名大発ヘルステックベンチャーナイト#OICXイベントレポート

投稿者: | 2018-09-04
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6月30日、名古屋大学オープンイノベーション拠点(OICX [オイックス])にて、名大発ヘルステックベンチャーで活躍するキーパーソンを招いたトークイベントが開催されました。今回のテーマは、へルスケアをテクノロジーで解決するビジネス領域「HealthTech(ヘルステック)」。

郵送検査や臨床試験の事業領域で実績を誇る株式会社ヘルスケアシステムズと、医療データ解析や生活習慣病の重症化予防支援事業などで頭角を現している株式会社PREVENTのキーパーソン2名が登壇。業界の最新トレンドや事業の進め方について語りました。本記事では、その様子をレポートします。

登壇者プロフィール

株式会社ヘルスケアシステムズ 取締役 萩原 啓太郎氏

1986年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院生命理工学研究科博士課程修了、理学博士。大学卒業後、産業医科大学助教を経て株式会社ヘルスケアシステムズの研究開発に2016年入社。2018年から同社取締役、研究開発の責任者として従事。「世界を楽しくもっと健康に」を経営理念とし、生活習慣の気づきを与える郵送検査サービスを提供している。

株式会社PREVENT 代表取締役 萩原 悠太氏

名古屋大学大学院医学系研究科修了。大学院では「オンライン心臓リハビリテーションの構築」をテーマに研究。その後、医学研究所北野病院にて理学療法士として臨床業務に従事。医療現場では解決できない予防医療領域の重要性を痛感し、名古屋大学へ復帰後、2016年に株式会社PREVENTを設立、代表取締役に就任。現在、脳梗塞や心筋梗塞などの生活習慣病既往者に寄り添う健康づくり支援を受けられるITサービスを提供している。

モデレーターは、名古屋スタートアップ株式会社代表取締役の若目田が務めました。

研究職出身の経営者は、社内でどんな役割を担っている?

若目田:おふたりとも、経営者であり、研究職の出身です。白衣を着て研究に没頭しているイメージがあるのですが、実際にチームでは、どのような役割を担っていますか?

萩原啓:全く、白衣は着ていないですね(笑)。

(会場笑い)

萩原啓:ほかの人は着ていて、私だけ着ていないんです。ピペットも、入る前は毎日握っていたのですが、入社してから2年間は1回も握っていなくて。多分今やると、壊してしまうかも(笑)。チームでの役割は、「バランサー」ですね。みんなから、よく言われています。

若目田:バランサーですか?

萩原啓:就活生がよく言うところの、「潤滑油」ですね。いかに上のことを咀嚼してまわりに浸透させるかというところと、全体を見る役割もあって。

私は名古屋オフィスの責任者なので、そこでのトラブルを未然に防いだり、のびしろを見つけ出したり。そういったところをいち早く見つけて、全体の生産効率を上げる。そんな役割を担っています。

若目田:ありがとうございます。では、PREVENTの萩原さんはいかがでしょうか。

萩原悠:私の場合は、端的に言うと開発以外のマネジメント全般と、必要に応じてプレイヤーとしての役割を担っていて。基本的にはプレイングマネジャーですね。まだまだ小さい組織なので、今必要なところにリソースを割くというところを意識しています。

弊社の一番の特徴は、スマホやWebのアプリを自社開発していること。なので、社内にそういったアプリの開発をするエンジニアもいれば、実際に病気を持った人に健康づくりを提供する医療従事者もいます。さらには、それを健康保険組合や生命保険会社への導入を促していく営業もいます。

そのように、いろんな役割を持つ尖ったメンバーがいる中で、私は「橋渡し」の役割も担っています。医療従事者もエンジニアも隣り合う席で仕事をしていて、医療従事者の届けたいサービスが、すぐサービスにつなげられる。そこをうまくバランスがとれるようにしています。

ヘルスケア領域での、プロダクトをつくる“コツ”

若目田:ヘルスケアシステムズもPREVENTも、プロダクトを持っています。プロダクトを自社が中心になって開発するのは、すごく難しいことですよね。ヘルスケア領域でのプロダクトをつくる上でのコツや意識していることがあれば、教えてください。

萩原悠:私たちとしては、「脳梗塞や心筋梗塞の再発予防」という課題が最初にあったのが大きいですね。それを病院だけでやっていくには、限界があります。その解決策を考えたところ、「ITを使えば、日本全国どこにいる人にでも届けられる」というところから始まっています。

どちらかというと、困っている人がどこにいて、それに対してどういったサービスを届けられるかという、“Pain”の部分が大事だと思います。

その次に、“Pain”を解決することによって、それを持続可能な仕組みにしていくために、どこから収益を得て継続できるような仕組みを作って行くか。考える。それを実現するためにプロダクトの要件を考えていく。その順番が、私たちにはフィットしたかなという考えです。

若目田:ユーザーの獲得方法としては、愛知県を拠点に進めていくのでしょうか?

