電子ビーム発生システムの研究、開発、製造及び販売を手掛ける株式会社Photo electron Soul(本社:愛知県名古屋市、以下Photo electron Soul)は、名古屋大学発ベンチャーとして光電子ビーム領域で注目を集める企業です。
今回は名古屋医工連携インキュベータ「NALIC(ナリック)」の入居・卒業企業特集として、同社代表取締役の鈴木 孝征(すずき たかゆき)氏へのインタビューを実施。独自の電子ビーム生成技術「半導体フォトカソード技術」を活用した事業構想や、NALIC入居のきっかけについて伺いました。
プロフィール
鈴木 孝征(すずき たかゆき)
Photo electron Soul代表取締役CEO。米国University of Delawareおよび国内ベンチャー企業にて、大学技術の実用化研究・開発を行う。その後、6年間にわたる名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部の技術移転業務にて、技術・知的財産の事業化実績を持つ。名古屋大学大学院にて博士号取得。2015年に取締役CTOの西谷氏、取締役CFOの田村氏とともにPhoto electron Soulを創業。
名古屋大学技術移転部門の活動をきっかけに創業
ー電子ビームの技術開発系ベンチャー企業は非常に珍しいですよね。Photo electron Soulを設立される前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
鈴木:Photo electron Soulを設立する前は、名古屋大学の知財・技術移転部門に在籍し、大学で産まれる知財や技術の事業化に6年間取り組んでいました。知財を産み出すところでは研究開発費の調達や産学共同プロジェクトを組成したり、事業化を進めるところでは発明の特許化と企業へのライセンスアウトや、ベンチャー企業の立ち上げを支援したりしていましたね。
ー技術開発系のベンチャーを立ち上げるにあたって必要な素養は、そこで身につけたのですね。
鈴木:当時の名古屋大学では、本当にいろいろなことを経験させていただきました。その活動の中で、現在の取締役CTOである西谷と、彼がずっと研究してきた技術「*半導体フォトカソード電子ビーム」に出会いました。これを世に出すためにはどうしたらいいだろう、といろいろと実践していく中で、自分たちでリスクをとってスタートアップの形を取ることが一番良いのではないかと考え、2015年7月にPhoto electron Soulを設立しました。
*半導体フォトカソード技術:電子ビーム生成技術の1つ。材料に光を照射することで、光のエネルギーにより電子ビームを取り出す技術のこと。
ー創業時から大きく変わったことはありますか?
鈴木:はい。やはりチームは大きく変わりました。ご存知の通り、スタートアップの経営者は事業フェーズごとに役割が変わります。立ち上げたばかりの頃はCEOとは名ばかりの”Chief Everything Officer”(意訳:なんでもやる人)でしたね(笑)。
今はお陰様で、共同創業した西谷(CTO)と田村(CFO)に加えて、半導体装置ビジネスで百戦錬磨の土谷(COO)という取締役4名体制で会社経営をしています。そしてエンジニアリング/事業/バックオフィスでも優秀な人材が集まって活躍していて、超強力なチームになっています。
主力製品の半導体ウェハ検査装置向けシステム 海外でも評価
ー要素技術開発だけでなく、実際に製品もリリースされていますよね。現在の主力製品について教えてください。
鈴木:今の主力商品は、独自技術を生かした「PES-2020 e-Beam System」という*半導体ウェハ検査装置向けの電子ビーム生成システムです。
*半導体ウェハ:半導体基板や半導体素子の材料。半導体の結晶が素材となっている円盤状の薄い板。
ー製品サイトを見ると、英語表記も多いですよね。
鈴木:そうですね。会社設立当初からグローバル展開を想定していましたので、技術/製品情報は全て英文を用意しています。ただ、当社の顧客である一流のグローバル企業様たちとの取引は非常にシビアですので、スタート時は慎重に進めていました。現在はそのような企業様たちとの取引が進んでおり、確実に当社の技術/製品が世界へと広がっていっていることを感じます。
ー海外との取引が増えている要因はどこにあるのでしょうか。
鈴木:半導体産業の市況は大きく変わっています。かつて日本は半導体産業で世界シェアTOP(1998年のシェア率は50.3%、経産省『半導体戦略概略』参照)でしたが、現在は韓国・米国等が大きくシェアを取っています。
そのような中で、有力なお客様/ユーザー様の多くが海外グローバル企業であること、そしてそれら企業様が抱えるペイン(従来では解決できなかった課題)に対して、的確にソリューションを提供できるようになったことが大きいです。
半導体チップメーカーは、半導体ウェハ検査のスループットの低さに長年苦しんでいて、どうにか解決をしようと様々な手を尽くしてきましたが、解決策がありませんでした。しかし、私たちの製品を搭載いただくと、このスループット(処理能力)が格段に向上します。現在はそれに加えて、当社の新発明によって、従来では実現できなかった検査もできるようになり、これが海外の企業様との取引が増えた要因となっています。
またここ数年、日本は国家戦略的に半導体製造基盤を整備しており、この取り組みは国内外のメディアでも大きく取り上げられています。その流れの中で、最先端に必要な技術として私たちの技術に注目が集まったことも要因になっているのかもしれません。
半導体フォトカソード技術で、これまでにない検査製品を次々と生み出す
ーコロナ禍の半導体製造需要拡大もあり、Photo electron Soulの技術はこれからも注目が集まるかと思います。今後の事業展開について教えて下さい。
鈴木:まずは半導体ウェハ検査装置向けシステムのグローバル展開を推し進めていくことが最優先です。
そして当社の半導体フォトカソード技術は、半導体ウェハ検査以外にも、多くの分野でこれまでにない便益を提供できます。ナノレベルの観測や加工に対し、一部すでにプロトタイピングを進めていますし、順次、製品/サービス化を進める予定です。忙しい毎日ですが、非常に楽しみにしています。
ー最後に、NALIC入居を検討している方に向けて一言お願いします。
鈴木:NALICは前職のときからお世話になっている施設です。現在は製造拠点として活用していますが、それだけに限らず、私たちが全国/グローバル展開・チームメンバーの採用・新事業の開発をする上でも重要な場所として捉えています。私たちのような技術開発系のベンチャー企業が事業を拡大する上で役に立つ場所ですので、ご興味ある方はぜひ足を運んでみてください。
ーありがとうございました!
編集部あとがき
グローバル規模で競争が激化する中で、世界各国が注目する半導体ウェハ検査装置と、その土台となる要素技術を持つPhoto electron Soul。今後、社会がデジタル化する上でも、彼らのポジションは重要となるでしょう。光電子ビームで産業の未来を創る彼らの活動に、今後も注目が集まります。
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