名古屋市の先進技術社会実証支援事業「Hatch Technology NAGOYA」課題提示型社会実証支援報告レポート|アノルド・メドリッジ・Singular Perturbations等が参加

投稿者: | 2021-03-31

名古屋市では市が提示する行政課題や社会課題の解決策を持つ企業を募集し、その企業が持つ先進技術を活用した社会実証を支援する「Hatch Technology NAGOYA」課題提示型社会実証支援事業を実施しています。2020年9月に全72件の応募の中から、最終的に社会課題2件、行政課題4件の実証プロジェクトが選定され、6つの事業者が取り組むことになりました。

「Hatch Technology NAGOYA」は先進技術の社会実証を支援することで、技術の研究開発や社会実装の促進を目指していくものです。今回はこの「課題提示型社会実証支援事業」において実証プロジェクトを実施した3名の関係者から、自社の技術や市との連携方法についてお伺いしました。

Hatch Technology NAGOYAとは?

Hatch Technology NAGOYAの「Hatch」は「かえす、孵化する」を意味しています。その名の通り、Hatch Technology NAGOYAでは各事業者が持つ先進技術という「卵」を、市と連携して社会実装というかたちで「孵化」させていくことを目指しています。市が事業者に対して行うサポートは主に以下の2つです。

・課題提示型社会実証支援
庁内から集めた行政・社会課題に対して、先進技術を活用した解決策を持つ企業を選定し、実証プロジェクトに対する費用の一部負担や、専門家によるマネジメントなどの支援を実施。

・フィールド活用型社会実証支援
名古屋市及び民間施設等を社会実証のフィールドとして活用するため、場の提供と課題の整理・解決をするネットワークコミュニティ「Hatch Meets」を産官学で立ち上げ、先進技術を有する企業等の提案や実証ニーズを実現。

2021年2月末で各実証プロジェクトの社会実証は終了しており、「Hatch Technology NAGOYA」の公式ウェブサイトから報告レポートを確認することができます。

インタビュー|アノルド株式会社 中川さん

1人目のインタビューは、アノルド株式会社の代表取締役社長である中川さん。同社は、「日本語のわからない市民でも理解しやすい、スムーズな児童手当の申請手続きを構築したい!」という社会課題を解決するために、名古屋市中区役所民生子ども課の窓口でiPadとアプリを使用した社会実証を行っていました。

-中区役所民生子ども課に提供しているアプリについて教えていただけますか。

中川:中川:撮影した写真に外国語などの注釈を追加してタブレット端末で閲覧できるアプリ、「Annold(アノルド)」を中区役所民生子ども課窓口で市民に使用してもらっています。名古屋市中区は外国人住民が多く居住しており、外国人住民比率は全市平均名古屋市中区は外国人住民が多く居住しており、外国人住民比率は全市平均の約3倍となる11.6%となっています。Annoldを使用することで日本語のわからない外国人住民も制度の趣旨を理解して書類の記入ができるようになりました。職員さんにとっても、ひとつひとつの項目を説明する必要がなくなり、負担が軽減されました。

-貴社は東京に本社を構えていますが、なぜHatch Technology NAGOYAに参加しようと考えたのですか。

中川:元々私が愛知県の出身で、名古屋市になじみがあったためです。

-Hatch Technology NAGOYAでは、市からどのようなサポートを受けていますか。

中川:市役所の組織や業務を熟知している事務局が、市役所と私たち事業者との間に入って調整してくださったので、とても助かりました。

-Hatch Technology NAGOYAに参加できてよかったと思うことがあれば教えてください。

中川:普段は話すことのない区役所の職員さんなど、様々な方と協働することができて良かったと感じています。職員さんも熱意を持って仕事をされており、熱い思いが伝わってきました。

-今後の展望は何かありますか。

中川:外国人住民に接する機会が多くある窓口をはじめ多くの自治体や組織にもAnnoldというアプリを普及させたいと思います。

インタビュー|メドリッジ株式会社 益田さん


2人目は、メドリッジ株式会社の代表取締役である益田さんにお答えいただきました。同社は、エンジニアリング技術を医療や医薬研究、ヘルスケアなどのメディカル業界に橋渡しするスタートアップ企業です。Hatch Technology NAGOYAでは「AI・IoTなどのテクノロジーを活用し、ウィズコロナ・アフターコロナの新たな社会を創出!」という社会課題を解決すべく、同社で開発している技術を応用し、新型コロナウイルスをはじめとするウイルス感染症の検査における鼻咽頭の検体採取を、患者への負荷を最小限で実施するためのトレーニングシステムを開発し、システムの評価まで行いました。

