業にITは不可欠だが、起業は技術系スタートアップだけじゃない」という趣旨で開催されました。

ものづくり未経験の起業家が手掛ける製品は、どのような背景、アイデアから製品化されたのか。人が感じる不快を解決する道具を生み出している天煌堂CEO川尻大介さんと、UXジャーナルを配信している働きごごち研究所の代表取締役藤野貴教さんが話しました。

川尻さんは2017年に天煌堂を設立。地方の技術者、研究者とともに想いを形にしていくことで製品化し、世の中に“ひみつ道具”を送り出しています。藤野さんは「テクノロジーの進化と人間の働き方の進化」を主な研究領域にしています。2006年、愛知県に移住しました。

川尻さんが、最初に事例として挙げた自社プロダクトは、男性向けの乳首凸(ぽこ)らないインナー「NoPointsインナー」でした。Tシャツに浮かび上がる「乳首凸(ちくぽこ)」が、気になっていたという川尻さん。「まずは自分事で考えること」と言います。「鏡の前に立った時、自分のちくぽこを見て、なんか気持ち悪い」と気づいたそうです。乳首にばんそうこうを貼ったり、分厚いTシャツを着たりしましたが、ちくぽこの悩みは解決されませんでした。「自分が求めている製品も出てこないので、自分で開発する」ことを決意しました。

他にも悩んでいる人がいると考え、東京で街角ウォッチング、他にもいることを確信し、開発に乗り出しました。「恥を忍んで、さまざまな人にも聞きました」と振り返りました。製品の開発により、「自分が気になっていたこと、悩み、不安の解消につながり、ストレスフリーの時間ができた」と川尻さん。「天煌堂は気持ちいい時間をつくるのが一番の目的」と話しました。

川尻さんの話を受け、藤野さんは、製品開発に動き出すきっかけを解説しました。第一に「自分自身がいちユーザーであるという視点が大事」と話し、UX視点を強調しました。

そして「何が快で、不快なのか。自分と向き合い、着想を得て、他はどうか検証する」と説明。「日本人は我慢強いので、不快に気づきにくい。日常的に気づくことが大事です」と助言していました。

セッションの後半には、川尻さん、藤野さん、前のトークセッションに登壇したコミュニティマネージャーらが意見交換しました。

川尻さんは、最後に「いろいろな技術を組み合わせることで新しいイノベーションが生まれます。ものづくりのメッカ、愛知はもっとすごいイノベーションが起こると思います」と期待を込めて話していました。

女性リーダーが語る人生100年時代のキャリア観

もう1つの会場では、「Women’s Leadership Session」と題し、さまざまな分野で活躍する女性リーダー3人を迎え、人生100年時代のキャリア観について語り合いました。

多様性のあるキャリアを学ぶことで、これからの自分らしい生き方、働き方を考えようと、企画されました。今回は、行政、起業、企業から女性リーダーを迎えました。3人は、元経済産業省中部経済産業局資源エネルギー環境部長の岩田則子さん、アトリエはるか社長の西原良子さん、クレディセゾン東日本営業部横浜支社長の野尻実香さんです。今感じている働く女性の課題や、リーダーとしての熱源、子育てなどに関して話しました。

子育てについて、主要都市の駅ナカ、駅地下にヘアメイク・ネイル専門店を出店している西原さんは、2年間ほど子育てに専念したそうです。「子育てに正解はないので、成果が見えず、苦しかったです」と振り返り、「仕事は目標を立て、達成感を得られます。改めて、仕事の大切さを感じます」と話しました。

岩田さんは「育休などのなかった時代。それでも保育園、学童保育では、ネットワークができて助け合いました」。その上で「子育てを終わってみると、本当に短い。私は仕事を優先した面もあり、大切な時間なので、大事にしてほしい」と自身の体験から呼び掛けました。

野尻さんは、若い社員が子育て中の女性社員の勤務形態に対し、厳しい一面がある現状を紹介し、子育て中の社員には「周りに応援してもらえるようなママ社員になるよう言っています」と話していました。

また、「リーダーシップをどのように感じていますか」と問われると、西原さんは「迷った時に『こっちだ』と言える旗振り役。それには信念もいります」と答えました。

野尻さんは「(チームの)全員、それぞれがリーダーシップを持てたらいいです」、岩田さんは「大事なのは、プロ意識を持ち、チームの皆さんと体現すること」と話しました。

それぞれの立場、境遇の中で体験したこと、課題などを3人が率直に語りました。共感したり、学ぶことができたりした聴講者も多かったのではないでしょうか。

編集部まとめ

また、このセッションの前には、同じルームで学生向けの「ツキイチナゴヤVol.4-Zoomで国境を越えてみた(タイ編)」が行われました。
 
コロナ禍で留学、海外旅行が難しい中、日本と世界をオンラインで結び、国境を越えるというプログラムです。今回はタイで、現地の大学の学生をつなぎ、文化のほか、新型コロナウイルスの感染状況などを説明し合い、お互いの文化、近況を知る有意義な機会になりました。

このほか、オンラインネットワーキングツール「Remo」を活用したネットワーキングルームが設けられ、アイデアや製品、イベントなどを展示、紹介する場も設けられました。

月1回開催されている「NAGOYA CONNÉCT」。始まって、間もなく1年を迎えます。コミュニティマネージャーら登壇者、進行役となったモデレーターの皆さんの熱い思いが画面越しに伝わってきました。「事を起こそう」「何かを立ち上げよう」という人にとっての学びと交流の場になることを実感できました。こうしたプログラムの継続こそが、東海地区に新たなイノベーションを生む起爆剤になるはずです。

次回開催情報

■日程
6月25日(金) 17:00-21:00

■開催場所
オンライン
※一部現地開催予定

■概要
6月のテーマは「グローバル」にフォーカスして開催します。

IT技術を通じて加速し続けるグローバル化と共に新しく生まれたサービスによって、私たちの生活もより快適になるよう進化してきました。更に昨年度、スタートアップエコシステム”グローバル拠点都市”として選出された愛知県名古屋市と静岡県浜松市では、サービスを世界に広げる・世界から取り入れる仕組みをつくり始めております。今回は世界を変えていくサービスのご紹介とその魅力と共に、自分の境界線と世界を越える第一歩に向けたTipsを提供します。

■詳細