2024年11月5日、一般社団法人シェアリングエコノミー協会(以下、シェアリングエコノミー協会)の主催により日本最大シェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2024」が開催されました。9年目を迎える本イベントでは、全国の自治体や企業が一堂に会し、公民連携による持続可能な共生社会の実現を目指したさまざまな取り組みが紹介されました。
今回、Nagoya Startup Newsは同イベントのメディアパートナーとして参加。中でも注目を浴びたセッション「日本で一番シェアから遠い!?東海エリアのシェアリングエコノミーの可能性とは」にフォーカスし、イベントの模様をお届けしていきます。
セッション登壇者一覧
岡本 ナオト 氏(モデレーター)
株式会社R-pro 代表取締役
1977年神奈川県生まれ。クリエイティブな視点でさまざまな課題解決を行う株式会社R-pro代表取締役。大学卒業後、就職のため名古屋へ。「大ナゴヤ大学」の立ち上げメンバーを務めたほか、多様なワーキングスペースが整えられた「なごのキャンパス」の運営に携わる。
小柴 大河 氏
チャリチャリ株式会社 公共政策室長
2008年、国土交通省入省。大臣官房で法令審査・国会業務、総合政策局でWTO・EPA交渉・建設業の海外展開支援等に従事。2019年からラクスル株式会社に入社し、ハコベル事業部でコーポレート領域全般に従事。現在は、チャリチャリ株式会社の公共政策室長として、エリア展開にあたってのステークホルダーとの関係構築、国・自治体・業界団体関係を通じた事業環境の整備を担う。
日下 雄介 氏
国土交通省 国土政策局地方政策 課長
前名古屋市住宅都市局長。元宮崎県総合交通課長、オールみやざき営業課長。東京都出身。国土交通省では、これまで、主にまちづくりや公共交通の分野を中心に担当。
伊藤 正樹 氏
株式会社シェア180 代表取締役
関東・関西・中部・北海道でシェアハウスの事業企画、運営、コンサルティングを手掛ける。2013年にSHARE HOUSE 180°創業以降、60棟1000室以上の物件を立上・運営し、自社HPでは200棟4000室以上の紹介を行う。入居者の集客は特に得意とし、122戸の全空シェアハウスを初年度で満室にするなど、多数の稼働改善を行ってきた。現在はコンセプト型シェアハウスとして「外国人と同居出来るシェアハウス」をはじめとし、フィットネス、アウトドア、コワーキングの出来るシェアハウスなど特色あるシェアハウスを展開。1000室以上のシェアハウス運営を行う。NHK、日経新聞などの多数のメディアにも取り上げられ、全国で活躍。
東海エリアの独自性とシェアリングエコノミーの可能性
セッション冒頭、モデレーターを務めた岡本氏は、「東海エリアは持ち家率・自家用車保有率が全国トップクラスで、シェア文化が根付いていない」と現状を紹介。その一方で、「保有文化だからこそ、意識変容をきっかけにシェアサービスの伸び率が全国一になる可能性を秘めている」とポジティブな展望を述べました。
特に、シェアリングエコノミー協会東海支部の取り組みを通じて、ローカルな課題に向き合いながら、地元企業や自治体と協働する重要性が議論の基調となりました。以下では、登壇者それぞれの視点から語られた事例や展望をご紹介します。
シェアハウス事業の挑戦と成功
株式会社シェア180の伊藤氏は、自身の経験をもとに、シェアハウス事業を愛知県で展開する際の課題とその解決プロセスを語りました。2010年当時、愛知県でのシェアハウスの知名度は低く、賃貸物件を確保するのも一苦労だったと述べています。そのため、まずは物件オーナーへの粘り強い交渉を通じて少しずつ理解を得ることからスタートしたといいます。
伊藤氏は、「Airbnb(簡単に使える民泊サービス)」などのシェアリングサービスの普及は、シェアハウス事業の認知を拡大する追い風となったと述べています。一方、東海エリア特有の家賃事情により、「安価さ」よりも「高品質」を求める顧客が多い点が事業成功の鍵であると指摘しました。「家賃が比較的安価なエリアでは、質の高い内装や入居者間の豊かな交流が評価される」とのことです。
