CBDとはCannabidiol(カンナビジオール)の略語で、麻の茎や種子から抽出される成分の1つです。中毒性が無く、心身の状態を整える効果があることから、欧州を中心に医療や美容の業界で注目を集めています。そんなCBDを、ものづくりの街・名古屋から新規事業展開することで注目を集めている会社が、株式会社グリーンブラザーズ・ジャパン(本社:東京都千代田区、以下:グリーンブラザーズ・ジャパン)です。
今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設「クリエイション・コア名古屋」の入居企業特集として、グリーンブラザーズ・ジャパン代表取締役社長の高森 雄一氏を取材。同社の設立背景や事業の展望についてお話を伺いました。
プロフィール
高森 雄一(たかもり ゆういち)
株式会社グリーンブラザーズ・ジャパン代表取締役社長。オハイオ州立大学で会計を専攻し、卒業後はPricewaterhouseCoopers(PwC)として監査法人業務に従事。その後、国際貿易商や個人事業主を経て、スイス生まれのCBDメーカーであるグリーンブラザーズの本社社長らと出会い、グリーンブラザーズ・ジャパンを設立する。愛知県岡崎市・オハイオ州育ち。
貿易の経験を活かし、グリーンラッシュでCBDビジネスに着目
ー高森さんがCBDに関する事業を立ち上げたきっかけについて教えて下さい。
高森:北米やヨーロッパでは2018年頃、グリーンラッシュの波が来ていました。ちょうどその頃の自分は次の事業の種を探していた最中で、特に医療的にも注目されていたCBDに興味を持ちました。グリーンラッシュの流れは2-3年後にも日本にも来るだろうと確信し、アメリカやヨーロッパでお取引できそうなCBDメーカーを探すことにしたのです。そのうちの1社が、グリーンブラザーズでした。
※グリーンラッシュ:大麻合法化によって関連ビジネスが急成長していることを指す言葉
最初は仕入の取引だけをするだけのつもりでしたが、グリーンブラザーズ本社の社長から「日本に進出したい」という相談を受けました。これが、グリーンブラザーズ・ジャパンを創業したきっかけです。
ー日本ではまだCBDに馴染みが無い印象を受けます。実際はどうなのでしょうか。
高森:創業した2021年当時に、日本におけるCBDに関する研究や知財、治験の全体像を調査した際は、否定的な研究結果が多かったです。不思議に思って、研究を行っている大学の先生に電話で訪ねたところ、「海外の先生に当たったほうがいいよ」と言われたほどでした。
ーそれでもこのビジネスをやろうと思えたのはなぜでしょうか?
高森:YouTubeやTEDなどの番組を通して、CBDに対する固定観念が変わったことを目の当たりにしたからです。特に有名な例としては、CNNドキュメンタリー番組『WEED』 で登場したとある小児癲癇の症状を持つ少女が、医療用大麻で命を救われたエピソードです。このエピソードをきっかけにスティグマ(偏見)が払拭され、医療用大麻に対するアメリカの世論が一変しました。これは、幼少期からアメリカで過ごしてきた私にとっては衝撃的でした。その後も医療大麻やCBDにより症状が緩和した実例を目の当たりにし、自分が生まれた日本でこのビジネスを展開することに、大きな意味があると感じました。
製造・開発拠点を持つことで差別化、販路開拓も内製
ーグリーンブラザーズ・ジャパンでは、ただ卸売するだけではなく、原材料をスイスから直接調達し、国内製造・開発を実現していると伺いました。これにはどのような意図があるのでしょうか。
高森:左から右へモノを流すだけでは、参入障壁が低いCBD市場において、サステイナブルな経営をすることはできません。製造・開発の拠点を持つことによるメリットは多くあります。
1つ目は、メーカーである我々が主導となり、サプライチェーンの中で価格や流通をコントロールできることです。量販店や問屋に依頼して薄利多売をするのではなく、最小在庫で最大利益が出るような仕組みを作ることが狙いです。
2つ目は、製品をエンドユーザー様にお届けするためのリードタイムを短縮できることです。CBDを取り扱う場合、厚生労働省麻薬取締部の書類を全てクリアしていく必要がありますので、ユーザーの希望に応じた製品を開発し、製造後すぐ販売できることは大きな差別化ポイントになります。
3つ目は、日本で販売する上での信用を得るためです。日本においては「信用」が大きなマーケティング要因となります。そのため、国内で製造・開発することそのものが商品価値を高める大きな強みとなっております。
ーたしかに、メリットは多い印象ですね。国内で製造・開発し、実際に販売している主力ブランドについて教えて下さい。
高森:今、弊社で出している主力ブランドは3種類あります。1つ目が「SIXTY8」と呼ばれるブランドで、これは電子ベイプに合わせてCBDを配合したものです。男女関係なく、CBDに興味を持っている方が気軽に楽しめる製品となっています。
もうひとつが「ALPINIUM」です。こちらは、CBDオイルをアスリート向けに調合したものになっています。現在は30-40人ほどのアスリートの方に体験して頂いています。
他には、日本オリジナルで、フェムケア路線のものとしてCBDを配合した美容オイルやバームオイルなどを、BtoB限定のブランドとして開発展開しているものがあります。
ーそれぞれターゲット属性も異なりますよね。どのように販路を開拓しているのでしょうか?
