凸版印刷グループとの事業提携・10億円の資金調達・新規事業リリースを同時発表|ユニファ土岐氏が考える「スマート保育園構想」とは?

投稿者: | 2017-12-20

待機児童・保育士不足・睡眠中の事故など、保育現場における諸問題を解決するユニファ株式会社。今年10月に10億円の資金調達や新規事業『るくみー午睡チェック』のリリース、凸版印刷グループのフレーベル館との事業提携など立て続けにリリースを出し続けている、いま注目の名古屋のスタートアップ企業です。今回は、そんなユニファを牽引する代表取締役社長の土岐 泰之氏にインタビューをし、10月のリリースの経緯や彼の考える「スマート保育園構想」について伺ってきました。

プロフィール|土岐 泰之氏

1980年生まれ、福岡県出身。九州大学を卒業後、住友商事に入社し、ベンチャー企業への投資や事業支援を経験する。その後、ローランドベルガー、デロイトトーマツにてコンサルティング業務に従事。妻が仕事と子育ての両立で苦労している姿を見たことがきっかけとなり、「家族」をテーマに2013年にユニファ株式会社を設立。2児の父。

書き起こし:吹原 紗矢佳

『るくみー午睡チェック』は、“園児の眠りを見守る”サービス

若目田:ユニファでは「家族コミュニケーション」というユニークな事業コンセプトを掲げていますよね。10月にローンチした『るくみー午睡チェック』とは、一体どのようなものなのでしょうか。

土岐:一言で表すなら、「園児を見守るIoTサービス」です。保育施設では、元気だった幼児でも睡眠中に突然事故が起きてしまうことが問題になっています。「午睡センサー」を衣服に装着し、アプリと連携することで、1秒でも早く園児の異常に気づいてあげられる。そんなサービスです。

若目田:機能としては非常にシンプルだと思います。既存の商品はなかったのでしょうか?

土岐:類似の商品として、センサー付きのシーツはありました。ただ、それは呼吸が止まったときにアラートが鳴るもので、予防機能としては十分ではありません。『るくみー午睡チェック』は、センサーを使って身体の向きと体動を自動的に記録し、クラウド上にまとめたデータから異常を検知することができます。

若目田:これまでに、園児見守りロボット『MEEBO』やインターネット写真販売システム『るくみーフォト』などを展開されていますね。そんな中で、『るくみー午睡チェック』の開発に至った経緯を教えてください。

土岐:それらの事業を通して見えてきた数多くの保育の現場から、保育士にとって最も深刻で最も重要な課題を解決したいと思ったことがきっかけです。

若目田:これまでの事業で、既に1,800施設という顧客ネットワークを獲得されていますよね。中々早いスピード感だと思います。

土岐:そうですね。ただ、全国には3万施設ほどの保育園があるので、シェアとしては10%もとれていません。これをマーケットとしての30%(1万施設)まで伸ばそうとすると、おそらく10年はかかると思います。

保育士の抱えるさまざまな課題を解決するために、もっと劇的なスピードで、1万施設が使えるようなサービスを作りたい。そこで、より深刻な課題に取り組もうと思ったのです。

若目田:その課題が、園児の睡眠中の事故だったのですね。保育士の方々は、もちろん普段から注意して園児を見ているとは思いますが、今まではどのような対策が取られていたのでしょうか。

土岐:保育士の方は、睡眠中の園児が問題なく睡眠しているかどうかを確認するために、触診したり、口元に手をかざして息をしているかを観察したりして、それを手書きで記録しています。これは作業コストもかかりますし、何よりアナログです。

さらに、睡眠中の事故が起きたときは保育士の残した記録が裁判の資料になることもありますし、ときには現場の責任になってしまうこともあります。このようなこともあり、責任の重さから保育士の免許を所持しながらも、保育士を避けてしまう方もいます。

これは「スマート保育園構想」という形で変革するべきだと強く思いました。その後、解決策となる技術を探り、少しずつ『るくみー午睡チェック』の構想ができてきたという経緯です。

医療機器である『るくみー午睡チェック』を使ってサポートすれば、ドライブレコーダーのように、いつ何が起こったのかが全てデータとして残ります。そして、これを保育園に導入する中で、新しい運用ルールもできるでしょう。それに則っていれば、事故が起きたとしても、保育士や保育園は説明責任を果たせるのです。

若目田:子どもたちの安全だけでなく、保育士の仕事環境も変わり得ますね。

保育士のステータスを上げ、子どもと向き合う時間を

若目田:先ほど話に上がった「スマート保育園構想」とは、どんな構想なのですか?

