NAGOYA Movement発|スタートアップ企業と事業会社とのオープンイノベーション事例 「東邦ガス株式会社−株式会社LINK」| オープンイノベーション「成功の秘訣」とは?

投稿者: | 2021-12-14


スタートアップ・エコシステムを形成するためには、地域の事業会社とスタートアップ企業とのオープンイノベーションを促進していくことが非常に重要です。そのため、名古屋市では、事業会社とスタートアップ企業とのマッチングとその後の事業創出をサポートするプログラム「NAGOYA Movement」を実施しています。

このプログラムでは、マッチング後におけるビジネス創出の成功確度を高めるため、以下の3つのSTEPに分け、2ヵ年にわたり実施しているほか、マッチング後に丁寧な伴走支援を実施するところが大きな特徴となっています。このプログラムを実施することで、『事業会社とスタートアップ企業とのオープンイノベーションのモデルケースを作り、スタートアップ企業の集積と創出に繋がる、オープンイノベーションにおける新たな「Movement」を生み出していきたい』と考えています。

「NAGOYA Movement」発“オープンイノベーション成功事例誕生!

NAGOYA Movementの事業会社向けプログラムに参加した東邦ガス株式会社(名古屋市熱田区。以下、東邦ガス。)は、NAGOYA Movementのメンターのサポートを受け、暮らしまわりのサービスを提供するプラットフォーム「ASMITAS(アスミタス)」における新サービス開発をスタートアップ企業との共創テーマに掲げました。その後、スタートアップとのマッチングプログラムにおいて、オーダーメイド介護サービス「イチロウ」を運営する株式会社LINK(以下、LINK。)との面談を重ね、令和2年度末にマッチングが成立。NAGOYA Movementの伴走型支援を受けながら、両社で共同開発を進め、介護が必要な方やご家族一人ひとりの”やりたい”に向き合う介護保険外サービス「ミタスケア」をローンチしました。

本インタビューでは、東邦ガス株式会社の事業開発部事業開発第二グループ主任 西淵泰斗(にしぶちやすと)さんと、株式会社LINKの代表取締役水野友喜(みずのゆうき)さんに、「ミタスケア」が誕生するまでの苦労やオープンイノベーションを成功させる秘訣などについてお伺いました。

インタビュアー
名古屋市経済局スタートアップ支援室主事:後藤

文:齋藤
写真:齋藤

ガス会社と介護系スタートアップが手を組む意味とは

(写真左:西淵さん、写真右:水野さん)


ー後藤:はじめに自己紹介と会社概要の説明をお願いします。まずは、西淵さん、お願いします。

西淵:東邦ガス株式会社の西淵泰斗と申します。東邦ガスは東海エリアを中心にエネルギー供給事業やその他の事業・サービスによって、このエリアの方々の暮らしやモノづくりの発展の支援、貢献に取り組んでいます。また低炭素化社会への実現へ向けた取り組みも行っている会社です。

ー後藤:次に水野さん、お願いします。

水野:株式会社LINK代表取締役 水野友喜です。私達の会社は介護領域に特化したサービスを展開しています。老人ホームなどの施設ではなく、自宅で最期まで生活するための環境を作るサービスを提供しています。その中でも、介護保険外に特化した介護士のオンラインマッチングサービスに力をいれています。

ー後藤:ありがとうございます。西淵さんに質問です。今回「NAGOYA Movement」に参加された経緯・理由を教えてください。

西淵:東邦ガス株式会社は、エネルギー供給事業以外の新領域の強化も進めており、特にくらし周りに関わる新しいサービスや事業の開発を検討しております。
しかし、新しい領域に挑戦するには、どうしても自社だけでは限界があると思います。そのため、その領域にすでに挑戦してノウハウやアセットを持っていらっしゃるスタートアップ企業と共創することで、より早くサービスや事業を広げられるのではないかと考えました。

また我々は、まだまだ新しい事業開発の経験や風土が十分とは言い難いのが現状であり、スタートアップ企業と共創することで、新しい切り口、先進的なアイデアといった「考え方」の部分も吸収したいという思いもあり、「NAGOYA Movement」に参加しました。

ー後藤:西淵さんは、高い熱量を持ち、「NAGOYA Movement」に参加して頂いていますよね。

今回、東邦ガスさんは、NAGOYA Movementのステップ1(事業会社向けプログラム)において、自社サービス「ASMITAS(アスミタス)」を新しい領域で拡充したい、そういったソリューションを持っていらっしゃる企業とマッチングしたいとおっしゃっていました。

