社会課題への次なるアプローチを|NAGOYA CONNÉCT#14イベントレポート

投稿者: | 2021-09-13

イノベーションの促進と交流の機会として名古屋市が主催している「NAGOYA CONNÉCT」(運営:Venture Café Tokyo)が8月27日(金)にオンライン形式で行われました。

今回のイベントでは、MUFGビジネスサポート・プログラムよる表彰企業様のピッチをはじめとして、共同で環境エネルギーイノベーションコミュニティを立ち上げる企業、未来に向けた新しい生き方・働き方を推進する女性イノベーター、修士課程または、博士後期課程に在籍する若い研究者など多様な方々が登壇されました。

新たな研究・技術・事業に挑戦し様々な分野で多様性のある軸を持つイノベーターたちが登壇した講演やセッションにより、思考の幅を広げられるなど学びどころ満載の内容となっていました。

文:渡辺
写真:渡辺

新たな研究・技術・事業を通じた学びとイノベーションの輪を拡げる

NAGOYA CONNÉCTは「ちょっとした繋がりからイノベーションを生むことができる」をキーワードに、昨年7月から毎月第4金曜日に開催されている定期イベント。イノベーションを促進するためのパネルセッションなど学びの場と、繋がりの機会を組み合わせたプログラムで、誰でも無料で参加できます。毎回、200人前後が参加するコミュニティになっています。

製品・研究開発や技術研究などにおいて、外部の組織や機関などが持つ知識や技術を取り込んで改革を促進するオープンイノベーションが注目を集めています。この日もセッションごとに異なる分野のイノベーターが登壇し、多方面で起きているイノベーションを捉えることができる機会となりました。午後5時から始まり9時まで、2つのZoom上のオンライン会場で、4つのセッションが開催されました。

新規事業に取り組むベンチャー企業によるピッチセッション


5時半から「Rising Up Pitch presented by MUFG」と題したピッチセッションが開かれました。このピッチではMUFGビジネスサポート・プログラム「Rise Up Festa」の表彰企業6社がご登壇されました。

冒頭に株式会社三菱UFG銀行 成長産業支援室 室長 剣持氏よりプログラムについてのご説明がありました。「Rise Up Festa」とは、三菱UFJフィナンシャル・グループ (MUFG)が既存のネットワークや経営支援等これまでに培ってきた豊富なノウハウを最大限活かし、 今後の成長が期待される
・デジタルトランスフォーメーション(DX)促進
・ポストコロナ・人生100年時代における健康社会・Well-beingの実現
・都市・地域社会のアップデート・スマートシティの実現
・次世代を支える基幹産業・技術の創出
の4分野で、新たな事業にチャレンジする企業をRise Up Familyとして中長期的にサポートしていくプログラムです。当プログラムには184社がエントリーし、その中で8社が選出されました。

ドキュメント作成をAIがサポートし効率を飛躍的に改善

ピッチのトップバッターは、DX部門で最優秀賞を獲得された、株式会社日本法務システム研究所 堀口圭さんによる「AI搭載のオンラインエディタ「LAWGUE」のよる新たなドキュメント作成のあり方について」でした。

ホワイトワーカーが週の半分以上の時間を費やしているとされる文書作成・レビュー業務。それらのドキュメント作成に必要な業務の効率化を行うためのソリューションとして開発されたLAWGUE。文書作成の際に類似文書をAIが自動でサジェストし比較・レビューを行ったり、LAWGUE独自の編集アシスト機能で編集の効率性の飛躍的な改善が期待できます。

ピッチでは動画でLAWGUEの実際の活用方法を紹介しており、聴衆していた人が一目で魅力を感じることができるような内容で、参加者からは称賛のコメントもありました。

Q&Aの時間では、「中部圏のスタートアップとの連携に興味がある大手企業に対してどのようなアプローチがしたいか」という質問に対し堀口さんは「LAWGUEは業種分野に偏りなく利用できます。例えば愛知県であれば工業地帯があるので、工場のマニュアル管理などでもご活用いただけます」と回答しました。

