これまでNagoyaStartupNewsでは東海地区の大学による起業家育成プロジェクト「Tongali」に携わる経営者・起業家の方々をインタビューさせていただきました。今年度は、「Tongali」を運営している方々に焦点を当て、東海地区5大学のTongali運営事務局を取材します。第3弾は、豊橋技術科学大学です。豊橋技術科学大学でTongaliプロジェクトを担当する土谷徹(つちや とおる)氏にお話をお伺いしました。
Tongaliプロジェクトとは
Tongaliプロジェクトとは、学部生・大学院生を中心に次世代の起業家を育成・支援する多面的なプログラムを提供する団体です。東海地区の大学による協働で運営されており、プロジェクトを通して東海地区の産業の活性化、雇用の創出に貢献するとともに、グローバルなイノベーションエコシステムの構築に取り組んでいます。
豊橋技術科学大学について
愛知県豊橋市に位置する豊橋技術科学大学は、「技術を支える科学の探究によって新たな技術を開発する学問、技術科学の教育・研究」を使命としています。高等専門学校卒業生及び高等学校卒業生等が主な入学者であり、高度な技術と幅広い視野を持った技術者・研究者を育成しています。
プロフィール
土谷 徹(つちや とおる)
豊橋技術科学大学
研究推進アドミニストレーションセンター(RAC)
アントレプレナーシップ推進室 副室長 特定准教授/主任URA
博士(工学)・中小企業診断士
インタビュアー
齋藤 剛(さいとう つよし)
東海エイチアール ディレクター
豊橋技術科学大学はどんな大学?
齋藤:豊橋技術科学大学の特徴を教えてください。
土谷:高等専門学校(高専)はご存知でしょうか。高専は5年制の高等教育機関とされており、簡単にいうと高校と短大が合わさったようなものです。豊橋技術科学大学は、高専出身者が8~9割を占めています。5年制の高専を卒業して大学に編入してくると、大学3年生にあたるので、豊橋技術科学大学は3年生から一気に人数が増えるという特徴があります。
座学が多い他大学と異なり、高専から大学にかけて、「らせん型教育」という、高度な基礎・専門を繰り返して「らせん型」のようにレベルアップしながら積み上げていく教育が行われています。そのため、科学を理解し、技術に関心のある学生を育成し、他大学に負けない技術力をつけています。
専門性が高く、地道にコツコツと積み上げていく内向的な学生が多いので、アントレプレナー関係の活動に参加するような学生はまだ多くありません。社会に出ると、基本的に一人では仕事ができないので、社会人として必要な基礎的な力を養いたいと思っています。
Tongaliプロジェクトの立ち上げについて
齋藤:豊橋技術科学大学でTongaliが立ち上がった経緯について教えてください。
土谷:名古屋大学が主幹校となり、文科省EDGE-NEXTに応募したのがきっかけです。東海地区の国立大学が集まり、豊橋技術科学大学も参画することになりました。前任の担当者が定年退職することになり、私は約3年前からTongaliプロジェクトに携わっています。
2020年4月には豊橋技術科学大学の中でアントレプレナーシップ教育推進室が立ち上がりました。そのタイミングで着任された寺嶋学長にアントレプレナー教育の魅力をお伝えした結果、アントレプレナーシップ教育推進室で学生アルバイトの予算をいただいたり、教育プログラムを他の企業と協働する際にも学長のお力添えをいただき、とても感謝しています。
齋藤:学長様とともにアントレプレナー教育を進めていらっしゃるのですね。Tongaliを通じて、学生にはどんな変化がありましたか。
土谷:2020年、2021年とTongaliのビジネスプランコンテストで受賞する学生が出始めました。特に今年は最優秀賞を受賞した学生が中心となり、スタートアップサークルができました。昨年度はスタートアップウィークエンド(金曜夜から日曜夜まで54時間かけて開催される、スタートアップ体験イベント)を豊橋技術科学大学で開催することになったり、本年度にはイベントの運営側に学生が関わるなど、まだ一部の学生ではありますが積極的に活動するようになったと思います。