萩原悠:ユーザー設定をどう作っていくかに関しては、いろんな切り口があります。そもそも、今BtoBtoCでやっていて、インターネットを介しているので、どこにいてもわりとタッチできます。

間に入る“B”は窓口です。窓口は多ければ多いほど良いのですが、まずは愛知にモデルを作り、そのモデルを今東京やほかの地方に向けて少しずつ発信しているところですね。

若目田:ありがとうございます。ヘルスケアシステムズは、もう10年目ということで、プロダクトを作っている期間が長いですよね。自社でのナレッジやノウハウはたまっている方ではないでしょうか。

萩原啓:そうですね。コツに関しては、2つあると思っています。1つは、ものを“探す”。もう1つは、ものを“売る”というところです。

1つめの「探す」というところでいうと、弊社は、新しいものを探さないようにしています。「温故知新」の精神ですね。

すでに誰かが見つけているけれど、ドロップアウトしてしまったもの。昔はできなかったけれど、今の技術ならできるもの。それらを見つけてくることで、最短化できるんです。ゼロベースで探してくると、時間もお金もかかってしまいます。

2つめの「売る」というところ。プロダクトを作ったとき、多くのベンチャー企業は、自分たちの技術がいかにすごいかというところに焦点を当てています。消費者はそこを求めていなくて。

それよりも、わかりやすく説明して、消費者にいかに知ってもらうかということが、プロダクトを作るコツだと思います。そのために、弊社はデザインやマーケティングに力を入れています。

ニッチな領域の人材採用は難しい?

若目田:プロダクトをつくるためには、人材が必要ですよね。医療という、このニッチな領域で、どのように人材を採用していますか?ヘルスケアシステムズの萩原さんからお願いします。

萩原啓:実はあまり困っていなくて。結構来ますね。

若目田:どういったところからの応募があるのでしょうか?

萩原啓:採用としては、自社サイトはもちろん、Wantedlyやリクルートさんなど、いろんなものを使っています。その中で一番応募が多いのは、自社サイトからです。

弊社の場合は、一番最初に「社長面接」があります。そこで社長が会社紹介をして、情熱を伝えるんです。それに賛同してくれた人は、ぜひ応募してねという形で。そこが一つの“ふるい”というか、社長のお眼鏡に叶うか見極めるというか。応募する方も、会社の理念にすごく近づけるということで、それはすごく評判がいいですね。

若目田:萩原さんも転職で入社されたそうですが、そのときも社長面接だったんですか?

萩原啓:社長面接、1回で終わりました。

(会場笑い)

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若目田:一方で、PREVENTの萩原さんはいかがですか?

萩原悠:めちゃくちゃ困っています!

(会場笑い)

萩原悠:成功の方程式を持っているわけではなく、試行錯誤しながら進めていて。私たちが実現したいビジョンや事業内容に共感してもらえるかどうかを意識して、いろんなアクションをとっています。

病気を持った人に対して提供するというサービスの特徴上、命を扱う事業でもあります。そういったところで、私たちのビジョンに共感できないメンバーとはなかなか働きづらい。事業に対して、誠実な思いを持ってコミットしていきたいというやる気があるかどうかは重要です。

弊社のメンバーもそのような思いでやっているのだと発信していきながら、採用活動を進めています。さいわいにも、今のメンバーはひとりひとりの思いが強くて。強すぎるがゆえにマネジメントも大変なんですけど(笑)。そんな形で、“共感”を軸に進めていけたらと思います。

若目田:ありがとうございます。

医療業界のトレンドと、それに対する会社の動きは?

若目田:では、業界について聞いていきます。いま世間では、ビッグデータやIoTの流れがきています。OICXも、「オープンイノベーション」という文脈で話題になっています。それを踏まえて、医療業界のトレンドと、オープンイノベーションに対する会社の動きについて教えてください。

萩原悠:トレンドに関しては、いくつか大きな流れがあるだろうなと思っていて。まずは、医療制度。これがかなりダイナミックに変わってきています。遠隔診療をはじめ、規制緩和をしていく中で、既存の医療業界を大きく変えて、市場を取っていこうというベンチャーが出てきています。

次に医療自体を良くしていこうというところでは、2つの軸があります。1つは「先端医療」。バイオや遺伝子で、今提供できていないような価値を生み出していく「研究開発型」に特化しているところ。もう一つは、技術はあるけどちゃんと届けられていない…そこをシームレスに整えていくことで価値を生み出すことに特化しているところ。

