イノベーションの促進と交流の機会として名古屋市が主催している「NAGOYA CONNÉCT(ナゴヤコネクト)」(運営:Venture Café Tokyo) が、2021年1月28日(金)に旧那古野小学校をリノベーションしたインキュベーション施設「なごのキャンパス」にて、感染症対策を徹底した配信会場と、視聴者用オンライン会場の両面で開催されました。第19回目となる今回は「The future of sports business」と題し、スポーツビジネスの未来について一緒にとことん考える4時間となりました。
文:恩田
写真:杉下
NAGOYA CONNÉCTは「ちょっとした繋がりからイノベーションを生むことができる」をキーワードに、2020年の7月から毎月第4金曜日にリアルとオンラインで開催される定期イベントです。学びと繋がりの両方を叶えるプログラムとなっており、イノベーションに興味や関心がある方なら誰でも無料で参加できます。
昨今のスポーツビジネス市場
今回のテーマである「スポーツビジネス」とは、スポーツを通じて価値提供をし収益を上げているビジネス全般を指します。世界の経済規模は2025年に60兆円に上るといわれ、日本国内でも2025年に15兆円の市場を目指す野心的な目標が掲げられました。また現在、政府方針としてもスポーツを通じた地域活性化、観光地の醸成、まちづくりが進められています。
パネルディスカッション「アスリートのセカンドキャリア」
二部構成となった今回、前半ではさまざまなスポーツの現場を知る方々が登壇し、アスリートや指導者、経営者などそれぞれの視点から、これまでの生き方や現役引退後のキャリアについてパネルディスカッションが行われました。
モデレーター
小村隆祐(こむら りゅうすけ):ベンチャーカフェ東京 プログラム・ディレクター
登壇者(五十音)
- 岩田 稔(いわた みのる):元阪神タイガース選手で現在株式会社Family Design M代表取締役を務める
- 大石 純平(おおいし じゅんぺい):株式会社Family Design Mの起業サポートを行う
- 神田 義輝(かんだ よしてる):各界のトップアスリートのキャリア関連プロジェクトを実施、現在は水戸ホーリーホック取締役を務める
- 廣瀬 佳司(ひろせ けいじ):ラグビーで日本代表としてワールドカップ3大会連続出場、現在は京都産業大学ラグビー部監督を務める
登壇者の方々の取り組みについて各自紹介があったのち、セッションは「セカンドキャリア」をテーマとしたフリートークに移りました。自分に専門的なITやビジネスのスキルがないことを後悔しているという岩田さんは、現役時代では野球で成績を出すことだけを考えていたと語りました。(写真中央)
これに、アスリートがPC操作やビジネスを学ぶことに目的を見出しにくい現状が確かにあると続けた神田さんは、身体的活動以外にも試合や相手の分析といった知能面の能力も今後はこれまで以上に重要になると語りました。神田さんが取締を務める水戸ホーリーホックでも「メイクバリュープロジェクト」という取り組みを通じて、これに対応しているといいます。
一方で、アスリートだからこそビジネスに活かせる強みもあるのではないかとの問いもありました。廣瀬さんはご自身が指導している大学ラグビーでの体験から、これまでラグビーしかして来なかった学生でも、一つのことを苦しみながらも継続しただけで、一般的な社会人として最低限必要な部分は既に備わっていると述べます。神田さんもこれに対し、ビジネスにおける基本スタンスとなる「目標に対するコミットメント」や「成長に価値を見出せる」などの価値観の部分に関して、体育会系の人は圧倒的なものを持っていると賛同しました。
フリートーク後半では、ラグビー界で2022年度から「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)」として新しい競技運営がスタートしたことについて質問が寄せられました。廣瀬さんは、学生たちが企業へ就職した先でラグビーを続けるスタイルが増えているとし、セカンドキャリアの文脈では、目指す道筋が見えると挑戦する意識は高まると語りました。