起業支援のプログラムに採択され、補助金を勝ち取るなど、大きく前進している学生もいます。
豊橋技術科学大学の活動とは
齋藤:現在の豊橋技術科学大学での活動を教えてください。
土谷:アントレプレナーシップ教育推進室が中心となって、豊橋技術科学大学の学生に足りないスキルを補う講座を開講しています。
「アントレプレナーシップ実践講座」もその一つです。「アントレプレナーシップ実践講座」では、課題発見力やその思考法を教えています。
講座内容の具体例として、例えば「マスクについて調べて欲しい」という問いに対して、材質、価格、特性などあらゆる情報を調査したり、調査方法を考えたりする人もいます。しかし、アントレプレナーシップ教育を受け、その情報を何に使うのか等、上位目的から本質的な問題を探る「課題発見型の思考」を身につけて欲しいと考えています。
マスクについて調べるといっても、目的によって欲しい情報は変わってきます。コロナに有効なマスクは?ビジネスチャンスはあるのか?など目的は様々ですね。
このような課題を学生に考えてもらうことで、ものごとの本質を捉える課題発見力と思考法を養っています。AIやロボットは課題解決力が人間より優れていることもありますが、AIやロボットに課題を与えることができるのは人間しかいません。この講座で、教員には考えていなかった視点が出てくることにはいつも驚かされています。
起業する学生にも、企業に就職する学生にも、アントレプレナーシップは必要なスキルだと思います。Tongaliの教育プログラムを活用しながら、豊橋技術科学大学の学生に足りないスキルを補う講座を開講し、社会に出た学生が活躍できるように願っています。
事務局の魅力・やりがい
齋藤:運営事務局として活動する「魅力」や「やりがい」について教えてください。
土谷:少しずつですが、学生の成長を感じられ、成果が見えてきていることがやりがいですね。
豊橋技術科学大学の学生には、コミュニケーション能力や思考能力などの基礎力が足りていないと感じることがありました。しかし、アントレプレナーシップ教育推進室の取り組みによって、これまでに取り組んできた学生に変化が感じられました。
例えば、昨年「強み発見セミナー」という講座を開講しました。自分の強みを知り、そもそも自分は何をしたいのか、自分と向き合うという内容です。アントレプレナーシップ教育推進室で働くアルバイトの学生にも受講してもらいましたが、四人中二人はコミュニケーションが得意ではないタイプでしたが、自分のやりたいことは何か?自分は何者であるか?を考えることで、就職活動の軸がはっきりしたり、苦手だった面接やプレゼンに自信が持てるようになり、早い段階で希望の就職先から内定をいただけたそうです。
もう一人は、起業にも興味を持つようになりました。自分が取り組んでいる研究を社会実装したいと言っています。自分のやりたいこと・強み・弱みを発見でき、成長した様子をみて、基礎力がついたなと感じますね。
先程の「アントレプレナーシップ実践講座」では、議論が盛り上がり、学生が帰らないこともあるくらい好評です。学生の興味を掘り起こせているなと感じられることも、魅力の一つかもしれません。
齋藤:最後に、この記事を読んでいる学生へのメッセージをお願いします。
土谷:将来に不安を持っている学生は多いと思います。私たちは、社会人になった時に必要な教育をしたいと考えており、将来的にどんなスキルが必要になるのか、学生のうちに何が必要なのかを考えるサポートをしています。起業することに限らず、ぜひ将来に不安のある学生は声をかけてください。
編集部コメント
アントレプレナーシップ教育を受けた学生が自ら運営に携わるという素敵な循環が行われている豊橋技術科学大学。この循環が大学全体に広がり、技術力のみならず課題発見力や高い思考力を持つ学生が徐々に増えていくことが感じられます。よりアントレプレナーシップの重要性を考えさせられるインタビューとなりました。
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