シェアリングエコノミーによってモビリティ×シェアの未来はどう変わる?「SHARE WEEK 2023」イベントレポート

投稿者: | 2023-12-12


2023年11月10日〜11月17日、一般社団法人シェアリングエコノミー協会(以下、シェアリングエコノミー協会)の主催により日本最大シェアリングエコノミーの祭典「SHARE WEEK 2023」が開催されました。昨年から更にパワーアップした同イベントでは、シェアについて日本各地のアイデアやイノベーションを体感し、新たな行動やプロジェクトを生み出すことを目的とし、1週間をかけて開催されました。

プレリリースより引用

今回、Nagoya Startup Newsは同イベントのメディアパートナーとして参加。中でも注目を浴びたセッション「モビリティxシェアの未来 〜地域交通を解決する新たな道筋〜」にフォーカスし、イベントの模様をお届けしていきます。

セッション登壇者一覧

深尾 幸生 氏(モデレーター)
日本経済新聞社 NIKKEI Mobility 編集長

NIKKEI Mobility編集長。記者として自動車、エレクトロニクス、IT、素材などの各業界を担当。2017年から5年間、フランクフルトに駐在し、EVに急旋回する欧州の自動車メーカーや部品大手、スタートアップを取材。脱炭素に突き進む電力会社や政府の動きも追った。2022年6月から現職。 著書に「EVのリアル 先進地欧州が示す日本の近未来」。

川邊 健太郎 氏
LINEヤフー株式会社 代表取締役会長
日本IT団体連盟 会長

大学在学中に設立したベンチャー企業とヤフーが合併し、2000年にヤフーへ入社。2009年、GYAO代表取締役に就任。2012年ヤフーCOOに就任。2018年ヤフー代表取締役社長CEO、ソフトバンク取締役、日本IT団体連盟会長(現任)に就任。2019年持株会社体制への移行に伴い、Zホールディングス代表取締役社長CEO、ヤフー代表取締役社長CEOに就任。2020年ZOZO取締役に就任。2021年3月LINEとの経営統合に伴い、Zホールディングス代表取締役社長Co-CEOに就任。同年6月にソフトバンクグループ取締役に就任。2023年4月、Zホールディングス代表取締役会長に就任。同年10月、グループ内再編に伴い、LINEヤフー代表取締役会長(現任)に就任。

髙原 幸一郎 氏
株式会社NearMe 代表取締役社長

シカゴ大学経営大学院卒。2001年SAPへ新卒入社。国内外の様々な業界の業務改革プロジェクトに従事。2012年楽天に入社。物流事業の立ち上げや海外M&A案件などをリード。その後、グループ会社の執行役員として日用品EC事業のP/Lマネジメントに従事。2015年からは米グループ会社の副社長/取締役としてPMIや事業開発、仏グループ会社CEOなどを歴任。そして2017年にNearMe(ニアミー)を創業。『暮らしのもったいないをなくし、次のあたりまえをつくる。』をミッションに、現在は「移動のもったいない」の解決にフォーカスし、シェアリングエコノミーのMaaSサービスを複数展開している。

平 将明 氏
衆議院議員 /自民党広報本部長代理
デジタル社会推進本部長代理

1967年 東京生まれ、早稲田実業学校中高、早稲田大学法学部卒。家業の大田市場青果仲卸会社3代目社長、社団法人東京青年会議所理事長、経済産業省産業構造審議会基本政策部会委員などを経て、2005年自民党衆議院東京4区で43倍の公募の競争に勝ち、衆議院議員総選挙に出馬し初当選、現在6期目。元内閣府副大臣(防災、IT政策、行政改革、宇宙政策等担当)、元経済産業大臣政務官、元衆議院環境委員会委員長、元自民党副幹事長・情報調査局長・ネットメディア局長、元慶應義塾大学大学院講師。そのほか、大平正芳記念財団理事、大田まちづくり芸術支援協会理事、プロバスケ女子チーム「東京羽田ヴィッキーズ」後援会長。文藝春秋「日本を元気にする逸材125名」、NPO法人万年野党「三ツ星国会議員」アワード連続受賞。