街の担い手と伴走し、エンドユーザーのニーズに柔軟に応える

「都市・地域社会のアップデート・スマートシティの実現」部門で最優秀賞を獲得されたscheme varge株式会社 嶂南達貴さん。嶂南さんは、従来の都市作りは通勤や通学などルーティーン化されたニーズにばかり着目され都市間の画一化が進んだことが、新たなニーズに応えることができず衰退する原因の一つになっていたと分析しています。

その課題に対しscheme vargeでは、データを分析した上で駅の場所の提案を鉄道会社に行うなど、「データ駆動型エリアマネジメント」というデータ活用した上で現地の改善までをマネジメントするといった解決策を提供しているそうです。
プロダクトとしてはコンシューマー向けに「Horai」という旅行プランを推薦・サポートするアプリ、事業者向けに「Horai for Biz」という管理アプリをそれぞれ提供しています。

嶂南氏は「都市の再発明を目指すためには、街の中でプレイヤーとして活動している事業主が成長したり連携することが必要。scheme vargeは街の担い手に直接アプローチし、エンドユーザーである観光客に価値のある体験の提供を実現していく」と力強く語られました。

この日登壇した6社のうち、ここでは紹介できなかった4社として、株式会社リモハブ 谷口達典さん、PaylessGate株式会社 足立安比古さん、株式会社 Magic Shields 代表取締役 下村明司さん、ロボセンサー技研株式会社 大村昌良さんにご登壇いただきました。6社とも
事業ドメイン・技術に対しての高い熱量を持っていることが伝わる内容となっていました。

株式会社リモハブ 谷口達典さん 遠隔心臓リハビリシステム「リモハブ」

PaylessGate株式会社 足立安比古さん ハンズフリー認証プラットフォーム事業 

株式会社 Magic Shields 代表取締役 下村明司さん 転倒事故を防ぐ新素材「ころやわ」

ロボセンサー技研株式会社 大村昌良さん 触感のデータ化とリモートハプティクスの実現

大学の研究を社会実装するためのコラボレーションを考える


もう一つのZoom会場では5時半から一時間ずつ、計3つのセッションが開かれました。最初に開かれたのはマスドクナゴヤ第二弾です。
マスドクナゴヤは、修士課程(マスター)や博士後期課程(ドクター)に在籍する若い研究者が最先端の研究や技術を発表することで、幅広い層の参加者との対話を通じて大学発研究の社会実装に役立たせるコラボレーションを考えるイベントです。本日は「プラズマ」をテーマに、プラズマに関連する研究を行う2名の研究者がご登壇されました。

再生可能エネルギー「バイオエタノール」の生産量向上に向けて


一人目は名城大学大学院農学研究科修士の加藤大志さん。「プラズマ照射による酵母のバイオエタノール生産への影響」について、日頃の研究内容をもとに詳しく紹介していただきました。

植物を原料としている再生可能エネルギー、バイオエタノール。食料の中でもとうもろこしとサトウキビがバイオエタノール生産の軸となっています。その背景として、食料以外の稲わらや木材などには、リグニンと呼ばれる前処理の際の「邪魔者」が多いことが課題となっていました。
そこでプラズマ発生装置で物質を変換する力の強い性質を持ったラジカルを活用することで「邪魔者」による影響を抑えることができるのではないかと仮説を立てました。実際に、バニリン(リグニンが生成するエタノール生成の阻害するもの)にラジカル照射を行うことで、バニリンを減少させることができました。つまり、プラズマ照射による処理によってエタノール生産量を向上させることができたとのことです。

参加者からの「この研究をどのようにしていけば社会に活用することができると考えますか?」という質問に対し、「一つは、食べられない稲わらや木材などの非可食バイオマスをバイオエタノールにできたらなと考えている。そこまで到達するには課題が山積みですが、最終的に廃材などからガソリンを生産できるプラントなどを作れたら夢があっていいなと思っています」と話しました。

夢のエネルギー源「核融合発電」の実現を目指すことをモチベーションに


二人目の発表者は名古屋大学大学院工学研究科電気工学専攻 夏目祥揮さんです。「核融合発電の実現に向けた基礎研究紹介」というタイトルで研究内容を紹介していただきました。

