エイチーム(3662)は2017年8月8日、大和証券に対して、行使価格修正条項付新株予約権をコミットメント契約付きで発行しました。今回の新株予約権によって、エイチームは差引手取概算額で約98億円を調達する見込みです。
資金調達の目的は2つ
今回の新株予約権発行による資金調達の目的は、次の2点です。
- スマートデバイス向けゲームアプリの開発資金・広告宣伝費用
- M&A資金
1.に関してはおよそ50億円を充当していく予定とのこと。この資金は、市場ニーズに合ったゲームアプリを、適切なタイミングで、コンスタントにリリースするための開発人員の確保・開発拠点の新設のほか、ゲームアプリのさらなる普及のための広告宣伝費に使われます。
2.に関してはおよそ48億円を充当していく予定とのこと。この資金は既存事業の売上規模の拡大に寄与すると考えられる企業や既存事業とのシナジーが見込まれる企業の買収、インターネット・スマートデバイスに関する新技術を持つ企業の買収に使われる予定です。
さて、ざっくり資金調達の内容を見てきましたが、行使価格修正条項付新株予約権やコミットメント契約という聞きなれない言葉が連続しているので、どのようなものなのか確認してみましょう。
行使価格修正条項付新株予約権とコミットメント契約
行使価格修正条項付新株予約権とは、新株予約権を行使し、株式を会社から発行してもらう時に、その会社に対して払い込む金額である「行使価格」を、新株予約権行使時の株価に合わせて修正する、という条件が付いている新株予約権のことをいいます。今回の条件では、新株予約権行使時の株価の92%に相当する価格で発行することになっています。たとえば、当初予定していた行使価格1,000円とします。株価が1,500円に上昇したとき、行使価格修正条項付新株予約権を行使することで、1,500円の92%に相当する1,380円で新株を発行できます。エイチームは、1株あたり「1,380円-1,000円=380円」分多く資金調達できるというメリットがあるのです。
コミットメント契約とは、証券会社と会社があらかじめ設定した条件の範囲で、会社の請求に基づき、証券会社がその条件を執行することを約束する(コミットする)契約のことをいいます。今回は、エイチームと大和証券の間で、次のような条件を契約しました。
- エイチームが大和証券に対して、新株予約権行使を好きなタイミングで要請できる
- エイチームが大和証券に対して、新株予約権行使を差止めることができる
- 大和証券が第三者にエイチームの新株予約権を譲渡する際は、エイチームの取締役会の許可が必要
これを見ると、エイチームが大和証券の新株予約権行使をコントロールでき、「必要な時に必要な金額だけ」資金調達できる仕組みになっていることがわかりますね。
新株予約権は3種類
さて、そんなエイチームの新株予約権ですが、興味深いことに、3種類用意されています。
よく見ると、新株予約権の総数や当初行使価額に違いを持たせていることがわかります。これは、事業展開の進み具合によって、柔軟に資金調達ができるというメリットがあるからだと予測されます。さらに、複数回に分けて資金を調達できる仕組みにしておくことで、新株発行によって急激に発行済株式数が増加することを防げます。その結果、株式の希薄化や一株あたり利益(EPS)が一気に希薄化することを避け、株価の急激な下落を抑制できるメリットも備えているのです。
今回のエイチームの新株予約権発行による増資は、同社の事業発展にとって大きな影響を与える反面、株式市場への影響を極力抑えられる可能性が高い方法であることがわかります。株価変動をもたらす資金調達であるだけに、慎重にその方法を選んだ形跡が伺えます。
急激に業績を伸ばしているエイチーム。このチャンスを十分に生かして、大きく羽ばたいてほしいですね!