地域交通の現状と課題

冒頭で平氏は、これまでライドシェアリングをやるには様々なところから慎重論が起こるという状況であったと述べました。しかしここ最近では、コロナが明けたことによりインバウンドも復活した一方、一回タクシー会社を辞めた人が戻ってこないという問題が発生しています。そこで国会議員の中では、地域経済をどうやって回すのかという意識が芽生えていると示しました。

特に大きな変化としては、観光客が利用する車などの足がないだけでなく、供給側もタクシーなどが足りず、サプライサイドも回らないという問題です。これについては、地域を回っている国会議員が現場から話を聞き危機感を深めているというのが、今の永田町や自民党本部の空気感だと話しました。

一方、髙原氏は地方でシェアタクシーのサービスを始めている中で、「シェア乗り」というライドプーリングには、地域交通の課題に対し一定効果があると述べました。空港と自宅やホテルなどの指定場所をむすぶ送迎サービスであるシェア乗りはすでにニーズが高く、シェアをする車両も普通のセダンではなく、大きなバンのようなものでシェアできるような形をすれば、もっと多くの方が利用することが可能とのこと。

労働力であるタクシー運転手などをいきなり増やしていくということは、一朝一夕には出来ません。ですが現在ある車両のスペースは多くあるため、それをうまく活用していくことが同時に必要だと話しました。

しかし、乗り合いの許可が下りづらいことや、タクシーの相乗りの制度も制約になることもあるため、量を増やす議論と共に、質を上げていくシェア乗り(ライドプーリング)の規制緩和をしていくということも同時に必要なのではないかと述べました。

ライドシェアを解禁することのメリット

ライドシェアを解禁することのメリットについて、川邊氏は「一ユーザー視点で見たときにコロナ禍以降、タクシーなどの代替がない田舎の方では移動難民化が今後進むと思うような体験が増えてきている」と語り、一方で、タクシー台数を一気に増やすのは困難であり、それを解消するためにライドシェアがあると述べました。

ライドシェアを解禁することは現在政府内でも意見は分かれているのか、という質問に平氏は「コロナ禍後、賛成意見が増えてきているが、与党が割れていれば政府はなかなか押し切れないという話になる」と述べました。

一方で、突破力のある政治家などが規制改革や新しいテクノロジーによって時代に合わなくなった規制は変えていこうという強い意志を持って活動をしており、そういった意味ではモメンタムはかなり強くなっているとのこと。国民的に人気のある政治家だったりがライドシェア解禁への発信を強めているため、勢いはついてくると考えられます。ただ一方で、慎重派の方々もそれに対して警戒感を強めているということだと思いますので、今後、激論になっていくだろうと平氏は予想しています。

ライドシェア導入で挙げられる問題点について

ライドシェアについて、安心安全な移動サービスが損なわれたり、犯罪率が上がるのではないかという問題点が挙げられます。

安心安全な移動サービスについて川邊氏は、「安全と安心とこの両方の要素は、仮に日本でライドシェアを本格的に導入する際もかなりこだわって解決すべき問題だ」と述べ、既に規制改革推進会議では民間委員の有志で提案を提出し、安全の措置は十分に入れるべしということを伝えております。また問題点解決にはテクノロジーで解決していくべきだとし、そのテクノロジーは大きく二つあるとしました。

一つは、運転・事故の安全ということに関しては、車の安全性を高める技術が今どんどん出てきています。その技術を使い、まず事故が起きないようにする。もう一つがインターネット技術。このインターネットの技術というのは、シェアリングエコノミーなどから発達した技術が多くあると川邊氏は述べました。

ライドシェアのユーザーレビューを例に挙げると、運転手や乗客のレビューを入れることで典型的なシェアリングエコノミーにおけるマッチングサービスとなります。乗りたい運転手や乗せたい乗客のマッチングが可能となり、女性が女性運転手を選ぶことが出来るなど、安全性が高められることが期待されます。

インターネットの技術として、スマートフォンも挙げられました。スマートフォンは常に位置情報を取っており、何か指定したルート以外を走行している場合はスマートフォンから通報が自動的にいくシステムや、SOSボタンをスマートフォンのアプリで押せるようにするなど、そういった技術も入れることによって事故の安全やその他の障害的な安全性も十分に高められるとのことです。