現在は主流の発電方法ではないものの、莫大なエネルギーを生み出すことができクリーンに生産できるため、夢のエネルギー源として期待されている熱核融合発電。そんな核融合発電炉の実装に向けて世界各国が協力して進める中で当然課題がありますが、その一つとして排熱があります。排熱の役割を担うダイバータの熱負荷を低減する手段として非接触プラズマによる熱負荷除去が現状の対策として考えられているそうです。ご登壇いただいた夏目さんは非接触プラズマ中の輸送現象について研究されているそうで、これまでの研究で明らかになった部分や、これから解明したいことについて詳しく解説していただきました。

「僕が研究に関わっているのは、更なる熱負荷除去への奇策として研究されている非拡散的輸送現象というものです。輸送現象の物理機構が解明でき、かつ外部制御によりダイバータへの熱負荷の分散が実現できれば、現状の実験炉(ITER)よりも大きな商用炉の熱負荷にも対応が可能となります。また、装置の耐久性向上にも繋がるため経済的な利点にもなります。これらの実現を目指すことをモチベーションにして研究に取り組んでいます」

環境エネルギーイノベーションコミュニティ立ち上げイベント


日本最大級のイノベーションセンターであるCIC Tokyoと、エネルギーを中心に新たな事業創出と成長を目指す実践者集団であるU3 Innovationsの2社の共同で環境エネルギーイノベーションコミュニティが立ち上がります。6時45分からは立ち上げイベントと称し、当コミュニティの紹介と立ち上げに至った経緯の紹介や、新産業立ち上げに向けた各プレイヤーの想いや当コミュニティにかける期待をテーマにしたパネルディスカッションを、イノベーション創出の中心的役割を担う方々が集結し開かれました。

愛知県によるスタートアップ&環境エネルギーイノベーション支援


まず初めに、愛知県経済産業局スタートアップ推進課 柴山政明さんより、愛知県が取り組みを進めているスタートアップ拠点「ステーションAi」プロジェクトについての概要と、愛知県が環境エネルギーイノベーションにどのような取り組みを行なっているかについてのお話がありました。

柴山さんより、「愛知県はグリーンイノベーションの創出に向けて、カーボンニュートラルへの取り組みを温暖化対策としての側面はもちろん、産業としての成長戦略の一環としても捉えています」「愛知県としても環境分野とスタートアップの掛け合わせは重要だと思っています。ぜひ皆さんと一緒になって地域産業を盛り上げていきたいと考えています」など、スタートアッププレイヤーにとって心強い内容となるお話がありました。

あらゆる人の力を結集し環境エネルギーイノベーションを起こす


今回立ち上がる環境エネルギーイノベーションコミュニティの紹介がされたのち、19時から開かれたパネルディスカッションでは、U3イノベーションズ合同会社 創業者&共同代表の伊藤剛さんがモデレーターとして、株式会社LEO 代表取締役CEO 粟生万琴さん、プレ・ステーションAi 統括マネージャー 山本有里さん、株式会社INPEX マネージャー 有元啓さんの3名に環境エネルギー変革をテーマでご登壇いただきました。

中部地域のスタートアップエコシステムや環境エネルギー変革に携わる登壇者たちに「中部地域の環境エネルギーイノベーションとスタートアップの可能性」や「環境エネルギーに関連するエピソード」などについて語っていただきました。

伊藤さんから「電気やガスなどのインフラは生活の中に溶け込みすぎていて、顧客体験を実感する場面が身近ではないのでは?と思っています。スタートアップ関連に取り巻く人々にとって環境エネルギーとはどんな印象なのでしょうか」という質問に対し、

粟生さんは「学生さん、特に研究者さんとお話ししていると、むしろZ世代の方々の方が環境問題やSDG’sに意識が向いています。起業までは行かなくてもアクションし始めている人もいて、むしろ若い世代の方がグリーンイノベーションが身近なのではと感じています」と答えました。

環境エネルギー分野の大企業としての観点から、スタートアップとどのように関わっていきたいかについて、有元さんは「エネルギーは規制が強い産業であったり、費用面などを考慮して携わりづらい分野だと捉えられるここも多いですが、自社としても脱炭素というテーマを重要なものと考えているので、スタートアップは気軽に声をかけて欲しい」とスタートアップとの実証例なども踏まえてお話しされました。

