#クリエイション・コア名古屋特集|カーボンナノチューブを活用した表面処理技術「CAST」で、日本発の新しい省エネ技術を|株式会社山一ハガネ

投稿者: | 2023-12-05

来たる2050年脱炭素社会実現に向けて、グローバル規模で省エネ技術の開発に取り組む企業が増加しています。各社がしのぎを削る中、老舗ものづくり企業の株式会社山一ハガネ(本社:名古屋市、以下:山一ハガネ)が開発する、カーボンナノチューブを用いた新しい表面処理技術「CAST(Carbon-nanotube Added Surface Treatment)」が、今まさに注目を集めています。

今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設「クリエイション・コア名古屋」の入居企業特集として、技術開発グループCAST事業セクション マネージャーの田島氏を取材。新規事業発足の背景やその技術について、お話を伺いました。

プロフィール

田島 秀春(たじま ひではる)
株式会社山一ハガネ技術開発グループCAST事業セクション マネージャー。シャープ、メッキ加工業者での研究職を経て、山一ハガネへ入社。入社後はCAST事業セクションの拠点立ち上げや組織づくり、論文発表など、研究職の枠に囚われず社内起業家として事業化推進を行う。

チャレンジングな社風が、一人の研究者の心を奮い立たせる

ー まずはじめに、山一ハガネとはどんな会社なのでしょうか。

田島:もともとは、エンジンの金型などに使う特殊鋼の卸売業をしていた会社なんですよ。昭和2年創業と歴史ある会社です。

ー 公式HPを見ていると、老舗の企業とは思えないくらい、新しい取り組みをたくさんしていますよね。

田島:ありがとうございます。現社長の寺西を中心に、アグレッシブに新しい事業に挑戦する社風なんです。例えば、2016年からスタートした多品種少量生産に対応するアディティブマニュファクチャリング事業部。これまでの山一ハガネの強みを生かしつつも、時代のニーズを捉えている新規事業と言えます。他には、名立たる日本を代表するフィギュアスケート選手にも採用されているスケート靴のブレード「YS BLADES」や、キャンプ好きのための究極の焚き火台「HITAKI」などの自社製品開発も行っています。私が担当しているCAST事業セクションも、山一ハガネの新しい取り組みの一つなのです。

ー とてもいい社風ですね。CAST事業セクションを設立した背景について教えて下さい。

田島:元々前職で、カーボンナノチューブの分散液をとある業者が私に見せてくれたところからアイディアがスタートしました。当時からカーボンナノチューブの技術には注目していましたが、分散液は当時珍しかったんです。自分が研究していた省エネ技術と結びついて、「この分散液を使って新しい省エネ技術を開発できるかもしれない!」と思ったのです。しかしながら、当時在職していた会社では企画の実現が難しく、半ば諦めかけていました。

そんな折に、いま一緒にCAST事業セクションで仕事しているメンバーに声をかけられ、寺西と現取締役の小栗の二人と会う機会がありました。私は夢中になって、頭の中にあるプランをプレゼンしました。寺西と小栗は、「いいね、やろうよ」と即答でした。こうして山一ハガネでCAST事業セクションを発足するに至ったのです。

ー 素敵な出会いですね。CAST事業セクションは、田島さん持ち込み企画だったんですね。

田島:山一ハガネの社風だからこそ、この技術が実現できたと考えています。私のような技術者にとっては、非常に良い機会に恵まれました。

エアコンの消費電力を約3%削減、処理工程も非常にシンプル

ー CASTはどのようなシーンで有効的な技術なのでしょうか。

田島:実際に、デモをしながらお見せしていきたいと思います。ここに空調機(エアコン)に使われるアルミ製熱交換フィンがあります。片方はCAST済みのもの、もう片方は未処理のものです。簡単に言うと、CASTしたものは熱伝達率が15%高いことに加えて、結露による水滴を効率的に滑落させることができるため、冷却効率が向上し、消費電力を3%も削減できるようになります。

この技術は特許登録も受け、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「2022年度「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」の追加公募」に採択されています。

ー 1℃近く差が出るんですね。電力の必要量も減らすことができますよね。

田島:そうなんです。しかも、CASTには複雑な工程がありません。処理液が入った槽に熱交換フィンを沈めて、電気を通電させて処理するだけなのです。具体的には、処理液に分散されているカーボンナノチューブを用いて、湿式処理でナノレベルの微細凹凸を形成しています。

従来のコーティング技術と比較しても、濡れ性制御や流動抵抗低減、放熱性向上といった特性を、低コストで付与できることが魅力です。もちろん、ある程度特殊な知見は必要なのですが、ノウハウさえ伝えればどの国でも実現できる技術だと信じています。

NEDOのHPで公開されている採択テーマを紹介するCASTに関する資料では、2040年までに国内にあるエアコンの熱交換フィンのうち6割をCASTすることができれば、年間で約21.5万キロリットル(原油換算)の省エネ効果量を期待できるとしています。

<エアコン(暖房)の消費電力を削減できる!!奇跡の省エネ技術「CAST」・・・山一ハガネHPより>

日本発の新しい省エネ技術を磨き上げるためにも、クリエイション・コア名古屋は重要な開発拠点

ー 効果量が見込めて、かつ再現性もある。CASTは事業としても非常に魅力的だと感じました。今後はどのように事業展開していく予定ですか?

田島:技術ライセンスと処理液を販売するビジネスモデルでの展開を考えています。ここもすごくこだわっているポイントです。工場を拡大していく形での製品づくりにおいて、国際競走で日本は勝ちにくい時代となりました。欧米のものづくり企業は、生産力よりも企画力を磨くことにシフトしています。自分も技術者の端くれとして、日本のものづくりの強みを、「製品づくり」から『技術づくり』に転換する一端を担いたいと考えています。

ー 最後に質問です。より一層、技術を磨き上げることに注力する必要がある中で、クリエイション・コア名古屋をどのように利用していきたいですか?

田島:CASTの工程では、電気を通電させて処理するため、大きな電力装置を設置する必要がありました。通常の工場物件では、設備投資の時間や費用が多くかかりますが、クリエイション・コア名古屋ではそのコストを非常に抑えることができました。おかげで、研究拠点立ち上げをスムーズに進めることができ、いち早くアイディアを実現することができたと感じています。

また、私たちの技術を理解した上で、必要な機関を紹介していただけるIM室も欠かせない存在です。助成金の取得や、技術提携先の開拓については、中小機構のネットワークをフル活用しております。研究者が事業化を推進するにあたり、欠かせない拠点となっています。

ー クリエイション・コア名古屋としても、山一ハガネさんは今後益々応援しがいのある会社になりそうですね!ありがとうございました。

編集部コメント

田島さんの研究者としての熱い想いと、山一ハガネのチャレンジングな企業姿勢が産んだCAST事業セクション。グローバルで戦える日本発の省エネ技術を生み出す拠点として、クリエイション・コア名古屋をフル活用している事例をお伺いすることができました。今後の同社の活躍に期待です。

▼山一ハガネ 会社HPはこちら
https://yamaichi-hagane.jp/

▼CAST紹介ページ
https://yamaichi-hagane.jp/businesscontent/cast/

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