すでにライドシェア、ライドヘイリングの利用が行われているアメリカでの犯罪率が高い点について川邊氏は、アメリカと日本における犯罪率が違うという観点があると述べました。様々な観点で日本よりも犯罪率が高いため、その図式をそのまま日本に持ち込むとバイアスがかかってしまうため、アメリカや日本の事件発生率の母数、分母と分子を計算した上で、議論する必要があるとしました。

タクシードライバーの雇用が失われるという見方について、2023年9月時点のデータではタクシーの有効求人倍率が4.3倍となっていると川邊氏!は語ります。通常の業界平均は1.3倍ぐらいのため、タクシードライバーという業種は3倍以上人が取りにくい状態に現在はなっているため、雇用が失われるという問題はまず起こり得ないと考えられます。

大切なのは選択肢の多さ。求められる移動手段について

環境のためにも、車よりも公共交通を充実させたほうが良いのではないかという質問に対し平氏は「まず最初はいろんなオプションがあった方が良い」と述べました。選択肢を増やし選べる形にすることで、自然と一番環境に適したものが残っていくということになっていくだろうと考えを述べました。

ライドプーリングにあるメリットや課題

髙原氏はライドプーリングの課題について、地方などにおいて乗り物自体が無ければライドプーリングができないため、数の話は当然別で議論する必要があるとし、一方で、都市型のエリアにおいても時間帯の移動困難があるとしました。これの解決には、減っていく労働力や環境負担も含めた、量と質の合わせ技で取り組まなければならないとしました。

ライドシェアの導入に必要なガイドラインや規制の流れ

平氏は、ガイドラインについてはかなり踏み込んだものになるし、規制改革会議で議論をおこない、年末までに中間取りまとめ、中間報告を出し、その後法案を出すことになるだろうと考えを述べました。

それに対し川邊氏は、ライドシェアを活用する上で道路運送法の78条の自家用有償旅客運送制度が活用できるものの、最終的には全国規模でライドシェアができるためのライドシェア新法?を作る必要があるとしました。

続いて髙原氏は、規制の制約の縛りについて「複数の人を乗り合わせることについては、解釈次第で解決できることもある」と述べました。エリアや時間、イベントなどの規制性は交通工学自体が規制にもなり得るとし、解釈次第で解決できるものそれらも含めて規制緩和をしていくことは、即時問題の解決につながるであろうと想定されます。

最後に川邊氏は、ライドシェアが解禁されるときに生じるであろう最大の課題について、普及までに時間がかかることが予想されるため、引き続き移動難民が発生するであろうという問題点と、普及するまでの過程でライドシェアによる事故が発生した際に、やはりライドシェアの実装は避けるべきであるという論調になるのではないかという懸念があると語りました。

今後ますます期待されるシェアリングエコノミー

髙原氏は「ライドシェアの中にはライドプーリングというシェア乗りのアプローチなどもあり、今日皆さんと共有したかった」と語り、またライドプーリングにも規制が関わってきているところもあるためパッケージでそれらを進めていただきたいと今後について期待を述べました。

次に川邊氏は、日本は今後人手不足と過剰設備がトレンドになってくると語ります。生産年齢人口は数千万人単位で減っており、今まで1億2千万人を維持するために様々な設備があったのが、人口が減ったことにより過剰設備になっていくのです。「うまくマネジメントするためには、車に限らずあらゆるものがシェアエコノミー化されていく社会が、今後の日本のあるべき姿であり、それに向けて皆と一緒に進めていきたい」と川邊氏は話しました。

最後に平氏は、「人口減少の中でどうやって経済を伸ばしていくのか、社会を持続可能にしていくのかという問題にも我々は直面しています。こういった課題を解決するために、AIも含めたシェアリングエコノミーのアイデアなどを総動員させ、あらゆる技術を世界に先駆けて日本に実装していく。このようなことが今の日本に求められているでしょう」と述べ、法律や規制も、今やデジタルの時代のためアジャイルにおこなっていく中、レギュレーションもアジャイルにできるかという大きな課題があるとし、「その問題を突きつけられている我々がローメーカーとして解決策を作っていきたい」と結びました。

Nagoya Startup Newsでは引き続き、東海支部を中心にシェアリングエコノミー協会の動向を追っていきたい所存です。