#NALIC特集 日本ガイシとリコーがタッグを組んだ、新しいVPPビジネスの形とは|NR-Power Lab株式会社

投稿者: | 2024-06-24


VPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)は、工場や家庭などで使われる蓄電池などの分散型エネルギーリソースをIoT技術で統合・制御し、一つの発電所のように機能させるシステムです。再生可能エネルギーの導入が進む欧米に続き、日本でもVPPの商用サービスが始まりつつあります。

そんな市場背景の中、日本ガイシ株式会社(以下、日本ガイシ)と株式会社リコー(以下、リコー)がタッグを組んで2023年に誕生したVPP事業者が、NR-Power Lab株式会社(以下、NR-Power Lab)です。

今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設「名古屋医工連携インキュベータ(以下、NALIC)」の入居企業特集として、同社代表取締役の中西 祐一氏へインタビューを実施。合弁会社設立背景や事業の展望についてお話を伺いました。

プロフィール

中西 祐一(なかにし ゆういち)
2000年ゼネコンに入社。海外の大型インフラプロジェクトに技術者として従事。09年に日本ガイシ入社。欧州を中心にNAS電池の海外営業を担当。帰国後、日本市場でのNAS電池のコト売りを推進。21年、恵那電力株式会社(以下、恵那電力)の取締役に就任し事業開発を担当。23年より現職。

NAS電池開発プロジェクトをきっかけに、欧州でメジャーなVPPを国内で構想

ーNAS電池の海外営業に携わっていた中西さんが、NR-Power Lab設立、そしてVPPビジネスをはじめようとしたきっかけについて教えて下さい。

中西:日本ガイシでは2000年代後半あたりから米国や欧州を中心に、NAS電池の販路開拓に積極的に取り組んでいました。特に再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入に積極的な欧州ではVPPをはじめとして、電力ビジネスの変革が始まっており、様々なエネルギー関連企業に対しNAS電池導入の提案をしていたのです。VPPビジネスのベンチャー企業などにもPRをしていた記憶があります。

※NAS電池:負極(マイナス極)にナトリウム(Na)、正極(プラス極)に硫黄(S)、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いて、硫黄とナトリウムイオンの化学反応で充放電を繰り返す蓄電池(二次電池)を指す。日本ガイシが世界で初めて実用化したメガワット級の電力貯蔵システム。NASは日本ガイシの商標登録。

欧州駐在後、日本ガイシの現代表取締役社長の小林から「NAS電池を使って新しいことをやってくれ」とミッションを受けました。そこで設立した会社が、恵那電力です。恵那市内に設置した太陽光パネルやNAS電池を活用し、現在も60箇所以上の市内の公共施設に電力供給をしています。

ー恵那電力は再エネの地産地消に取り組む会社として、メディアでも多数取り上げられていますよね。

中西:はい。ここで私たちは、恵那電力の検討段階から単体のプロジェクトとして終わらせてはもったいないと考えていました。例えば他の自治体が、NAS電池を活用して恵那電力と同様の仕組みを作りたいと考えた際、NAS電池は非常に大きなシステムなので、そこでは蓄電池として活用しきれない機能が必ず出てきます。それらの未活用部分を束ねてデジタルの力で制御し、バーチャルな蓄電池として機能させるビジネス、つまり既に海外で普及していたVPPに目を付けました。これが、NR-Power Labの構想の始まりです。

ーNR-Power Lab設立にあたり、リコーとタッグを組んだのはどのような背景があるのでしょうか。

中西:日本ガイシがVPPビジネスをしたいと考えた際に、1つ障壁がありました。それは、私たちはセラミックメーカーであり、デジタル技術がすこし飛び地であること、またサービス業の知見が無い点です。事実、恵那電力を設立するときも、電力サービスが行えるように会社の定款を書き換えたほどです。

ーたしかに、地元民にとって日本ガイシはメーカーとしてのイメージが強い印象です。

中西:特に、VPPサービスを提供する上では、ITに強い会社の協力は必須でした。そんな時に、恵那電力で脱炭素・経済循環システムの実証事業を一緒にしていたリコーが、まさに構想を実現するための技術を持っており、かつサービス業に強い会社でもありました。こうして、日本ガイシとリコーの合弁会社という形で、2023年1月にNR-Power Labが誕生しました。

後発VPP事業者ならではの新しい取り組み

ー国内でもVPPに参入する企業は増えており、貴社も後発の企業の1つかと思います。また、VPPは規模が大きいほど有利とも言われていますが、どのような勝ち筋を描いているのでしょうか。

中西:大手電力会社のVPPと、NR-Power LabのVPPは何が違いますか、とよく聞かれます。先行企業との差別化ポイントとして、当社は再エネの地産地消に注目しています。

その一環として、昨年12月に地域新電力各社と連携し、電力の地産地消と域内経済循環の促進に向け共創を開始しました。実フィールドで電力ビジネスを行う各社と、技術を提供するNR-Power Labのコラボレーションで、お互いギブアンドテイクの関係を築いています。現在、全国16の地域新電力会社と連携し共創を進めています。

また、今年の6月には、シェアリング機能付きハイブリッド蓄電所「StorageHub」を活用したビジネスモデルを開発することも発表しました。StorageHubは、蓄電所内の蓄電池を需要家でも利用可能なように設計し、最もニーズの高い場所に速やかに移設し活用できる仕組みです。このプロジェクトでは、蓄電所の建設から運営、サービスまでをワンストップで提供するビジネスモデルの構築を目指しています。

ーどちらの取り組みも、技術力を有するNR-Power Labだからこそできるプロジェクトですね。

NALICの”いぶし銀”な雰囲気に魅力

ーNR-Power Labのビジネスを展開するにあたり、NALICはどのような役割を担っているのでしょうか。

中西:ハード面でいうと、私たちは合弁会社であることに加え、外部の企業との折衝機会が非常に多いため、気軽に予約できる会議室やセミナールームがあることは非常に助かっています。2023年に設立されたばかりのベンチャー企業ではありますが、もともと歴史の長い会社で勤めてきた40-50代の社員が多いため、オープンにし過ぎていない雰囲気があることも魅力です。

ーたしかに、NALIC特有の”いぶし銀”な雰囲気はありますよね。

中西:そうなんです。ソフト面では、IM室の方々が、補助金や助成金情報、行政による支援プロジェクトの案内を適度に紹介してくださる点も助かっています。フォローアップの頻度も非常に適切で、付かず離れずの良い関係を築けています。

ー最後に、NALICの拠点を活かして、今後NR-Power Labで実現したいことはありますか?

中西:私たちは、他社とタッグを組むことに関しては非常にオープンなスタンスで事業運営をしております。例えば、スマートメーターの電力データを活用して事業を展開している企業や、蓄電池の研究をしている大学の研究室…などなど。私たちと一緒にコラボできるような技術、ネットワークを持つ中京圏のスタートアップ、テック系起業家や研究者の方々とは、ぜひNALICでお話しさせて頂きたいです。ぜひお気軽にご連絡下さい。

ーありがとうございました!

編集部まとめ

同社の調査によると、2050年までにゼロカーボンシティとなることを表明した自治体は、2023年9月末時点で991に上ります。VPPビジネスの関心が高まる中で、日本ガイシ・リコーのお互いの技術力を活かして様々なコラボレーションプロジェクトを推進するNR-Power Labに、今後益々注目が集まるでしょう。

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