好きなことを仕事にして人生が劇的に変わった―株式会社ブルーベリーファームおかざきの畔柳氏にインタビュー

投稿者: | 2017-10-05
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“好きなことを仕事にしたい”とは思うものの、それで生計を立てられるのか? そう考えて、自分が本当にやりたいことにフタをしてしまっている人は多いでしょう。

今回は、「脱サラ」し、好きなことを仕事にするため起業した、株式会社ブルーベリーファームおかざきの畔柳 茂樹氏にお話を伺ってきました。起業を考えている方は特に必見です。

畔柳 茂樹(くろやなぎ しげき)氏プロフィール

愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社デンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任。2007年、45歳で早期退職し、「観光農園ブルーベリーファームおかざき」を開園。2017年6月、開園10周年を節目に出版した著書『最強の農起業!』は、発売1週間で重版。2週間で3刷の増刷となり、多くの人に購読されている。

大企業を捨ててまで起業した理由とは?

5,000㎡の畑に、約1,300本のブルーベリーが植えてある

吹原:なぜ大企業を退職し、起業したのでしょうか?

畔柳:一言で言うと、「会社に自分の代わりはいくらでもいる」と感じたからです。15万人もいるような会社なので、いくら課長といえども私が退職したところで、会社自体は困らないと思ったんです。それに、「会社」というものに拘束されて、自分の時間がないことが辛かったのもありますね。当時会社はグローバル化していて、世界中のどこかが常に動いている状態だったので、息をつく暇が本当にありませんでした。

吹原:起業することは以前から考えていましたか?

畔柳:もともと独立したいという思いはずっとありました。結局、なんだかんだで20年働きましたけどね。でも、一度しかない人生なので、今ここで踏み出さないと起業は一生できないと思って決断しました。やりたいことがあったとしても、仕事が順調で楽しければ辞めなかったと思います。しかし、自分のやりたい仕事とは全く違うことをやっていたので、踏み出したんです。

吹原:「ブルーベリー観光農園」をやろうと思って退職を決意したのでしょうか?

畔柳:いえ、そのときにはブルーベリー観光農園という構想はまだありませんでした。ちょっと無謀な話なんですけど……「農業」をやりたいという思いはありましたが、具体的な計画を立てていない段階で退職をしたんです。それを専務に伝えたとき、年収が2桁下がるけど本当に良いのかと言われてしまいましたね。

吹原:そのとき、不安はありませんでしたか?

畔柳:会社を辞めるかどうかというときは、とても悩みましたし、苦しかったです。もちろん不安もありました。ただ、不思議なことに、「辞める」と決断したときから期待の方が大きく膨らんでいったんです。開放感でいっぱいになって。「好きなことをしていいんだ!」と。

吹原:長年勤めてきた会社を退職し、起業するのは大きな決断ですね。

畔柳:何かを「決断」するということは、「決めて」「断つ」と書きます。新しいことを始めると決断するということは、それと同時に何かをやめるということなんです。

人間というのは、いろいろなものを抱えたまま新しいことをやりたいと思うのです。しかし、そうは問屋が卸さなくて。会社を続けながら起業の準備をするなら、もちろんそれでいいです。朝早く起きて勉強したり、本を買って読んだりセミナーに参加したり、そういうことも大事だと思います。

ただ、あるところで踏み切り、重たい荷物を降ろさないと、新しいものに集中することは不可能なんじゃないかと思います。

なぜ「農業」を選んだのか

地面はマット敷きになっているので、足元を気にせず入れる。ベビーカーもOK

吹原:起業するといっても、いろいろ選択肢はありますが、なぜ「農業」を選択したのでしょうか?

畔柳:昔から動植物を“育てる”のが好きで、自然と向き合えるようなことをやりたいという思いが幼い頃からあったんです。そうは思っていたものの、変に学歴がついてしまって、流れのままに大企業に就職してしまったんです。それで、昔からやりたかったことをやろうと思い、「農業」で起業することにしました。

吹原:退職してからは、どのようにして起業に至ったのでしょうか?

畔柳:農業をやりたいという思いはあったものの、あまりにも知識がなかったので、農業大学校へ行きました。無料で受講できる新規就農者コースがあって、そこで農業の基本を学びました。

吹原:その時点で、「観光農園」はすでに計画されていたのでしょうか?

畔柳:なんとなくやりたいな、とは思っていました。前職がBtoBの会社で、その中でも企画業務ということもあって、デンソーのお客さまと直接接する機会がありませんでした。それに違和感があったんです。自然と触れ合えて、お客さまと直接関われる仕事と考えていくと、「観光農園」かなと。

吹原:ブルーベリーの観光農園にしたのはなぜですか?