高森:基本的には、直接店舗に卸売しています。SIXTY8を置かせて頂いたとあるショップでは、初月から300本販売することができました。その後も毎月大体200本程度のペースで販売でき、売れ行きは好調です。
また、CBDを取り扱うショップにも置かせて頂いています。弊社は製造ラインを持っているため、最小ロット10本から対応できます。この強みを活かし、地道に販路を開拓しているのです。
ー最小ロット10本からであれば、ショップ側も試しやすいですよね。アスリートの販路開拓は難しい印象を受けますが、どのような方法で開拓しているのでしょうか?
高森:自分でリサーチを行い、直接SNS等からコンタクトを取るようにしています。競技としては、パルクールのようなこれから市場が伸びるマイナースポーツを主な対象としています。競技人口の増加と、CBD市場の台頭がうまく噛み合うような戦略を取りたいです。最近では、TOKYO MXが企画しているキックボクシング番組「KNOCK OUT」にスポンサードもしています。
CBDを一過性のブームでは終わらせない!
ーCBDビジネスの最前線にいる高森さんの視点では、これからの日本のCBD市場はどのような成長をしていくと考えていますか?
高森:今後の日本のCBD市場の行方は、CBD事業を行う企業の姿勢と戦略にかかっていると思います。
現在のCBD市場はニッチかもしれません。しかし、そのニッチな層に対してだけアプローチするのか、それとも需要の拡大を狙うのかは、会社の経営戦略によって変わってきます。グリーンブラザーズ・ジャパンとしては、CBDを一過性のブームで終わらせないように、危機感を持って事業に取り組んでいます。世の中に商品が溢れている中で、CBDに新たな機能を持たせたり、ニーズに応じた製品を設計したりといった開発を通じ、どう差別化をして販売するかが非常に大切です。
私の想いは、「全ての人にCBDを届ける」ことです。太古より麻を利用してきた文化を持つ日本では、それが実現できると信じています。グリーンブラザーズ・ジャパンの製品をきっかけに、CBDについての認識を変える機会を提供できたらと考えています。
ー「全ての人にCBDを届ける」…壮大なビジョンですね。実現するために、中長期的に行っているプロジェクトはありますか?
高森:企業が健康経営をする施策の1つとして、CBDを用いた従業員の睡眠改善やストレス軽減をする取り組みをスタートしました。離職率が高くなり、人員確保も困難を極める昨今において、従業員のQoL向上や知財の構築に寄与できればと考えています。日本でCBDを普及させるためには、ロールモデルを作ることが非常に大切です。先進的な考えを持つ企業様とぜひ一緒に取り組みたいですね。
クリエイション・コア名古屋は、コストを抑え事業をクイックにスタートできる
ー最後に、クリエイション・コア名古屋へ入居を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
高森:私の場合は、創業当初は東京や神奈川でもインキュベーション施設を探していました。そんな中、信頼のおける仲間が名古屋にいた事がきっかけで、クリエイション・コア名古屋に出会うことができました。
食品生産が可能なクリーンルームのある製造・開発拠点を置くには、通常は相応の初期投資が必要です。また、施工にも時間がかかります。クリエイション・コア名古屋は、コストを抑え事業をクイックにスタートできる点で、非常に魅力のある拠点と言えます。
中小機構の各インキュベーション施設でCBD事業者受け入れの前例がほとんど無い中で、私も入居できるかどうか不安がありましたが、本当に親身になって面接をしてくださいました。
私のように、日本でまだ馴染みのないような事業で、製造・開発の拠点を持って始めようと思っている方は、ぜひ入居を検討してみてください!
ーありがとうございました!
編集部コメント
国内でもまだまだ伸びしろの余地があるCBDビジネスを、ものづくりの街・名古屋に製造・開発拠点を置くことで差別化に成功しているグリーンブラザーズ・ジャパン。健康経営の取り組みを始め、「全ての人にCBDを届ける」ビジョンを実現する同社の活躍に、今後も期待が集まります。
▼グリーンブラザーズ・ジャパン 会社HPはこちら
https://greenbrothers.jp/
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