その後フリートークは、自身も患った一型糖尿病の患者の課題解決に取り組む岩田さんの事業の話題へ移ります。岩田さんは、闘病しながら選手生活を続けた自分にしかない体験を通じて講演会を行うことで、より活動が広がりをみせると述べました。
名古屋から動き出す、ポスト2020のスポーツビジネスの可能性
続いて、イベント後半のセッションです。社会全体に多様なインパクトを残した「東京2020オリンピック」以後において、名古屋からスポーツを起点としたイノベーションを興すためには何ができるのか、当地域の特性や課題、可能性などを踏まえた意見交換が行われました。
モデレーター
小倉大地雄(おぐら たつお):一般社団法人スポーツアナリスト協会理事、HiVE発起人
登壇者(五十音)
- 上村哲也(うえむら てつや):株式会社NTTドコモ スポーツ&ライブビジネス推進室 ベニュービジネス担当課長
- 倉内佳郎(くらうち よしろう):中日新聞広告局ビジネス開発部 部次長、中小企業診断士
- 白石幸平(しらいし こうへい):SPORTS TECH TOKYO、電通 事業共創局 ビジネス・クリエーター
中日新聞の倉内さんは「2026年には名古屋での開催となるアジア大会が控えている。それまでにステーションAiの開設や愛知県新体育館の新設、新・瑞穂競技場の完成といったように、名古屋にとって重要なイベントが続いていく」と期待を込めました。その上で、愛知県の特色として、リーグ構想のあるハンドボールや各種企業系チームなど、さまざまなスポーツのチームが集積していることを言及しました。また、スポーツやデータサイエンスを専攻できる大学が多いことや、スポーツ領域に強い投資家がいることは強みであるといいます。
一方で、愛知県ならではの課題として、スポーツビジネス共創基盤だけが愛知県に無いこと、子供の運動能力が全国最低レベルであること、スポーツに対する好感度と行う時間が全国以下レベルである現状も気にかかっているそうです。これらを踏まえて中日新聞は、スポーツと他分野の融合によってスポーツ市場の拡大を目指しており、2026年のアジア大会から逆算して今後4年半の中で何かイノベーションを起こすよう働きかけていると語りました。
競技団体やクラブとの連携など、実証実験の場が重要なのではないかとの問いに、白石さんは構想や実証実験はもちろん重要とした上で「そこから発展させる部分に関しては大きな課題を感じているので、スコーピングやプロジェクトマネジメントに力を入れていきたい」と語りました。
他方で、新しいアイデアなどが活かされる場面で展開が考えられるかとの問いに、倉内さんは「2026年の大きな目標に向けて自分達のリソースを積極的に使ってもらえれば」と語り、アジア大会に向けた意気込みを滲ませました。また、名古屋では勉強会も積極的に開かれていると明かし、各業界が比較的コンパクトに集まることのできる名古屋の利点を活かした連携を強みにしたいとも述べました。
中小企業やスタートアップを地域活動にさらに根付かせることができれば、より魅力的なコンテンツになります。そのようなオープンマインドネスの可能性を問われた上村さんは「最先端の技術を活かすことは確かに重要だと捉えている。活かす方法としてはさまざまなコミュニティのみなさんと考えることで、これまでになかったような体験を創れたらと思っている。」とし、愛知発で先進性のある事例を創っていきたいと述べました。
同様に愛知県の可能性について白石さんは「この地域でどんな取り組みがあるか認知されるだけでもプラスになる。今日のイベントも含め、純粋にワクワクできる活動を継続していくことは大事」と語りました。
編集部コメント
二つのセッションによって構成された今回のイベントでしたが、普段触れない事柄から受けた刺激を自分自身の学びとして還元する絶好の機会になりました。一般の方がスポーツの文脈でアスリートのセカンドキャリアについて考えることは少ないかもしれません。しかし、これを自分のキャリアに置き換えてみると、学びに繋がっていく部分が多いように思います。また後半のセッションで示された、愛知県のスポーツビジネスやスポーツを通じたイノベーションの可能性に驚いた人も多かったのではないかと思います。当地域で行われている取り組みについて認識することの重要性が感じられました。