土岐:簡単に言うと、保育士の仕事が魅力的なものになっていくようにする施策です。連絡帳や体温データなど、保育士の方々はいろんなものを手書きで記録しているのが現状。これらを、IoTのセンサーや動画など、テクノロジーを駆使して効率化していきます。

そうすれば、本業である“子どもと向き合う時間”が増えますよね。子どもが好きで保育士になった方が多いので、本業に集中できる環境が整います。残業時間が減り、しっかりと休憩も取れるようになるので、保育士の負担も軽減されます。

また、保護者の目線で見ると、自分の子供の様子や健康状態、発達状況、どんなことに関心があるのか、どんなことが得意なのか、といったようなデータをデジタル化して、保護者に提供できるようになります。そのデータを家庭での教育管理や健康管理に生かすことも可能です。

そこで生まれたお金を保育園側に還元すれば、保育士の処遇も改善できます。保育士のステータスがどんどん高まっていき、保育業界が活性化していく。そんな流れを作っていきたいというのが、「スマート保育園構想」です。

スマート保育園構想の実現に向けて

若目田:スマート保育園構想は、どの段階で生まれていたのでしょうか?

土岐:もともとの事業コンセプトとして「家族ポータルメディア」を作っていきたいと思っていたので、最初のプロダクト『るくみーフォト』を展開する中で、保育園と家庭を繋げようという程度の考えはありました。そして、実際に保育の現場に関わることで、保育園の抱える問題や業界そのものの歴史の奥深さを知ることになりました。

そんな中で、IoTやAIがどんどん成長し、一方で待機児童など保育園の抱える問題も社会的になってきたのです。そして、私たちが開発するプロダクトのピースと、保育園が求めるピースが合致してきました。あと2~3年で、スマート保育園構想を実現できるだろうと思っています。

若目田:ユニファは過去にも資金調達をしているとお聞きしています。今年10月に資金調達をされたのは、スマート保育園構想の実現に向けてということでしょうか?

土岐:2015年9月にジャフコ様から3億円の資金調達をしたのは、『るくみーフォト』事業を伸ばしていくためのものでした。今回調達したのは、『るくみー午睡チェック』はじめ呼吸センサーや体温計などのヘルスケアIoTを開発し、スマート保育園構想を実現するための新規プロダクトをしっかりと作っていくことが目的です。これにより、保育士不足や保育士の処遇を劇的に改善していきたいと考えています。

スマート保育園構想の実現に向けて、今回『るくみー午睡チェック』の販売を促進するため、株式会社フレーベル館とその親会社である凸版印刷株式会社様との業務提携を行っています。

若目田:フレーベル館・凸版印刷とは、どのようなきっかけがあって業務提携に至ったのでしょうか?

土岐:『るくみーフォト』を展開する中で、フレーベル館に販売代理店となっていただき、協業の実績があったのが理由の一つです。フレーベル館は保育園の商社としては市場で圧倒的な実績を積んでおり、保育園と構築してきた信頼関係が厚いことを知っていました。また、フレーベル館自体もこれから保育園向けのICTにも注力したいという考えを伺っていたことも協業のきっかけにもなりました。

若目田:ユニファのできること、これから注力していきたいところがフレーベル館と一致したということですね。

土岐:そうですね。フレーベル館の社長は凸版印刷の出身ということもあり、ICTなどの最先端テクノロジーには非常に感性の鋭い方です。業務提携をすれば、より強固な販売体制を築けるだろうと思い、契約に至りました。

若目田:今回の10月のリリースを踏まえて、今後強化していきたい部分はどこにありますか?

土岐:私たちが取り組むテーマは、保育園の社会問題に対して解決策を導き出すことです。通常は、社会問題の解決は政治家やNPO団体がやった方がいい場合もあるでしょう。しかし、子育て支援や保育園をスマート化していくことは、スタートアップとして十分に事業が成り立ちますし、社会的意義もあります。

最先端のテクノロジーを駆使することで、グローバルで勝負できるような環境にあると思っていますし、そういう挑戦的な意味で採用も強化していきたいですね。

若目田:グローバル展開も視野に入れられているのですね。

土岐:海外でも、日本と同じように0~2歳の子どもは保育園にいるので、睡眠中の事故などは世界共通の問題としてあります。どの国にどんなプロダクトが必要とされているのか、市場調査すでに開始しています。IoTは競争が激しく流れも早いので、どの競合よりも先を行くスタンスでやっていきたいですね。

編集部コメント

政府は2018年より、保育士の処遇改善に向けて賃金を引き上げることで人材を確保する方針だと表明しています。しかし、賃金を上げるだけが処遇改善ではなく、保育園が抱えるさまざまな問題を根本から解決することが求められています。「スマート保育園構想」の実現が、その大きな助けになるだろうと感じることができるインタビューでした。

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