プラスチックやゴムといった高分子材料の開発は私たちの見えないところで日本のモノづくりを支えています。その高分子材料の受託研究を手がける株式会社DJK(本社:神奈川県横浜市、以下DJK)は、自動車の軽量化のために耐久性の優れた高分子材料の開発や、環境問題への配慮から需要が高まる生分解性プラスチックに関する評価など、新たな高分子材料活用のニーズが期待される企業です。
DJKは2022年、名古屋市内に新たな拠点を開設し、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設「クリエイション・コア名古屋」を卒業する予定です。今回は、入居・卒業企業特集としてDJKの代表取締役・岩井俊憲氏(写真右)と、2020年まで名古屋の事業所に勤めていた材料試験部物性試験課の酒井佑輔氏(写真左)に現在の取り組みや今後の展望についてお話を伺いました。
プロフィール
岩井 俊憲(いわい としのり)
代表取締役
酒井 佑輔(さかい ゆうすけ)
材料試験部物性試験課
インタビュアー
東海エイチアール ディレクター
齋藤 剛
高分子材料の評価・分析から開発までをサポート
齋藤:会社の紹介とお二人のご経歴を教えてください。
岩井:DJKは、高分子材料といわれるプラスチックやゴムの研究開発に携わるお客様を支援する会社です。お客様が高分子に関わる製品や部品を開発する中で、自社ではできない材料の評価や分析を弊社がサポートしています。また、プラスチックを構成するモノマーという高分子化合物の改質や探索など、材料そのものの研究も行う珍しい会社であります。
1964年に前身の株式会社大日本樹脂研究所として設立し、60年ほどの歴史がある会社です。名古屋については、2014年10月に横浜と千葉に続く3つ目のラボとして、ここクリエイション・コア名古屋に「名古屋ラボラトリーズ」を立ち上げました。
私自身は、大手電機メーカーで主に半導体デバイスの研究に従事していたところ、リーマンショックでレイオフ(一時解雇)されまして、先代から続くこの会社を手伝うため、10年ほど前に入社しました。
酒井:私は大学院を卒業して5年前に入社しました。名古屋には3年ほどいて、2020年4月に千葉テクニカルセンターへ異動になりました。名古屋では主に物性試験を担当し、機械物性と呼ばれる、引張や曲げ試験などの基本的な物性試験を主に行っています。
齋藤:高分子材料の研究開発支援サービスの提供という特殊な事業ですが、社会にどのように役立っていますか。
岩井:高分子材料のなかで、プラスチックとゴムの研究開発がメインになります。名古屋では自動車のマーケットが最も大きく、「名古屋ラボラトリーズ」を開所した当時は、今では当たり前になっているEV(電気自動車)を製造する上で、自動車部品の一部を金属からプラスチックに変える動きや、自動車の軽量化が図れるように新しいプラスチックを開発する流れがありました。
そのため、少し前までは自動車製造に使うパーツの材料開発の仕事が多くありました。例えば、金属をプラスチックにそのまま変えるのでは安全性が落ちますので、難燃性を持たせて、中に繊維状のものを入れ、強くした材料を開発し評価する、といったことを行います。
一方で、ハイブリッド車に関しても、プラスチックを用いた部品にガソリンタンクがあり、浸漬試験(液体につけひたして持続性を調べる試験)や耐久性試験(製品の強度を測る試験)などを行っています。ガソリンタンクは歪な形状をしているため、さまざまな箇所を切り取り、評価試験をすることもあります。
5年で黒字化を達成、名古屋に新たな拠点建設へ
齋藤:今後どのような事業展開を考えているのか教えてください。
岩井:まず、名古屋では守山区に土地を確保し、ラボを立ち上げる構想があります。ありがたいことにこの5年間で、事業所単独で黒字になり、これで綺麗にクリエイション・コア名古屋を卒業できると思います。まずはラボを立ち上げて、そこで売り上げを増強していきたいと思っています。
同時に2022年7月にも横浜市内に3つ目のラボが立ち上がります。そこでは、50年前の大日本樹脂研究所が行ってきた営業スタイルを展開したいと考えています。基本的には試作から評価を行いますが、研究支援サービスを強化するため、新しい材料の研究をお客様と一緒に取り組む予定です。名古屋の中盤から立ち上げに貢献してくれた酒井くんには、横浜の新しいラボへ異動し協力していただこうと考えています。
