2022年11月1日、一般社団法人シェアリングエコノミー協会(以下、シェアリングエコノミー協会)の主催により日本最大シェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2022」が開催されました。今回で通算7回を数える同イベントは、「次世代へシェアすること。−先送りしない持続可能な共生社会を −」というテーマの下で行われました。
今回、Nagoya Startup Newsは同イベントのメディアパートナーとして参加。中でも注目を浴びたセッション「NEXTプラットフォーム〜WEB3時代のシェアリングエコノミーの果たす役割〜」にフォーカスし、イベントの模様をお届けしていきます。
文:y0sh1
写真:シェアリングエコノミー協会より
登壇者プロフィール
伊藤 穰一 氏
株式会社デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクト
千葉工業大学変革センター センター長
デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計など様々な課題解決に向けて活動中。2011年〜2019年、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、デジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。クリエイティブコモンズの取締役会長兼最高経営責任者を務め、ニューヨーク・タイムズ、ソニー、Mozilla財団、The Open Source Initiative、ICANN、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。テクノロジー、哲学、建築など幅広い視点からWeb3と社会の関わりについて発信するポッドキャスト「JOI ITO 変革への道」を放映するほか、Web3の変革コミュニティで様々な実験に取り組んでいる。今年6月「テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる」を出版。
佐藤 航陽 氏
株式会社スペースデータ&株式会社レット 代表取締役社長
早稲田大学在学中にIT企業を設立、ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げて世界8ヵ国に展開。2015年に20代で東証マザーズに上場。累計100億円以上の資金調達を実施し、年商200億円以上の企業に成長させる。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業し、衛星データと3DCGを使って地球のデジタルツインを自動生成するAIを開発。2018年に株式会社レットの代表に就任、日本最大の食品ロス削減アプリを運営。米経済誌Forbesの30歳未満のアジアを代表する30人「30 Under 30 Asia」に選出。著書(『お金2.0』『世界2.0』)が累計25万部を突破するベストセラーを獲得。
林 篤志 氏(モデレーター)
Next Commons Lab 代表
Next Commons Labファウンダー。2016年にNext Commons Labを創業し、ポスト資本主義社会を具現化するための「社会OS」をつくっている。自治体・企業・起業家など多様な領域と協業しながら、日本の地方から新たな社会システムの構築を目指す。日本財団特別ソーシャルイノベーターに選出(2016)。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)。新潟県旧山古志村で2021年2月に始めた「電子住民票発行を兼ねたNFT」の発行プロジェクトもプロデュースする。
国家戦略としてのWEB3への考察
冒頭で伊藤氏は、現代の若者文化について、ヒッピー(70年代の反体制的な若者たち)の文化に近いものがあると述べました。例えば戦争や環境問題、中央集権のパワー、資本主義に対する不信など、若者が抱いている疑問や不満は多くあります。そして、このエネルギーはweb3に流れていくのではとの見解を示しました。
ブロックチェーンやメタバースは若者にとってちょうどいいツールであり、新たなカルチャーが生まれる土台になります。一方で、この革命的な意識は国家にも浸透するはずだと考えており、ガバナンスとインセンティブが一貫していれば、民間企業と国は一体化し、市町村が実験台となって非中央集権的な民主主義が生まれると予想できます。中央集権を捨ててリブートできると面白いと話しました。
メタバースの未来予測
メタバースの今後について、佐藤氏は「人間は仮想空間を相対化して捉えるようになるのでは」と考えています。今後生まれてくるメタバースネイティブの人にとっては、仮想空間は世界のひとつとして認識されるはずだという予想です。例として、重力が反転している世界、現実とは全く物理法則の違う世界であっても受け入れられるだろうと話しました。そして、その技術に対する良し悪し、倫理的なジャッジはその時代の人間が考えてくれるだろうとのことで、今は技術の発展に尽力するべきとの意見です。
また、視覚や聴覚のみならず、今後は味覚や嗅覚、触覚までコンピューターでコントロールされるようになるとの考えを話し、ブレインマシーンによる制御で現実世界をリプレイスしていくことについても期待しています。
これを受けて、林氏は、メタバースの空間の中ではSNSのサブアカウントのように、人間のパーソナリティを分割できるかもしれないと述べています。
DAOの活用とシェアリングエコノミー
伊藤氏によると、シェアリングエコノミーの発展の本質はフリーなものをシェアすることです。実際、近年はパブリックなものをシェアする考え方から、民間企業の所有するものをシェアする流れに変わってきました。一方で現状では誰もそれを改善・運用していくことはできず、アクセスコントロールも不可能だとの問題点も指摘しています。それは、クラウドを使っており、大きなデータを置けず、大きなプログラムも書けないからです。
しかし今後はブロックチェーンがパブリックなデータベースとなり、DAOを通して発展していくと期待できます。それにより、全員がペイをもらえる仕組みができるのではないかと話しました。
新たなAIテクノロジーの発展への期待
続いて、新たなAIテクノロジーについて2人が考えを述べました。
シリコンバレーのAIは、最適化を中心としたニューラルネットワークを作っています。しかし伊藤氏は、人間は本来最適化できる存在ではなく、ゴールは状況によって変動するはずだと話しました。今後は、その時その人がやろうとしていることをアシストするAIが、既存のAIをコントロールするようになるのではないかとの考えです。また、非中央集権的なAIの誕生により、様々な意見を組み込んだガバナンスが実行され、多様性のあるマネジメントが行われることを期待しています。
続いて佐藤氏が、今後のインターネットのあり方について語りました。DAO的な仕組みやAIによる自動制御がメタバースに組み合わさり、互いに干渉し合いながら棲み分けをするコミュニティが仮想空間にも生まれるのではないかとの考えです。そのため、次の10年はインターネットの3次元化、分散化、自動化がテーマとなると予想しています。これにより、従来の科学的思考に基づく行動から、逆に宗教や倫理の時代に戻るかもしれないと話しました。
ありのままの複雑さを包含した多様性のある2030年へ
日本は普通の世界を作るために、普通でない人を排除するか、普通に変えてしまう傾向があるーーしかし、世の中の天才の多くは自閉症という現実があると伊藤氏は述べました。一方、障害者が暮らせない日本の社会がメタバースに移行すれば、変わった人たちを世の中にふさわしい形でレバレッジできるとも述べています。AI、ブロックチェーン、メタバースが発展する社会の中で、自閉症の娘と仮想空間で遊べる日が来ることを、伊藤氏は期待しています。複雑で多様なものをそのまま扱ってもらえる理想的な社会へ向けて、新時代の技術の活用が望まれます。
Nagoya Startup Newsでは引き続き、東海支部を中心にシェアリングエコノミー協会の同行を追っていきたい所存です。