畔柳:観光農園といえば、イチゴやブドウがポピュラーで、愛知県なら渥美半島に行けばメロン狩りもありますよね。なので、最初はイチゴにしようかと思って、いろいろと調べてみたんです。そうすると、作業時間の長さや農薬を使用するなど、私としてはやりたくないことがいっぱいあることがわかって。

そんなとき、衝撃が走るほどおいしいブルーベリーに出会ったんです。特別な栽培法で作られたブルーベリーで、福岡県久留米市にそのブルーベリーを栽培する観光農園があることを知り、そこへ行っていろいろと教えてもらいました。お客さんがたくさんいる賑やかな農園で、これはモデルになるなと思いましたね。そこからブルーベリー観光農園に辿り着いたんです。

吹原:直感だったんですね。

畔柳:一番の魅力は、「未知」だということですね。ブルーベリー観光農園は、あまり人がやっていないということもあって、自分が第一人者になれるんじゃないかと思いました。直感もありましたが、その直感を裏付けするためにも、いろんな分析や計算もしました。前職で事業計画書や損益計算書を作っていたので、お金の計算をするのはすごく得意なんですよ。作らなくても、頭の中で計算できるほど、染みついていたんです。

吹原:分析や調査をして、戦略的に農業をやろうと思い立つ人はあまりいないですよね。

畔柳:予想はしていなかったのですが、前職の経験が生きてきました。デンソーといえども事務系で、技術的な部分はあまり詳しくなかったので、今までのことは役に立たないと思っていたんです。でもいろんな所ですごく役に立ちました。計算だけでなく、いかに効率的にやるかという「生産性」を強く意識することを会社でたたき込まれていたので、それも生きてきましたね。そういった面では、会社にとても感謝しています。

「好きなこと」を仕事にするのは難しい?

シーズン中はカフェがオープン。ブルーベリーを使用したスイーツが食べられるということもあり、人気のカフェとなっている

吹原:農業以外でも、起業をしたい人はたくさんいます。ただ、何をしたいのかがわからない人も多いですよね。

畔柳:多いですねいろんな方から相談を受けます。でも、それって自分をちゃんとわかっていないなと思うんです。“フタ”をしている場合もありますよね。

吹原:我慢するということでしょうか?

畔柳:日本人には、どうしても「好きなこと」「やりたいこと」を我慢して堪え忍ぶのを美徳とする風潮がありますよね。でも、それは間違いなんです。我慢して堪え忍んでいるサラリーマンの姿……東京の通勤電車なんか、地獄行きの列車に見えませんか? 特に月曜日は、みんなうつろな表情で下を向いてスマホを見て。そこに日本の未来はあるのか?と私は問いたい。少しでも朗らかな雰囲気の通勤電車にならないことには、日本の未来は暗いんじゃないかと。

私は「好きなこと」を仕事にしたことで、経済的・時間的・精神的にもゆとりが生まれ、人生が劇的に変化しました。通勤は、むしろわくわくしながらしています。微力ながらも、私は「好きなこと」を仕事にできる世の中に変えていきたいですね。

吹原:「好きなこと」がみつからない場合は、どうすればいいのでしょうか?

畔柳:ヒントは子どもの頃にあります。子どものときって、何かなりたいもの・やりたいことがありますよね。それが大人になるにつれて、あれはだめ、これはだめと言われてしまって、自己肯定感もどんどん下がって“フタ”をするようになってしまうんです。フタを取っ払って自分にちゃんと向き合えば、何かが見えてくるはずです。もちろん、「好きなこと」「やりたいこと」で起業して生活していくことは簡単ではありません。だけど、「でもどうせ無理だよな」と簡単に諦めるほど難しいことではないんです。好きなら夢中になれるし、多少の困難も乗り越えられます。

起業を考えている方へ

スーパーで販売されているものよりも完熟して新鮮、500円玉サイズの大粒なブルーベリー

吹原:これから起業しようと考えている方へ、何かアドバイスはありますか?

畔柳:私が最もお伝えしたいことは、「好きな仕事があなたの人生を変える」ということです。日本は起業する人が少ないそうですが、それはとても残念なことだと思います。これから、人生100年という時代が来ます。そうなると、20歳前後で就職して、同じ仕事を80歳までの60年間もやらないといけないんです。定年前に仕事を辞めて起業するのは、危ない橋を渡るというよりは、むしろ生き残るためのシフトチェンジだと思います。

だけど、起業に「不安」はつきものです。それを頭の中であれこれと考えているだけでなく、書き出すなどして明確にすることが大事ですね。自分が何に不安を抱いているのかもわかるようになるし、それに対してどうすべきか対策を練ることもできます。既婚者の場合は、配偶者の了承が必要になってくる場合もありますよね。配偶者が不安に思っている場合も同じです。無理に説得しようとすると身構えてしままうので、一旦は全て聞いてあげてください。

一つひとつの不安を明確にし、対案を出せば、不安は消えないにしても和らげられるかもしれません。もちろん、どれだけ覚悟を決めて、どれだけ真剣なのかという姿勢を見せることも大事です。

吹原:これから、どんなことをやっていきたいですか?

畔柳:お客さまも順調に増えて、今年・去年は、2年連続で1万人の方に来ていただきました。反省を次へと生かしながら、「おもてなし」をし続けてきて、農園自体はほぼ完成形に近づいていると思います。なので、セミナーや講演会で「伝える」ということにウエイトを置いていきたいと思います。

編集部コメント

「好きなこと」を仕事にすることに憧れる人は多いでしょう。ただ、その一歩がなかなか踏み出せません。今回は、その一歩を踏み出すために、必要なことを教えていただけました。出版された書籍は、農業以外で起業を目指す方にとっても良い参考書になると思います。ぜひ読んでみてください。