名古屋市が主導で開催する「NAGOYA BOOST DAY」が、今年2月14日(金)に開催されました。「NAGOYA BOOST DAY」は、「NAGOYA HACKATHON」と「AI・IoT人材BOOSTプログラム」で生まれた成果をプレゼンテーションするイベントです。
イベントの内容説明
名古屋市は、当地域からのイノベーション創出を最終目的とし、2017年度に共創によるビジネス創出イベント「NAGOYA HACKATHON」をスタートしました。2018年度からは、ハッカソンイベント「NAGOYA HACKATHON」に加え、若手人材育成プログラムである「AI・IoT人材BOOSTプログラム」、そしてこれらの成果を発表し様々なビジネスマッチングを創出することを目的とした「NAGOYA BOOST DAY」を実施しています。
これらの3つの取組みを、イノベーター育成・ビジネス創出プログラム「NAGOYA BOOST10000(ナゴヤブーストテンサウザンド)」として定義し、世界の未来を切り拓くイノベーターを名古屋から10000人輩出することを目指します。
今年度の「NAGOYA BOOST DAY」では、新規事業発掘、事業マッチング、人材発掘、スタートアップ発掘など、「NAGOYA BOOST 10000」で生まれたアイデアと人材が、次のステップに進む土台作りとしての役割を担う取組みとなっています。
会場には多くの報道陣が集まり、審査員とともに、9チームが行う最終ピッチに耳を傾けました。その中から、最優秀賞をチーム、優秀賞をチーム、敢闘賞をチームが受賞。本記事では、全チームのピッチ内容と受賞企業の代表者コメントをレポートします。
ピッチしたチームやプロダクトの紹介一覧
Smiling State「名古屋から新しい国の形を提案するプラットフォームの実現」
私たちSmiling Stateは世界に存在する、国籍や公的なIDのない難民に向けて、新しい国(シェルター)の形を作ります。第一段階としてSmiling Stateは世界中から仕事を集め、難民や辺境の方々とマッチングさせるプラットフォームを作ります。仕事を介してスキルや財産を得ることができれば、母国に帰ってからも仕事を見つけやすくなりますし、財産があれば生活を営むことができます。
本来国民のためのシェルターとして機能し、彼らに教育や産業、雇用の機会が社会保障を与えるべき国が機能していなくとも、民間企業である自分たちが彼らにスキルと財産を提供することで、より平穏な世界に貢献します。
chouKAKU with TOWNING.「農家が開発した栽培方法を再現できる作物栽培企図を販売します。」
IoTとデザイナーソイル(有機肥料使用可能な人口土壌)を活用して、農家が開発した栽培方法を再現できる作物栽培キットを販売します。農業は土壌の良し悪しが収穫の多寡を大きく左右するため、土づくりができるまで利益が出せない新規農家が発生しやすいのが現状です。それを改善するため、栄養の豊富な人口土壌を生成することで、土づくりの期間を抑え、初年度から利益を出すことが可能にします。
さらに、このプロジェクトでは、土壌の特性をデザインすることも可能なため、農作物の味の調整や土壌の環境を安定させ、収穫量を保つこともできます。また将来的には、伝統的な農家の土壌やブランド化された地方の土壌を分析して再現することで、新たなブランドを国内に生み出すことも目指しています。
チーム代表の西田氏は、宇宙空間で農業ができることを目指し、兄弟でTOWINGという会社を立ち上げ、中小企業社長、主婦、大学教員等を巻き込み活躍中です。
また、西田兄弟は、このデザイナーソイルを使ったchouKAKUプロジェクトを含んだ宇宙農業事業構想を持って、S-Booster(内閣府主催宇宙ビジコン)に出場しスカパーJSAT賞を受賞しました。
えほんたいむ(ハッカソンチーム)「子育てをもっと楽しみたい、そんなママの温かな気持ちから生まれたプロダクトです」