そして、ステップ2のマッチングプログラムにおいて、東邦ガスさんとマッチングを希望するスタートアップを募集したところ、LINKさんが手を挙げてくださりました。水野さんは、なぜ、東邦ガスさんと協業したいと思われたのでしょうか。

水野:東邦ガスさんと一緒にやりたいと思ったのは、「ASMITAS(アスミタス)」の概念として掲げている「ライフ・サービス・プラットフォーム」=『暮らしにまつわる何かしらのサービスを展開して価値を提供していきたい』という考え方に共感出来たからです。

私たちは介護保険外に特化したサービスを提供していますが、『介護は役所にいって申請をしてから始まる』という画一的な流れでしか介護サービスに触れる機会がない現実を変えたいと思っています。

そういった現実のなかで、『ガス』という切り口から介護サービスと接点を持っていく人を増やしていけたらと思いました。新しい切り口から介護の不安を解消する接点を増やし、介護を支援先の多様性を広めていきたいと思ったからです。
そのため「ぜひ、東邦ガスの方々と一緒に新しいサービスを作りたい」と手を挙げました。

ー後藤 : 西淵さんはLINKさんのどういったところに魅力を感じましたか。

西淵:一番魅力だと感じたのはLINKさんが掲げるビジョンです。LINKさんは高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるソリューション提供と、社会問題である介護士不足の解消を同時に実現しようとされています。

東邦ガスも、単なるサービス開発をするだけではなく、社会課題の解決に貢献していかなければならないと考えておりますので、二社のビジョンが一致していることに魅力を感じました。
他には先ほど話したように、介護領域においてノウハウやヘルパーネットワークといったアセットに今後の広がりを感じたことも魅力の一つです。

共創を進めていくなかでの苦労話、成功させる秘訣とは?

ー後藤:マッチングが成立した後、実際に両社でサービス開発を進めるにあたり、事業会社(大きな組織)は社内調整に苦慮するという話を聞きますが、実際どうしたか?

西淵:スタートアップ企業と共創すると決めたときに、社内でもスタートアップ企業とスピード感にズレが出てくるだろうといった話がでました。

そのためスピード感にズレが生じないように、決裁の範囲を事前に明確にして、意思決定プロセスを極力短くするように事前調整しておいていたことが良かったと思います。
あとは社内の決裁権者に「NAGOYA Movement」のイベントへ参加してもらったり、直接水野さんに会ってもらったりと、積極的に現場に出てもらうということを意識しました。
そのように事前に動いたことが社内調整をスムーズに進められた要因と思っています。

ー後藤:社内関係者の事前調整が重要なんですね。次に水野さんにご質問です。今回、東邦ガスさんとオープンイノベーションを進めるなかで苦労したことがあれば教えてください。

水野:私が東京にいることもあって、主なコミュニケーションはオンライン上でのやりとりでした。オンライン上だと互いの事業や想いを理解し合うことが非常に難しいと感じました。

お互いの温度を合わせて進んでいくなかで、質問したいことが多く出てきてしまい、五月雨式に伝えてしまうことも多くなってしまいました。その結果、言った言わないだとか、「あれ?これは前に説明したけどな。」「いや聞いてないな。」といったことが起きてしまいました。
このようなコミュニケーションの課題を解決する方法として役立ったのが、スプレッドシートです。スプレッドシートのなかに、質問項目と回答点をまとめて、「基本的にコミュニケーションの決まり事はシート内でやりとりして、残していきましょう」としました。

そのように課題に対して解決法を作ってやりとりをするようになってから、課題も解消され、コミュニケーションがスムーズになったと感じています。
コミュニケーションに関しては大変でしたが、良いソリューションや解決方法を見つけられて進めやすくなったのでよかったです。

ー後藤:水野さんから、最初はコミュニケーションを取るのがお互い大変だったとお話がありましたが、西淵さんが苦労したと感じた点があれば教えてください。

西淵:事業会社あるあるかもしれませんが、ビジネス化をしようと進んでいくと、どうしても関係部署が増え、各部署から確認事項がどんどん上がってきたり、あまり本筋ではない箇所の責任の所在を明確にする必要が出てきたりしておりました。