齋藤:事業展開を進めていく中で酒井さんが期待していることはなんですか。
酒井:学生時代に有機合成と呼ばれる新しい材料を合成する研究をしていたので、横浜ではそれに近い有機合成の研究をすると考えています。モノマー材料だけでなくポリマーという高分子材料を作っていくということで、不安はありつつ、楽しみでもあります。お客様から材料をもらって試験すると同時に、その材料をどうやって作っているのかを知ることで、よりお客様と近づく仕事ができるのではないかと期待しています。
自動車産業が盛んな東海地方で研究開発に役立つサービスを提供
齋藤:クリエイション・コア名古屋に拠点を置こうと思われた理由を教えてください。
岩井 :名古屋の事業所は私と従業員2人の計3人で立ち上げました。当時は横浜と千葉にしか事業所がなく、展示会に出ると毎回「西日本に支店はないですか?」というありがたい声をいただきました。トヨタ自動車の近くに事業所をおいてほしい、という要望もかなりありました。リーマンショックで大変な時期でしたが開発の手は止められないため、勢いがある時に、と思い名古屋に拠点を立ち上げました。
立ち上げ当初は資金が不十分だったため事業や資金繰りに苦労しました。ゼロから立ち上げようとすると、土地、建物、装置と結構なコストがかかります。しかし、クリエイション・コア名古屋に入居する際の負担は賃貸料だけで済み、大変助かりました。名古屋に拠点を持つようになり、東海地方のお客様も徐々に増えています。
関西に置く案もありましたが、関西は元々ゴムやセルロイドの開発で事業が立ち上がっているところや、公的研究機関が多く寡占状態でした。こうした事情もあり、名古屋を選択しました。
齋藤:クリエイション・コア名古屋に設立した事業所「名古屋ラボラトリーズ」では、どのような事業をされていますか?
酒井:超臨界流体を材料に入れて成形する「MuCell®(微細発泡射出成形)」という方法があります。これは発泡剤として超臨界流体を用いて、溶解した樹脂に高圧下で超臨界流体を混合させ微細な発砲セルを均一に生成したプラスチック製品を成形します。DJKではその評価試験の受託などを行っています。
岩井:名古屋にも規模は小さいですが、材料を混ぜて作り、それを評価するという基本的なサービスを用意しています。
齋藤:これからクリエイション・コア名古屋に入居を検討している企業に一言お願いします。
岩井:入居のメリットとしては、圧倒的なランニングコストの軽減です。尚且つ、研究室そのものがアレンジできるのは大きいです。当然、退去する際に元に戻す必要はありますが、配管を通したり、さまざまなガスを外から持ってきたり、カスタマイズができます。弊社は電力を多く使うため、外に小さい変電所を置き、地下を通して電気を供給しています。こうした自由度が高いところは、おそらくクリエイション・コア名古屋ならではだと思います。
また、施設自体の知名度もあります。産業技術総合研究所中部センターの隣で、約20年ほどの歴史もありますので、エンジニアの方で知っている方は多く、お客様としても場所が分かりやすく助かっています。
新型コロナウイルスの影響で最近はできませんが、入居している会社間の交流もありました。時には会社間で受発注することや、困りごとを相談することもあります。
また、産学連携型創生教育の授業の一環として中部大学の学生を実習生として受け入れを行ったことは、若いスタッフにも良い刺激となりました。トータルコストは抑え、柔軟な対応で自由度は高く、なおかつメジャーな施設として活用いただけたらと思います。
編集部コメント
研究開発事業はどうしても初期投資がかかり、拡大戦略はハードルが高いように感じます。しかし、DJKではクリエイション・コア名古屋を有効活用することでコストを抑えつつ、顧客のニーズに応える体制を構築し事業拡大を成功させました。インタビューを通じてプラスチックやゴムが暮らしを便利にするにはまだまだ技術の進展がありそうです。環境問題とも密接に関わっており非常に関心が高い分野だと感じました。
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