世界見据え起業家精神培う|「世界丸ごとアントレ研修」イベントレポート

投稿者: | 2021-03-30

東海地区の大学による起業家育成プロジェクト「Tongali」の主催により、2021年2月18日(木)~2月28日(日)の11日間にわたって「世界丸ごとアントレ研修」が開催されました。

本記事では同研修の様子を、取材を通じた実際の体験を交えながらお伝えしていきます。

イベント概要

バーチャル海外武者修行「世界丸ごとアントレ研修」は、様々な国のビジネス環境について学び、世界にも通用する競争力の高いビジネスモデルの構築を目指す取組です。
参加費は無料。学生は金銭的な負担無く、思う存分起業や新規事業開発について学ぶことのできる環境が整えられています。

例年実際に、海外でのアントレプレナーシップ研修としておこなわれてきたイベントでしたが、今回新型コロナウイルスの影響から、日本国内での実地とオンラインを掛け合わせた形式での実施へ変更されました。研修の全行程の詳細は以下の通りです。
【前半日程】
オンライン形式 2021年2月18日~20日、22日
名古屋大学東山キャンパス内での講義 2021年2月21日
【後半日程】
西尾市吉良町の三河湾リゾートリンクスにて合宿 2021年2月23日~28日

後半日程の合宿で参加者は、アイデアからビジネスモデルを構築する手法を学ぶ「ベーシックコース」、ビジネスプランをより洗練されたビジネスモデルへと磨き上げる「アドバンストコース」のいずれかを選択し、講義を受けていきます。

プログラムの最終日には海外の投資家に直接プレゼンをする機会も用意されるなど、例年通りとはいかない中でも、非常に充実した内容となりました。

多様な学生同士が交流

今回研修に参加した学生は30名で、参加者の所属や背景は実にさまざまでした。
それは単に学年が異なるというだけではありません。学部生や院生、海外からの留学生など、Tongaliが参加者の対象とする枠は広いことから、多様な学生が一堂に会する機会が生まれました。

「起業」と聞くと新技術の開発や、時代背景的にもデジタルのイメージから理系出身者の領域と思い込んでいる方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際の参加者は文理の枠に囚われません。むしろ文理はきれいに半々の構成比率。例えば、機械工学関連の学科に所属する学生とプログラミングを専攻している学生がチームを組み参加しているケース。はたまた、豊かな留学経験など、語学に力を入れている文系学生達。そして、理系の院生と文系の学部生が組んだチーム、といったように、参加者の性質が偏っていないことにまず驚きました。

そこで、参加された学生の方々に興味が湧き、色々と質問をしてみました。

「参加の経緯を教えてください。」

  • 以前からTongali主催のコンテストに参加していた縁です。
  • 関東の大学所属なのですが、所属大学の起業家育成プロジェクト経由でTongaliを知り、興味をもって応募しました!
  • 「将来は起業をしたいと考えていますか?」

    • まだ決まっていませんが、単純に起業に興味があります!
    • 将来的に起業を考えています!
    • ”会社を起こす”ということに固執するのではなく、企業内で事業開発に携わることも選択肢として考えています。
    • 起業について学ぶことで自分の専攻する分野の知見を広げたいと思いました。

    などなど、
    単なる起業だけではなく、人それぞれ違った目的があり、それに向かうための経験として今回参加した方が多くいました。また、彼らは明確に将来を思い描いていることも特徴で、その内容も聞くだけでワクワクするものばかりでした。

    そういった経緯から今回の取材では、異なる性質を持った参加者が刺激し合いながらも、「起業を学ぶ」という同じ方向に向かって取組む一体感を感じられたのです。

    起業に没頭できる合宿

    筆者は今回、後半日程から研修に同行。合計3日間の取材を通じて体験したその様子を振り返っていきます。

    1.チームビルディング

    合宿初日、一同が向かったのはイオンモール常滑に隣接されたフィールドアスレチック施設。運営側の計らいで、楽しみながら親睦をさらに深めるチームビルディングの機会が用意されていました。

    その中でも特に印象に残ったのが施設の目玉であるアスレチック。ハーネスを装着する程に本格的で、難易度も高いようでした。かなりの高所に喚起される恐怖心や非日常感から、参加者は素に近い状態でのコミュニケーションが促され、より打ち解けた様子でした。
    合宿初日からアトラクションや昼食、自由行動を共にし、終始笑顔で時間を共有する雰囲気の良さが印象に残っています。
    以降5日間寝食を共にする上で、これ以上ない滑り出しとなったことでしょう。

    2.講義

    合宿2日目からは、いよいよ本格的に講義が開始。アメリカの大学にいる講師とビデオをつなげ、起業に必要な知識を実践的に学んでいきます。筆者は今回、アドバンストコースの様子を見学する機会をいただきました。