あっという間に成長する我が子との時間を大切にしたいという思いから、親子で楽しめるカメラ『えほんたいむ』を開発しました。忙しい毎日を送っていると、なかなか意識的に子供と一緒に遊ぶ時間を作ることは難しくなってきます。しかし、このカメラを家に設置すれば、指定した時間にアラームを鳴らし、カメラの前に親子が集まるように呼びかけます。親子が揃うとカメラが画像認識によって人数を計算し、家族の人数が揃うとプログラムされたゲームを提案して親子が一緒に楽しめる時間を作り出します。そして、『えほんたいむ』はその姿を写真に収めることで、親子の思い出を記録に残します。
私たちは、子供は何で遊ぶかよりも、誰と遊ぶかの方が大切だと考え、親子で過ごす楽しい時間が何よりも子供に良い影響を与えると信じています。
Education IoT(ハッカソンチーム)「子供の夢が叶うように「生きる力・人間力」を育むことを目指しています」
文部科学省は2020年以降の学習指導要領の方針として「子供の生きる力を養う」教育を掲げており、これから時代は以前にも増して子供の主体性やコミュニケーション能力を養うことが大切になってきます。そして私たちも、企業活動を通じて子供の生きる力を養える世界をサポートすべく、子供の現状をしたい保護者や、事業主をターゲットとした、保育・幼稚園向けIo Tソリューションを提案します。
子供が保育園や幼稚園でどんな風に時間を過ごしているのかを知るために、RFIDを子供や保育園の設備、おもちゃなどに付けることでセンシングし、距離をトラッキングすることで子供の行動ログを集めます。最終的に子供の行動ログを取得・分析し、パーソナライズされた情報を親/事業主に提供を目指します。そして集めた情報は子供の成長を確認するためや、どんな風に育てていくかを決めるため情報として活用できます。
縁「一生家族と寄り添える世界を作りたい。」
個々の家族に合わせ、最適な2世帯の家族イベントを作成するサービスを提供します。ある調査によると、現代では30歳以上の日本人の約75%の人が「自分の両親と十分な時間を一緒に過ごせてない」と感じているそうです。私たちが両親と会えない理由は大きく分類して3つの理由があります。それはそれぞれ「距離・きっかけ・時間」の不足です。これを解決するため、私たちは家族のためのサービスを提供します。
このサービスでは、両家の個人情報を入力することで、両家にあったイベントを作成します。イベントには料理の趣向や距離なども反映した上で、誕生日会やアウトドアなどの種類を選択することも可能です。また、イベントで撮影した写真をこのサービスにアップロードすると、それを製本したアルバムを後日するといったプランも提供することができます。私たちは家族を結ぶことで、人々が距離感を感じない世界を目指します。
caraBand(キャラバン)「いつでもどこでも仲間とバンド演奏ができるサービス」
私たちが解決したい課題は音楽を楽しんでいる人たちが抱えている「音楽に触れる時間の不足・スケジュールの問題」や「バンドメンバー・仲間探しの問題」です。
そこで私たちは『caraBand』という、いつでもどこでも仲間とバンド演奏ができるサービスを提供します。独自のアルゴリズムを活用し、オンライン上に信頼できる相手を見つけることで、居心地のいいバンド空間を提供します。『caraBand』を使うことで、あなたのいる場所がスタジオになり、好きな時にバンド演奏を楽しむことができます。また、オンライン上で出会ったメンバーに対して感想やフィードバックを送ることもできるので、より自分の技術を高めることにもつながります。私たちが目指すものは、非言語的なコミュニケーションを通じて、自分の完成や思いを誰もが伝えることができる世界です。
IDOM「新しい知識や技術を習得する挑戦者を支援します。」
IDOMは新たな挑戦を後押しするビジネス支援プラットフォームにより、挑戦者の熱い思いを実現します。現代では、加速度的なテクノロジーの発展によりIT人材の需要が高騰しているにも関わらず、国内のIT学習人口は圧倒的に不足しています。そこには、IT学習を始める人数の不足ではなく、学習の離脱率が高いという課題が存在します。つまり、勉強から得られる達成感の不足や諸問題が障壁となり、実際にプロダクトやサービスを完成させるまでに到達できない人が非常に多いのです。
