自分の身体を見える化することで、生活習慣のミスマッチをゼロにする。株式会社ヘルスケアシステムズ(本社:名古屋市昭和区。以下、ヘルスケアシステムズ)は、名古屋大学発のベンチャー企業として、これまでの研究成果を活かした郵送検査キットを開発し、誰でも簡単に健康状態が調べられるサービスを提供しています。
今回は名古屋医工連携インキュベータ「NALIC(ナリック)」の入居・卒業企業特集として、ヘルスケアシステムズ代表取締役の瀧本陽介氏へインタビューを実施。同社は事業拡大に伴い、会社設立時から12年間入居していたNALICを2021年7月に卒業し、本社オフィスならびに研究施設を名古屋市昭和区に移転しました。自分にあった生活習慣を知ることで、健康意識を変えようとする同社の取り組みについてお話を伺いました。
プロフィール
瀧本 陽介(たきもと ようすけ)
三重県松阪市出身。ヘルスケアシステムズの共同創業者で代表取締役。
インタビュアー
東海エイチアール ディレクター
齋藤 剛
「カラダのものさし」を使って一人ひとりに合った健康プランの提供を目指す
齋藤:まず、瀧本社長のご経歴を教えてください。
瀧本:大学・大学院で熱帯生態学を専攻していました。研究者を志し博士課程まで進んだのですが、自分の将来を悩んだ結果中途退学しました。その後、ニートのような暮らしも経験しましたが、27歳で三重大学発のベンチャーに入社しました。そこでは、臨床試験の運営から、営業、統計解析、メディカルライティング、経理まで、幅広く経験させてもらい、会社というものの構造を知ることができました。
そのベンチャーを退職した時に、機能性食品研究の第一人者である大澤俊彦先生(現・名古屋大学名誉教授)から、大学発ベンチャーを立ち上げる計画があるので、参画しないかと声をかけていただき、社長候補として手を上げました。その会社こそヘルスケアシステムズで、立ち上げて今、13期目になります。
齋藤:次にヘルスケアシステムズのご紹介をお願いいたします。
瀧本:ヘルスケアシステムズでは、言わば「カラダのものさし」のような未病領域に特化した郵送検査事業を行っています。自宅で採取した尿や唾液などの検体を郵送してもらい、それを当社の検査センターで分析して、身体の状態を可視化します。
「身体はさびていないか?」「タンパク質は足りているか?」「塩を摂りすぎていないか?」「胃にピロリ菌はいるのか?」「免疫状態はどうか?」などが分かる検査サービスです。
ECサイトや全国の薬局やドラッグストアのほか、医療機関(まちのクリニックから大学附属病院まで)、さらには、健康診断のオプション、健保組合、生協、厚生労働省の大規模実証調査、大学の研究などでも活用いただいています。
4年に及ぶ苦難の日々に転機をもたらした「ソイチェック」
齋藤:起業から12年が経ちましたが、会社を進めていくうえで印象的だった出来事や、当時苦しかった出来事を教えてください。
瀧本:創業当初は検査技術の開発段階だったため、売上を立てる手段がありませんでした。運転資金も乏しくて、ニュージーランドからカシスを輸入したり、キノコを食品原料として販売したり、大学や食品企業から小さな実験を受託したりして何とか食いつないでいました。
ベンチャーを取り巻く環境も今とは違い、スタートアップ向けのセミナーや情報も少なく、私自身も事業計画や資本政策について何もわかっていませんでした。そんな不安定な状況でしたので、創業時に参画してくれた数人の社員も次第に辞めることとなり、先の見えないとても辛い時期でした。
齋藤:立ち上げ当初は苦労しつつも、12年続けられた要因はなんでしょうか。
瀧本:このような機会を与えてくださった大澤先生の期待に報いたい、という思いが大きかったですね。
そんな時にNHKの番組で、豆乳の特集が放送されました。女性の美しさや若々しさを手助けする大豆イソフラボンの機能には個人差があって、それは身体でエクオールという物質を作れるかどうかがカギを握っている、ということが紹介されました。そして、その番組を見た何人かの視聴者が、当社のホームページの情報を見て、「私もエクオールの検査ができないか」と問い合わせしてくれたのです。
これまで一般の方からお電話をいただくことはありませんでしたので、「もしかしたらこの検査はニーズがあるんじゃないか」と興奮しました。
当時商品化を予定していた検査キットから、開発の優先順を変えて、当社初の郵送検査キットとして、尿中エクオールキット「ソイチェック」の販売を始めました。食べた大豆から腸内細菌によってエクオールが作れる人は、大豆イソフラボンの健康効果を効率的に得ることができますが、この腸内細菌を持っているのは日本人の約40%しかいません。自分が十分な量のエクオールを作れているかどうかを、簡単に調べることができる検査サービスとして展開しました。