    講義初日はビジネスアイデアの提案におけるストーリー性の大切さなど、ビジネスモデルをピッチする際の基礎の内容を中心に展開。
    参考映像や具体的な事例紹介を通じて起業へのイメージを膨らませるアプローチがとられました。そして、学生の考えを喚起するような進行や、こまめに質問の時間を設けるなど双方向型の講義がおこなわれました。

    3.最終プレゼンテーション

    合宿最終日、全10日間の行程のまとめとして用意されるのがプレゼンテーションです。
    アドバンストコースでは、練りあげたビジネスモデルを3人の海外投資家に向けてピッチし、フィードバックを得ていきます。
    一方、ベーシックコースでは構築したビジネスアイデアを、オンラインでつなげたシンガポール国立大学の学生の方々や、職員の皆さんに発表し講評を受けます。

    どちらのコースの発表でも、サービス実装後のモデル画面が作られていたことや、料金体系まで具体的に提示されていたことから、サービスが実際に利用されるようになった時の様子をリアルにイメージできました。
    そして何より、基本的なコミュニケーションは全て英語となります。参加者は前日に入念なリハーサルをおこない、研修の集大成である最終プレゼンに臨みました。

    【アドバンストコース】制限時間は7分間、その後13分間質疑応答の時間が設けられ、個人とグループの計5組によるプレゼンテーションとなりました。
    どの組も研修の集大成として、深く作り込まれたビジネスモデルを形にして発表します。

    彼らの発表を簡単に紹介すると、
    1組目:学術専門用語の検索サービス
    2組目:オーディオブックで英語学習に楽しさを提供するサービス
    3組目:鼻を使い入力するハンズフリー入力システム
    4組目:イベントを通じた海外留学生の生活支援サービス
    5組目:家庭菜園を収益化するデリバリーサービス

    というように、非常に興味深いビジネスモデルの数々でした。
    いずれのビジネスプランも、ターゲットや市場の状況、競合、世間のニーズなどの要件が考えられていたことで、投資家の方達からは踏み込んだフィードバックがされていました。
    その中でも投資家の方がアドバイスとして強調していたのは、実地での活動。ターゲットとする人達の元へ実際に聞き込みに行くこと、試作品を使ってもらうことで現場のリアルな声を得ることの重要性を教えてくれました。

    【ベーシックコース】ベーシックコースに参加した学生は3~4人ごとでチームを作り、全5チームそれぞれでアイデアを考案しました。発表の内訳は5分のピッチと、10分のQ&Aです。
    彼らの考案したアイデアを簡単に紹介していきます。

    1組目:若者と高齢者が共同で生活を助け合うためのマッチングツール
    2組目:高校生が勉強仲間を見つけるマッチングサービス
    3組目:日本へ働きに来る外国人をサポートする求人アプリ
    4組目:流通業のフードロスと学生の経済的に困難な環境の、両方を解決するサービス
    5組目:新規に農業を始める人を支援するための、農業経験者とのマッチングサービス

    以上のように、社会問題の解決に目を向けている印象です。
    日々の生活に楽しさや、利便性をもたらすサービスはたくさん登場しています。そんな中で、社会全体が抱える課題に挑戦する姿勢に非常に好感が持てました。実際にビジネスモデルの確立に踏み切るとすれば、真っ先に応援したくなるビジネスアイデアの数々です。

    まとめ

    今回、例年通りの条件で開催が叶わなかった「世界丸ごとアントレ研修」。そんな中でも、研修の運営陣の方々が学生の学びを最優先とした方針を貫いている姿がありました。
    宿泊先のホテル職員の皆さんも、毎日の食事にバリエーションを加え、合宿中に学生が飽きないように工夫を凝らしてくれました。一方の学生側も、プログラムを支える多くの人の貢献に応えるように真剣に取組み、アントレ研修でしか得られない有意義な経験を積めたのではないでしょうか。
    今回の様な取り組みを積み重ねることは、新規事業創出の可能性を広げる将来への投資です。より多くの人が取組みに参画することで一体となって盛り上げていけたら、いつか東海圏から世界へ羽ばたくビジネスモデルが生まれる日もそう遠くないはずです。

    東海発起業家育成プロジェクト「Tongali」

    Tongaliは東海地区5大学(名古屋大学、豊橋技術科学大学、名古屋工業大学、岐阜大学、三重大学)が形成する「東海地区産学連携大学コンソーシアム」を核とし、学部生・大学院生・ポストドクター・教職員・卒業生を対象にした次世代の起業家を育成・支援のプログラムを提供するプロジェクトです。