私たちは、後者で既存のものをより多くの人に、よりシームレスに届けていくところに特化してやっていこうと考えています。

若目田:では、ヘルスケアシステムズの萩原さんお願いします。

萩原啓:医療業界というよりは、“医療よりも前”の方に力を入れているので。みなさんご存知のように、医療費はすごく大きくなっています。「未病」の状態をいかに長くして、病気になる期間をいかに短くするか、それが大事だと思っています。

そのために、国は「機能性表示」を積極的に進めています。機能性表示食品は、モヤシのような生鮮食品にまでおよんでいます。例えば、「これは脂肪を燃焼する効果があります」とか。

ただ、それが本当に全員に効くかというと、そんなことはないと思っています。弊社がやりたいことは、本当に効く人を見つけることです。いろんなデータを取っていき、ビッグデータを使って、誰に効くのかを作っていきたいと考えて、会社として動いています。

名古屋大学を活用するメリットは?

若目田:では、最後の質問です。ベンチャー企業として、名古屋大学を活用するメリットがあれば、一言お願いします。

萩原啓:優秀な学生がたくさんいることです。最近、弊社には名古屋大学の学生が入ってきていて。優秀な学生さんを、名古屋大学から補充できているところにメリットを感じています。

若目田:ありがとうございます。PREVENTの萩原さん、お願いします。

萩原悠:名古屋大学の医学部保健学科のある「大幸キャンパス」は、ナゴヤドーム裏手の、名古屋大学の人でも知らないような場所にあるんです。私たちは、唯一そこから立ち上がった大学発ベンチャー。アットホームな雰囲気があるんだけれども、非常に優秀な研究成果をたくさん出しています。私たちとしては、そういった研究をしっかりと社会に還元する“出口”になっていければと、連携を進めているところです。

参加者からの質問

イベントには、学生から社会人、経営者、企業を考えている方など、さまざまな参加者が集まりました。トーク後は、参加者が複数のグループに分かれてディスカッションし、2人への質問を考えました。その一部をご紹介します。

—ヘルステックは、ほかのIT系の企業と比べて、取り扱う情報がセンシティブ。もし情報が漏えいしてしまったら、会社にとっては致命的です。セキュリティについて何か対策はしていますか?

萩原悠:そのあたりは、かなりシビアに管理しています。弊社はBtoBtoCでやっているので、外部(生命保険会社などのクライアント)からの目線もあります。なので、社内でのルール整備と、それがしっかりと運用されているかを厳しく見ています。このルールを、浸透させて実行させていくのが一番難しいところですね。

萩原啓:プライバシーマークも取って、最低限度のことはもちろんしています。社内のデータベースに関しても、任せきりにせず、作っている会社さんと密に話しています。できるだけ匿名化させるなど、漏れた場合のことを社内でも常に話し合っています。万が一漏れたとしても、個人の名前と住所を紐付けないような形になるように、かつ、データはできるだけ残さない。徹底した管理をしています。

—なぜ、あえて儲からない「未病」の部分に目をつけたのでしょうか?

萩原悠:率直に言うと、やりたいからです。そもそも、起業したい・儲けたいと思って始めたことではないんです。病気になる人を少しでも減らしたくて、予防医学の研究者の道をめざし、大学院まで行って、実際の医療現場に出ました。

現場に出てみると、どれだけ良い論文をたくさん書いたとしても、世の中を変えることは難しい。良い研究を社会に実装していこうというところで、私は起業という選択をして、サービスを始めました。

現在の医療制度は、病気になったものに対して診療報酬点数がついて、処置します。これだけだと幸せになれない人がどうしても出てきてしまう。そこに対して継続的な仕組みにすべくアプローチしていくのが、儲け・ビジネスとしての役割が大きいと考えています。でも、困っている人がいて、難しいと言われているのなら、やりがいもあって喜びもひとしおだろうと思っています。

萩原啓:思いとしては、PREVENTさんと同じです。見方を変えると、確かに今は儲かりません。でも、儲かるところはそれだけ会社がいて、その部分をシェアすることになります。

それに対して、儲からないと思われている「予防」の部分は、儲からないがゆえに、みんな手をつけません。実際に今の市場としては大きくないけれど、これが今後10年20年経てば、大きくなっていくでしょう。

そんな中で、リーディングカンパニーとして厳しいながらもやっていけば、儲からないかもしれないけど、評価はされていくと思います。そういったところを狙っています。なので、儲けはしたいです(笑)。

(会場笑い)

萩原啓:今後、予防に対してお金を払うことが当たり前の世の中になっていけば、自ずと儲かってくるようになるでしょうね。

 

編集部コメント

日本では「ヘルステック」が浸透しておらず、取り組みの遅れている分野と言われています。そこがチャンスでもあり、大きな可能性を秘めています。今回登壇されたヘルスケアシステムズとPREVENTの2社が、リーディングカンパニーとして大きく名をはせるときが来るかもしれませんね。今後の活躍にも期待が高まります。