創業期を支えてくれたインキュベーション施設
齋藤:創業から今年7月まで「NALIC」に入居されていましたが、「NALIC」に入居してよかったことはなんですか。
瀧本:創業までは名古屋大学のインキュベーション施設に入居していましたが、当時は大学内で法人登記ができなかったため、移転先を探していました。血液や尿など検体の分析をしますので、普通のビルだと入居が難しく、家賃にも悩みました。「NALIC」は当社のようなバイオ系のスタートアップのための設備が整っていて、さらに名古屋市の家賃補助が助けとなり、30㎡の一番小さい部屋を借りました。
成長速度が変化しやすいスタートアップ企業にとって、インキュベーション施設の大きな魅力は、状況に応じて部屋を1つ1つ増やせることです。うまく空室があれば隣り合う部屋にすることもでき、開発効率を落とすことなく増床できるのはインキュベーション施設ならではのメリットでした。また、安全講習会もあり、実験で使用する危険物の管理方法を学べます。少人数のベンチャー企業にとってはビジネスマナー講習会などのサポートがあるのも有難いと思います。
そんな居心地のよい「NALIC」を今年7月で卒業しました。そろそろ卒業すべき時期にきたという自覚もあり、「NALIC」で創業をして、成長して卒業する、というロールモデルに当社がなりたいとも考えていました。
齋藤:NALICのようにスタートアップ企業やオープンイノベーションを支える環境が名古屋にも増えてきているように思います。
瀧本:そうですね。この数年でスタートアップにとっての環境がとても整ってきたと感じています。「Tongaliプロジェクト」「J-Startup CENTRAL」のような起業家・スタートアップ育成プログラムが行われたり、名古屋大学認定のベンチャー企業が60社以上もあったりしますので、これらのコミュニティを使ってお互いに相談もできます。スタートアップ同士の繋がりで、資金調達を経験した先輩の話を聞けるのはとてもいいと思います。
しかし、いい環境に変わってきている一方で、もしかしたら起業家は汗をかく努力を怠っているかもしれません。アイデアと事業計画書で資金調達できる機会が増えた一方で、本当に事業計画を実現し、稼げる力がなければ事業は存続しません。経営者はしっかりと売り上げを立て、雇用を増やし、次の事業のために資金を再投資していくことが大切です。環境が整うことは歓迎すべきですが、我々起業家はそこに甘えすぎてはいけないと思っています。
齋藤:これから「NALIC」に入居を検討している方々にアドバイスをお願いします。
瀧本:「NALIC」に入居する経営者に伝えたいことは、周囲の意見に振り回されることなく、しっかりと自分で考え抜いて、その想いを信じて突き進んでほしいということです。諦めることなく、投げ出さずに、自分がこうありたいと考えたことをやり遂げるのが大切だと考えています。それで失敗したら全ては自分の責任です。あの人の意見を聞いたから間違った、失敗した、というのは経営者ではありません。意見を拝聴することは大事ですが、自分で決める強い心を持ってほしいと思います。
齋藤:今日はありがとうございました。
編集部コメント
インタビュー当日は、NALICのスタッフの方々もお越しくださり、瀧本社長を交えて思い出話に花咲かせる場面もありました。立ち上げ時期の苦労がひしひしと感じられ、乗り越えたからこそ今はなんだって挑戦しようとする瀧本社長のいきいきとした話し方・姿勢に私自身も心揺さぶられました。「人々が健康を考え、行動に変えてほしい」と願うヘルスケアシステムズ。今後の活躍が期待されます。
入居検討者の方に向けて
名古屋医工連携インキュベータ NALICでは、入居企業を募集しています。ご興味のある方は、下記のリンクからぜひお問い合わせください。
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▼株式会社フレンドマイクローブ
▼株式会社ペルセウスプロテオミクス
▼株式会社HACHIX
Nagoya Startup Newsでは、名古屋を中心に東海圏におけるベンチャー企業や新技術に関連するニュースを配信しています。東海圏には今回紹介したヘルスケアシステムズのように、医療・バイオなどに強みを持つ注目のベンチャー企業が多く本社を置いています。東海発の新技術やベンチャー企業に興味のある方は、以下の関連記事も併せてご覧下さい。