粉体物測定ソリューション事業を展開する株式会社ナノシーズ(本社:名古屋市西区。以下、ナノシーズ)は、粉体技術を使って、薬の在り方を変えようと取り組んでいます。同社は、産業技術総合研究所発のベンチャー企業として、粉の流動性や機能性などを評価する測定装置を開発し、粉体の可能性を広げるサービスを展開しています。
今回は名古屋医工連携インキュベータ「NALIC(ナリック)」の入居・卒業企業特集として、株式会社ナノシーズ代表取締役の 島田 泰拓(しまだ やすひろ)氏へのインタビューを実施。粉体技術を使って、オンデマンド医療を叶える取り組みについてお話をお伺いしました。
プロフィール
島田 泰拓(しまだ やすひろ)
国立研究開発法人産業総合研究所の元研究員。株式会社ナノシーズの代表取締役。
インタビュアー
齋藤 剛(さいとう つよし)
東海エイチアール株式会社 ディレクター
ニッチな粉体の計測の領域で、身近な生活を支える
齋藤:粉体計測の分野でご起業される方は珍しいですよね。起業するまでの経緯を教えてもらってもいいですか?
島田:元々大学で研究していたテーマが粉体(ふんたい)だったんです。特に粉の力学的要素について研究していました。例えば、コーヒーやココアの粉末には、溶けやすいものと溶けにくいものがあります。溶けにくく固まってしまうと、非常に困りますよね。そのような粉の分散特性や流動性についての研究です。
大学卒業後は、国の研究開発法人である産業技術総合研究所(産総研)の研究員をしていました。2005年に国がベンチャー企業を支援する政策を打ち出し、その一貫で立ち上げた会社がナノシーズです。ナノシーズは、産総研が支援するベンチャー企業となりました。
事業内容としては、自社開発の粉体計測装置を使って受託測定を行う他、装置の販売をしています。他にも、測定結果をもとにコンサルティングや共同研究なども請けています。
齋藤:計測対象にはどのようなものがあるのでしょうか。
島田:例えば、電池も元は粉からできています。その粉体に使われている材料の計測や評価を行っています。窒素や酸素の濃度を測る計測機械はよくありますが、ナノシーズの計測器は計測器の中でもすごくニッチです。そのため、引き合いは多いですね。
粉体技術は、実はとても身近なもの
齋藤:もし、その装置が無かったらどういったトラブルが起こると予想しますか?
島田:スティックコーヒーの工場をイメージしてみてください。その工場では、1日にものすごい量の粉を計量しますよね。もし粉の流れが悪かったら、スティックに15g入れたいところを、15gちょうど入れることが難しくなります。また、高速な製造もできません。
企業で取り扱っている粉体の多くは、流動性や力学的特性を調べて工夫をしています。そのため、早く流れて高速に計量できるようになっているのです。流動性が良くないと、生産性が落ち、人件費が高くなります。粉の付着性が強くて流れが悪いと、機械が詰まってしまうトラブルも起こるでしょう。
目には見えないところで、実は粉体の技術は様々なシーンで使用されています。流動性を改善し、使いやすさを確保するにはどうしたらいいのかをよくご相談頂きます。
現在は医薬品、トナー関連、半導体、化粧品、自動車と幅広い業界の企業様とお取引させて頂いています。
齋藤:自動車業界でも粉体技術の活用シーンがあるのですね。この地域でも需要が大きいのではないでしょうか。
島田:前述したように、電池は粉から出来ています。車の車載用電池は、粉体技術の結晶です。リチウムイオンを介して電子をやり取りして電流が流れる仕組みで、イオンや電力を保管しておく場所等の材料に粉体が使われています。その材料をいかに適正に製造できるかをナノシーズは研究しています。
モーターも粉体が使われています。モーターに使われる磁石には磁性粉体が使用されていて、その評価の需要が非常に多く、車が走るためには粉体技術が必要不可欠といえるでしょう。
齋藤:医療品分野だと、どのような取り組みをしていますか?