伊藤さんから「大企業側としては気軽に声をかけて欲しいという想いがありながらも、現状スタートアップと大企業の連携が完璧にうまくいっているとは言えないように感じます。スタートアップエコシステムビルダーの観点から大企業側にもっとどのようにして欲しいなどの要望はありますか」と投げかけられ、山本さんは「まずは大企業側がどのようなことを提供できるかをしっかりと発信していくことが大切だと思います。スタートアップ側としてはアイデアはあっても金銭面や人的リソースの問題などから実証することに困っていることが多いです。資金、人員、場所などを総合的にサポートするということを外部にわかりやすく示していくことが求められていると考えています」と話されました。

最後に伊藤さんは「今回立ち上げるコミュニティを軸に、スタートアップや大企業に限らず様々な人を巻き込んで環境エネルギーイノベーションに繋がることを実現できたらいいなと思っています」と意気込みを語られました。

「場所」から考える自分らしい生き方・働き方

8時からは本日最後のイベントとして、女性の未来に向けた自分らしい生き方・働き方を考えるセッション「Women’s Leadership Session Vol.4」が開催されました。今回のテーマは「場所」について。山里での新しい働き方を推進するお二人にご登壇いただきました。

SATOYAMA Farm School 山里楽耕 共同代表 ライフエネルギーマップ開発者 安藤由美子さん

アラカワマウンテンズ代表 レンタルスペース「北小田の家 」企画・運営 荒川偉洋子さん

自己紹介をしていただいた後のトークセッションでは、異なる背景で田舎に住むことになったお二人に「田舎に住むことの良さ」や「コミュニティなどを含め、田舎での生活の難しさ」などについて語っていただきました。

今回のテーマである「場所」について、荒川さんは「場所を変えると働き方や時間の使い方が必然的に変わるので、価値観が大きく変わりました。特に時間の使い方としては、人と会う時間が増えました」、安藤さんは「どんなHomeを持ちたいのかをリアルにイメージすることが大切な気がします」と、それぞれのエピソードを元にお話ししていただきました。

編集部まとめ

今回のイベントは2つのオンライン会場に加え、ネットワーキングスペース「Remo」でアイデアや製品などを展示できる「Conversation Table」が設けられました。また、先輩起業家、アクセラレーター、投資家、弁護士、会計士等、各領域のプロフェッショナルからのメンタリングを30分無料で受けられる「Office Hours」も設けられていました。

各セッションでご登壇いただいた方々は、それぞれ分野や技術など各分野の現状や課題感を詳細まで認識していました。課題解決を模索している際、思いがけない目線から貴重なヒントを得ることもありますよね。各分野に特化した人同士がNAGOYA CONNÉCTをはじめとした場所で交流することで、新しい発見や課題へのアプローチのヒントを得て、イノベーションを生み出すことができるかもしれません。

次回開催情報

■日程
2021年9月24日(金)17:00-21:00
■開催場所
オンライン開催予定
■概要
第15回開催となるNAGOYA CONNÉCTは、引き続き多様なイノベーター達による講演を通じて参加者は学びを得ながら、そこで得た共体験を梃子にネットワークを拡げることが出来ます。

今回のイベントでは、第14回に立ち上げセッションを行った環境エネルギーイノベーションコミュニティによるプログラムが開催されます。テーマは”住宅の脱炭素”。”住宅の脱炭素化”に関連するスタートアップに、様々な角度から本社会課題解決に向けたソリューションとなりうる技術やサービスをピッチしていただきます。

また、2019年世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)共同議長を務めた坂野 晶氏による基調講演や、環境問題に取り組む名古屋の団体や学生の活動状況を取り上げ、私たちが実践に移すためのtipsを紹介されます。別会場では、グロービス名古屋校とタイアップや、グロービスアルムナイ・ピッチと題し、グロービス卒業生によるピッチセッションを開催。第5回目となるWomen’s Leadership Session も開催され、スタートアップやベンチャー企業で働く女性たちにフォーカスしてお届けします。

■詳細
https://ng15.peatix.com/