そこでIDOMは、過去のハッカソンやアイデアソンでうまれた提案を活用し、それらの完成を学習の目的として明確に設定した上でIT学習ができる環境を整えます。ゴールを明確にすることで学習者が達成感を感じやすいようにデザインし、ゴールに到達した人のデータも開示することで、復習環境も整えています。「課題を解決した」「こんなサービスが欲しい」といったアイデアを具現化する機会と、この時代の到来に向けて新たな知識や技術を習得する実践の場を提案することで挑戦者を支援します。
Team Cooking Gadget「味覚をAIで学習、美味しさを視覚化するアルゴリズムを開発」
私たちは、自分の趣味趣向に対して料理をレコメンドしてくれる世の中を目指すため「味のパーソナライズ化」の実現を目指しています。そのために、個々人の異なる味覚をAIで学習し、その人にとっての美味しさを見える化するアルゴリズムを開発しています。具体的には、専用の器具を使って料理の味覚データをセンシングし、アプリへ取り込んだあとで、その味に対する個人の評価を入力することで、自分の味覚データを作成できるようなサービスを提供します。集めたデータは食品メーカーなどに提供することで、メーカーが特定の個人に向けたサービスを展開したり、地域別の傾向に合わせてローカライズされた食品を展開するなど期待できます。
モデルケースとして味噌汁の味最適化に取り組み、個人の好みにあったレシピを提案するモデルを実現しました。味噌汁の味を塩分や旨味、甘みなどに分類してそれぞれの趣向を味覚の種類別に分析することができます。現在はさらにアルゴリズムを深掘りするとともに、1つの活用例として味付けソリューションも開発しています。
Rem-on「シニア世代のデジタルスキルアップをサポートするデバイスを開発」
私たちは「スマホの使い方が分からない」というシニア世代の悩みを解決するためのデバイス『WasurenAI』を開発をしました。『WasurenAI』はマイクとスピーカーを搭載していて、スマホの使い方を音声で教えてくれます。電話やメール、ライン、写真など、カテゴリーごとのボタンが設定されていて、それぞれに機種に合わせたガイダンスをその場で受けることができます。スマホの操作に悩む高齢者は多く、携帯ショップなどで開催されているスマホ講座のようなものに通うことは非常に一般的です。そうした高齢者の多くは操作方法を十分に理解するまでには平均で3回ほど講座を受ける必要があり、そのための時間やコストは決して小さなものではありません。
しかし、このデバイスを活用すれば、高齢者が複数回講座を受講せずとも、自宅でスマホの操作を学ぶことが可能になりますし、さらには携帯ショップの人件費や講座にかかるコストを削減することもできます。私たちは、シニア世代のデジタルスキルアップを図ることで、周りの人たちとのコミュニケーションを円滑にすることを目指しています。
編集部まとめ
最優秀賞は、chouKAKU with TOWNING.が受賞しました。代表の西田亮也氏は「これからは自分も博士課程へと進むことになるので、より一層実現に向けて取り組んでいきたい」とコメント。また優秀賞を受賞したEducation IoTの情家智也氏は「子供たちやその両親が安心できる社会に貢献できるように努力します」とコメント。敢闘賞を受賞したIDOMの代表後藤侑祐氏は「メンターの方からいろんなアドバイスをいただき、参加してからもすごく勉強になった」と感想を述べました。
また、記者会見では、株式会社CURUCURU 代表取締役 CEOの時田 由美子氏が「どのチームのアイデアも非常に素晴らしく、国内や地域だけではない世界の課題に対して明確にアプローチをしていた点に非常に可能性を感じる。ぜひ名古屋から世界に羽ばたく企業になっていただきたい」と総評を述べました。
ここから生まれた新たな事業が、中部地域の活性化ひいては国内外における共同体の発展に貢献することが期待されています。
取材・撮影:杉下