島田:医薬品の錠剤を3Dプリンターで造形し、いわゆるオンデマンド医療を進めていきたいと考えています。NALICに入居したのも、これが理由です。現在、岐阜薬科大学様と一緒に研究を進めているところです。薬学のプロである岐阜薬科大学様と、粉末材料評価のプロのナノシーズがコラボレーションすることで、一人一人に合ったオーダーメイドの錠剤を製剤し、医療現場を活性化したいと考えています。現在、世界中の薬学部で同様の研究が始まっています。
粉体層のせん断力がわかる”NS シリーズ”
齋藤:粉体の計測は自社製品で行っているとお聞きしました。どのような製品になっているのでしょうか。
島田:粉体材料の物理的特性を測る評価装置になっています。トナー1粒(3μ-5μほど)の小さい粒子から評価できます。
粉体層のせん断力を測定するならNS-Sシリーズ、微小な粉体の圧壊力を測定するならNS-Aシリーズ…のように、計測したい評価によって測定装置を変えています。
受託計測は、お客様からサンプルをお預かりし、測定して報告書を出荷するまでを請け負っています。場合によっては計測機器の販売もしています。
データの見方がわからない場合や技術的な悩み事をご相談いただいた際には、コンサルティングや測定装置のレンタルも可能です。
今後は測定内容を更に多角化、時代と共に自らの技術をブラッシュアップ
齋藤:16年間粉体計測の領域で事業を行ってきて、意識していることはありますか。
島田:測定できる内容を1つだけに絞らず、幅広い測定ニーズに対応できる応用力を磨いています。研究開発事業は、日本の経済状況に大きく左右されます。コロナ禍では大きな影響を受けました。現在では毎年40社ほどお客様が増えており、リピートして頂く機会も多くなりました。受託測定を行う拠点も増やしています。
齋藤:今後、粉体技術を活かしてどのように事業を伸ばしていきたいと考えていますか。
島田:技術革新のスピードは確実に速くなっています。粉体技術の現場も、時代に合わせてどんどん先進的な技術が求められるようになりました。研究開発をする企業として、自分たちも事業や技術の学び直しをする必要があると感じています。現在だと、マイクロ粒子よりさらに小さいナノ粒子に対しての評価や機能性が求められています。そういった粒子に対しての評価や研究、技術的なキャッチアップを積極的に行っていきます。
医薬品の錠剤を3Dプリンターで造形する取り組みも、私たちのチャレンジの一貫です。なかなか先行き大変だと思いますが、得意な粉体技術を活用して世の中にない新しい付加価値を生み出していくような会社でありたいと考えています。
齋藤:これから「NALIC」に入居を検討している方々にアドバイスをお願いします。
島田:NALICのIM(インキュベーションマネージャー)の方々は非常に良い方です。私たちのニーズに前向きに向き合って頂けます。コロナ以前は交流会の機会も多かったようですので、これからコロナが落ち着いてきたときにどのようなご縁があるのか楽しみにしています。
施設も充実しており、私自身はとても満足しています。ストレスのない環境で集中して技術開発に取り組みたい経営者には最適な環境だと思います。
齋藤:ありがとうございました!
編集部コメント
ニッチな粉体計測が、実は私たちの生活にとっても身近な存在であること、その技術をリードする企業が地元にあることを知れた良い取材になりました。ナノシーズの今後の取り組みに期待が高まります。
入居検討者の方に向けて
名古屋医工連携インキュベータ NALICでは、入居企業を募集しています。ご興味のある方は、下記のリンクからぜひお問い合わせください。
NALIC HP:https://www.smrj.go.jp/incubation/nalic/index.html
▼3Dバーチャル内覧システム:吹き出しの解説付きでNALIC館内をご内覧いただけます。
https://my.matterport.com/show/?m=RVaeWKz9qnW
▼お問い合わせフォーム
https://www.smrj.go.jp/contact/nalic/index.php
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