さらに、伊藤氏が特筆すべき点として語ったのは、自らシェアハウスに住み込み、体験を事業に活かすという独自のアプローチです。5年間で20以上のシェアハウスに住んだ経験から、共用スペースの収納の重要性や失敗例としての「高級家電シェアハウス」プロジェクトなど、事業のノウハウを形成する具体例を共有しました。このような「現場で学ぶ」姿勢が、東海地域での成功を支えたといえます。
シェアサイクルの展開と地域特性
続いて、チャリチャリ株式会社の小柴氏が、シェアサイクル事業の東海エリアでの展開について語りました。福岡での成功をもとに、名古屋を2都市目の拠点として選んだ理由について、「交通課題の解決と街づくり支援を目的とし、自治体や地域企業と協働することで成果を上げてきた」と述べました。
名古屋では、一度信頼を得るとその後の展開が加速度的に進むという東海エリア特有の特性が、サービス拡大の成功要因となったといいます。桑名市を含む複数自治体との迅速な協定締結やサービス導入は、地元住民の声を積極的に取り入れる姿勢が評価された結果です。また、「ポート(駐輪場)の増設がサービス利用を支え、自治体と民間の連携が利用者満足度向上の鍵を握る」と具体的な施策も挙げました。
特に興味深かったのは、福岡や熊本と名古屋の比較において、小柴氏が「名古屋は車道の広さや交通環境から、車が主流であるがゆえに、モビリティサービスとしてのシェアサイクルが持つ独自の価値を理解されることで成長が期待できる」と指摘した点です。「利用者に価値が伝われば、名古屋は他地域以上にサービスを定着させられる可能性がある」と展望を述べました。
二地域居住とシェアの親和性
国土交通省の地方政策課長である日下氏は、二地域居住の推進が東海エリアの持つポテンシャルを引き出すカギになると述べました。リニア中央新幹線の開業により、東京・大阪との移動がさらに容易になることで、都市部と地方をつなぐ新しいライフスタイルの拠点としての価値が高まるといいます。「ゆとりある空間とアクセスの良さを活かし、二地域居住の拠点として東海エリアは魅力的な地域になる」との考えを示しました。
また、日下氏は「自治体だけでなく、民間企業との連携が不可欠である」と強調しました。住環境の整備や移住者のコミュニティ形成など、課題を総合的に解決するためには、自治体がハード面を整備し、民間企業がソフト面を補完する形での取り組みが重要だと述べています。このような官民協働のアプローチが、シェア文化を拡大し、持続可能な地域社会の実現につながるとしました。
さらに、東海エリア特有の地理的優位性を活かし、「東海地域が二地域居住のハブとして、他地域とつながることで新しい生活様式を先導する可能性がある」と語り、長期的な展望も示しました。
シェア文化の未来へ向けた挑戦
セッションの最後には、登壇者たちが東海エリアのシェアリングエコノミーに対する期待と展望を共有しました。
小柴氏は「東海エリアの人々は価値あるものを見極める力が強く、事業が一度認知されると急速に成長する土壌がある」と述べ、シェアサイクル事業の今後に対する希望を語りました。特に、地域住民や自治体が協力しやすい環境が東海エリアの強みであると強調しました。
伊藤氏は「東海で成功したモデルは他地域でも通用する。むしろ東京は容易に事業が展開できる印象さえある」と述べ、東海エリアがシェアビジネスの試金石となり得ると指摘しました。「シェア文化が広がることで、地域の新たな価値が創出される」と期待を込めました。
一方、日下氏は「東海エリアはシェアリングエコノミーの可能性を大いに秘めた地域であり、官民協働でシェア文化を浸透させることで、持続可能な地域社会のモデルケースとなる」と総括しました。特に、「スペースやリソースを共有する仕組みを整備することで、東海地域全体の活性化が見込まれる」との見解を示しました。
それぞれの立場から東海エリアの課題と可能性を深く掘り下げたこのセッションは、登壇者たちの熱意が会場全体に伝わる中、盛況のうちに幕を閉じました。
本セッションを通じ、東海エリアがシェアリングエコノミーを通じて新たな価値を創造し、地域社会の課題解決に貢献する可能性が改めて確認されました。持続可能な地域社会を実現するため、シェア文化を育て、地元プレイヤーと官民が一体となった取り組みが今後ますます重要になります。Nagoya Startup Newsでは引き続き、東海支部を中心にシェアリングエコノミー協会の動向を追っていきたい所存です。
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