この調整事項を全て解消するために、その都度水野さんに依頼を行ってしまい、ご迷惑をかけてしました。本来であれば、水野さんの立場になって重要度を考え、当社とLINKさんの間の妥協点を事前に検討したり、担当者として腹をくくって押し切ったりする必要があったと反省しています。

実際に、一度水野さんから「サービス化に向けては、LINKとの協業担当として、調整してほしい」とアドバイスを頂き、すごくハッとしたと同時に感謝したことを覚えています。
あの時は、本当に東邦ガス視点だけのコミュニケーションになっていたと思います。

水野さんだったらこう考えるかなとかこれは嫌だよななど、相手の立場に立つというところはすごく意識していました。

ー後藤:お話をお聞きして、オープンイノベーション成功の鍵は二社の事業領域の相性はもちろんのこと、“担当者同士が円滑にコミュニケーションを取り、互いに認識のズレを防ぐこと、相手の立場になり調整を図ること”ではないか と感じました。

Movementの担当者(後藤)から見て、この「ミタスケア」は、この二社のこの担当者だからこそ実現できたのでは、感じていますがいかがでしょうか

西淵:そうですね。今回の「ミタスケア」については、水野さんとだからここまで短時間でリリースできたと思っています。

しかし、リリースしただけで成功とは思っていませんし、これからサービスを広げていくときに、まさに両社の事業領域や相性が鍵になってくると思います。

我々は、ユーザーサイドから介護保険外市場の認知を広げたいと考えています。足元では、「介護保険外ってこんなに使いやすいんだ」や「便利になるんだ」など、介護保険外サービス活用方法などをテーマにセミナーを開催して、プロモーションとリードの獲得を並行して行っています。

ー後藤:水野さんはいかがですか?

水野:私たちのようなスタートアップ企業は大企業の方と話し合いをすると、情報交換だけになり話がまとまらないことが過去にいくつもありました。

しかし東邦ガスさん、とくに西淵さんは私たちの要望に対しても折れる部分は折れていただいたり、対等にやり取りをしていただいたりと、かなり気を使ってくださっていました。
そのため私達も「忙しい」とか「スタートアップだからリソースがない」などを理由に、あれも出来ない、これも出来ないではなく頑張ってみたり歩み寄ってみたりと、積極的に協働して取り組めたと思っています。

それが結果的に一つの形になったという感覚です。

ー後藤:今後スタートアップ企業とオープンイノベーションを進めたいと考えている事業会社に対してアドバイスをお願いいたします。

西淵:共創を進めていく上で、スタートアップ企業のノウハウやアセットなどを単に「利用しよう」といった考え方は避けた方が良いと思っています。

個人的にベストな考え方として、スタートアップ企業が抱えている課題を事業会社側のノウハウやアセットなどで解決するといった立ち位置が取れれば、よい協業になるのではないかと思います。

ー後藤:水野さんいかがでしょうか?

水野:スタートアップ企業側は事業会社の方とお話をするときにちょっと背伸びをしてしまったりするところがあります。できないことはできないと、きちんと伝えることを心がけています。

一番重要なことは「お互いにリスペクトを持つこと」だと思います。東邦ガスさんのように私たちのような小さなスタートアップも対等の立場で接していただける方々とは気持ちよくお仕事をすることができます。対等な関係でコミュニケーションを取ることによって、正直にできることとできないことなどを話し合うことができ、結果的にスムーズな事業の立ち上がりができると思います。

そういったお互いにリスペクトのある関係性を構築することがおそらくオープンイノベーションにとっては一番重要な部分になると思っています。

ー後藤:ありがとうございました!

お話を伺い、オープンイノベーションの秘訣は、
「相手の立場に立って考える、対等に接する、相手をリスペクトする」こと。ではないかと感じました。

本記事をご覧いただいたみなさまが、オープンイノベーションを始める契機となれば幸いです。

▼ミタスケアWEBサイト

▼NAGOYA Movement WEBサイト

編集部コメント

東邦ガス様とLINK様によって展開された介護保険外サービス「ミタスケア」は、わずか7ヶ月でリリースされました。お二人が互いに意思をぶつけ合いながら走り抜けた結果だと思います。大企業とスタートアップ企業の持つそれぞれの良さがあり、協働したサービスはこれまでにない価値を生み出しているのだと思いました。

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