-まずは益田さんの来歴とメドリッジ社設立の経緯を教えてください。

益田:メドリッジ社は私が名古屋大学に在籍していた2019年に設立した企業です。私は今東京大学に籍を置いていますが、本社は変わらず名古屋にあります。当社は元々工学部出身者やロボットに詳しい者が集まったエンジニアリング技術集団で、主に医療機器開発や模擬手術ができる実体手術シミュレーションの開発に取り組んでいます。

-Hatch Technology NAGOYAでは、貴社の技術をどのように活かしていますか。

益田:弊社には鼻から内視鏡を入れて脳腫瘍を摘出する手術トレーニングモデルがあります。これを鼻から検体を取り出すPCR検査に応用できるのではないかと考えました。ちょうどコロナにおける社会課題を調べていたところで、検査の偽陰性を無くすために使えるのではないかと推測したのです。現在は名古屋大学医学部附属病院でこの「鼻咽頭スワブ採取トレーニングシステム」の社会実証を進めています。これは解剖学に基づいて作ったものであり、モデル内部にセンサーが入っているため、実用的な効果は高いと言えるでしょう。

-Hatch Technology NAGOYAに参画したことで、何か変化がありましたか。

益田:ものづくりは半年でできるものではなく、社会課題を解決するのはまだまだこれからだと思っています。しかし、開発や実証について自治体と密に連携を図りながら事業を展開できたことは、貴重な経験だと感じています。

-最後にHatch Technology NAGOYAに参加してよかったと思うことを教えてください。

益田:名古屋市内の医療機関や健康福祉局の方とお話しできてよかったと思っています。専門性の高い話は直接コンタクトを取らなければ進まないことが多いので。コロナが少し落ち着いたら、より密なディスカッションをしていきたいですね。

インタビュー|株式会社Singular Perturbations 梶田さん


最後にお伺いしたのは、株式会社Singular Perturbationsの梶田氏です。梶田氏は世界最高精度の犯罪予測アルゴリズムを強みに、国内外の警察・情報機関向けの犯罪予測ソフトウェア「CRIME NABI(クライム ナビ)」を開発している専門家集団のCEOを務めています。政令指定都市のなかで、決して犯罪発生率が低いとはいえない名古屋市では、「犯罪予測による防犯ボランティア活動の最適化日本一安心・安全なまちナゴヤを目指して」を課題に掲げています。この課題解決を目指して、同社がスポーツ市民局地域安全推進課とともに取り組んでいる実証実験について伺いました。

-まずはHatch Technology NAGOYAに参加することになった経緯を教えてください。

梶田:私は元々研究者出身で、総務省管轄である情報通信研究機構の委託研究に採択されて、サービスを開発していました。そのなかで、犯罪予測アプリの「Patrol Community」を足立区にて実験的に導入したところ、巡回パトロール中の犯人検挙につなげることができたのです。当社は名古屋にも会社があり、今回市からは同じアプリを使った実証実験についてお問い合わせをいただきました。

-Hatch Technology NAGOYAではどのようにアプリを活用していますか。

梶田:弊社のアプリは過去の犯罪データや人口密度などの犯罪に関連するデータから今・この場所での犯罪発生率を予測し、最適なパトロール経路をリアルタイムに策定することができます。東京では足立区のみの展開でしたが、名古屋では5つの学区と16区の区役所にアプリを配って、犯罪予測に基づいて算出された経路を徒歩・青色パトカーでパトロールしていただきました。

―Hatch Technology NAGOYAに携わって良かったなと思うことはありますか。

梶田:今回のプロジェクトは名古屋市、ハッチテクノロジーの皆様の力があってこそできたと感じています。市の職員さんから、地域の防犯活動をより効果的に行うために誰にどのように使ってもらうべきかから始まり、イベント開催までご支援いただき、多くの方に広く使っていただくことができました。また、実証の場を多数いただいたことで、名古屋市のユーザーにとってより使いやすくなるのに必要な課題を洗い出すことができ、追加機能として反映することができました。

-Hatch Technology NAGOYAに参加して良かったと思うことを教えてください。

梶田:地域の方と沢山のコミュニケーションの機会をいただいたことで、地域課題の理解が大変進みました。名古屋市の皆様はフィールドの提供だけではなく、誰とどのようなコミュニケーションを取れば良いのかなど、ユーザーの巻き込み方を教えてくれ、本当に勉強になりました。

編集部まとめ

事業内容や社会実証のスタイルは三者三様ですが、皆さん非常に熱い思いを持っていて、「自社の技術で社会課題を解決したい」という気持ちが強く伝わってきました。今の時代の課題に、自分たちが生み出した技術がぴたりとはまって解決されるのは、起業家冥利に尽きるのではないでしょうか。新規事業創出・事業創造・起業・スタートアップにチャレンジしてみたい方は、来年のプログラムにぜひ参加してみてください。